モノの見方を変えるトレーニングの授業[こんな先生に教えてほしい]

毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。
小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。そのなかで、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。


「モノの見方を変える」ことは、子どもたちの学習を持続させるためにも、さまざまな価値観を身に付けるためにも重要です。
今回、紹介する授業は、「モノの見方を変える」トレーニングの授業です。

千葉県の高校のv先生の担当は、日本史。授業を受けるのは3年生です。
授業は、まずv先生が「1枚の写真」を見せることから始まります。そこには、縄文時代の貝塚で見つかった頭、胴体、足などすべてが残っている体長50cmほどの犬の骨が写っています。そして、問題が出されます。

問題 「縄文時代の貝塚から出る動物の骨は、多くの場合、ばらばらに折られたり、割られたりしている。ではなぜ、この犬の骨は、死んだままの完全な形で発見されたのか?」

ちなみにこの貝塚は、学校のそばにある加曽利貝塚といい、縄文時代の中期から後期にかけての遺跡です。住居跡も発掘され、大きな村があったことがわかっています。

まず、生徒は、一人で教科書や資料集を読み直して自分の意見を考えます。ただ、考える時間はわずかです。「なんとかひねり出す」。これがこのあとの学習で活きてきます。とりあえず、39人の生徒は、それぞれの説を考えました。
大きく分けると7つにまとめられます。猟犬説、食料説、村のシンボル説、ペット説、軍用犬説、神聖な動物(犬神)説、番犬説です。
次に同じ説同士の生徒でグループを作り、自分たちがなぜその説を選んだのか、そして、どうすれば他の生徒に納得してもらえるかを話し合います。その結果は、全員の前で発表します。つまり、自分の説に対してその理由と証拠を探し出し、言語化するのです。

高校3年生にもなると、いろいろ理屈を考えます。
たとえば……
○猟犬説の根拠
資料集でイノシシを捕まえた絵を発見した。人の力だけで狩りをするのは無理。そこで、猟犬がいただろうと推測した。
○番犬説
カラス等の動物から食べ物を守るために犬を飼っていた。今も犬を番犬として飼っているのはその証拠。
○犬神説
犬は頭が良くて人々から尊敬されていた。縄文時代は、呪術的な風習もあり、犬を神の使いなどと思った可能性があるのでは……。

資料などを参考にした意見もありますが、「なんとなくそう思う」という域を脱していないものもあります。実は、このなんとなく「自分がそう思った」ことのために理屈を探そうという作業によって、これまで何気なく目の前にあった情報も違って見えるようになるのです。
この情報の捉え方の変化は、「モノの見方を変える」トレーニングの成果です。

次は、自分とは違う説で、納得できない点や疑問に感じた点を発表する批判タイムです。
猟犬説へは、「体長50cmでは、イノシシに勝てないのでは?」
番犬説へは、「縄文時代は、豊かだったのでは?」
食用犬説へは、「食べるのに、完全遺体で残るのは不自然なのでは?」
などの批判が出されました。
批判が出た以上、反論タイムです。
v先生は、反論できるように調べるよう各グループに伝えます。しかも、どんな批判が出されたのか先生がまとめたプリントが手渡されます。生徒たちの反論意欲はいやが上にも高まります。

食料犬説チームは、博物館に行って調べました。犬の完全な形で骨が出てきたのならば、埋葬の証だという説明を受けました。となると、食料なのになぜ埋葬されたかを説明しなければなりません。
このチーム、よく考えたと思います。
「食料として飼っていたが、食べる前に病気で死んだので埋葬した」
なかなかの説明だと思います。
番犬説チームは、「埋葬された女性のすぐ近くから、若いオス犬の骨を発見した」という埼玉県の水子貝塚資料館の資料を探し出してきました。当時、女の人は、狩りをしないので、犬は信頼関係があった番犬だろうという推測を説明したのです。
猟犬説を擁護するものとしては、弥生時代のものですが、弓矢や犬を使ったイノシシ狩りの様子を描いた銅鐸の写真が示されました。

授業では、最後に多数決をとりました。ちなみに、一番多くの支持を集めたのは、猟犬説でした。おわかりだと思いますが、この授業で大切なのは、多くの支持を集める説を生み出す過程で、「1枚の写真」をいろいろな視点で見ることを経験することです。そして、「自分の立場をどう作るか」というトレーニングを知らず知らずにしていることです。

v先生は、生徒の意見を否定せず、前向きに受け入れ、次のステップへ示唆を与るだけです。それは、的確な生徒の見とりと発問や指示技術が、可能にしています。まさに達人の授業です。


プロフィール


桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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