運動は、誰でもできるようになる!

運動会の季節が近づいてきました。まさにスポーツの秋ですね。保護者の方々も、応援に出かけるのを楽しみにされているのではないでしょうか?
近年、運動が人間の脳の働きに、非常に良い影響を及ぼすという研究成果が、次々に発表されてきています。
とはいえ、中には、「うちの子は運動が苦手だから……」とため息をついている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
よく≪運動神経の良い子と悪い子≫という言い方をしますね。あたかも運動神経というものが、神様から与えられた先天的なものであり、人間の力で変えられるものではないかのように。

しかし、実はこれには大きな誤解があるのです。
結論から申し上げると、オリンピックに出るような、ずば抜けた才能を持った一部の人を除くと、運動ができる子とできない子の差というものはそれほどないのです。
つまり、誰でも「運動ができるようになる」素質を持っているのです。


≪運動神経≫に良し悪しはない!

人間の身体の動きを司っているのは、「脳」です。つまり、運動は「脳」の指令の下に行われている、ということです。
脳から指令が出て、運動などが起こるまでの神経のシステムを神経系と言いますが、人間の神経系は、脳と脊髄(せきずい)からなる「中枢神経」と、そこから出る指令を身体の末端まで送る「末梢神経」に分かれています。
この「末梢神経」の一部に「運動神経」があります。簡単に言うと、運動の指令が脳から筋肉に送られる時、通り道となるのが「運動神経」ということなのです。
そして、脳からの指令を身体に送るスピードは人によって差異がありません。
すなわち、「運動神経」とは誰にでも備わっているものであり、かつその質に個人差はないのです。

ここまでの説明で、よく言われる「運動神経が良い、悪い」というのは、科学的根拠がないということがおわかりになると思います。
「うちの子は運動神経が……」と思っている方々は、まず、この点についてはご安心ください。


≪運動が得意な子と苦手な子≫はどこが違うのか?

では、運動が得意な子と苦手な子は、どこが違うのでしょうか?
答えは単純です。≪運動に慣れているかどうか≫それだけの違いなのです。
≪慣れる≫とは回数を重ねるということ。
つまり、運動の回数を重ねて、脳からの指令をたくさん送り、脳の神経回路をたくさんつくることによって、運動が上達していくのです。

人間の神経細胞は、3歳くらいから小学校低学年くらいまでに最も発達します。
この時期はゴールデンエージと呼ばれています。
神経が著しく発達するこの時期に、さまざまな動きを経験した子どもは、運動のセンスを身に付け、運動が得意になる可能性が高くなるのです。
お子さんが、まだ小学校低学年なら、「うちの子は、運動神経がない」と決めつけないでください。
水泳、サッカー、野球(低学年の場合はキャッチボールでも可)、ジョギング、女の子であればバレエやダンスなど、何でもよいですから、継続的に行う運動をすすめてあげてはいかがでしょうか。
ハードにやる必要はありません。定期的に、何度も反復して行うことで、身体が運動に慣れていくはずです。

もし、お子さんがゴールデンエージを過ぎてしまっている場合でも、あきらめる必要はありません。
確かに、高い年次で運動を始める場合は、早い時期から始めていた子に比べ、ハンデがあることは否めません。しかし、定期的に続けることで、運動することに慣れてくれば必ず上達します。
このような場合は、「先月の自分より今月の自分、半年前より今の自分、一年前より今の自分」と過去の自分に比べ、上達している自分を意識できるようにしてあげればよいのです。
「以前より、随分上手になったね」「見違えるくらい上達したね」などという言葉をかけて、お子さんが成長を実感できるようにしてあげることで、運動を続けるモチベーションを高めてあげたいものです。


親の先入観を捨てることが大切

「うちの子は、運動が苦手」……その多くは、親の思い込みです。
親は、自分が運動が好きでなかったり、苦手意識があったりすると、その思い込みを子どもに投影してしまう傾向があるのです。
ぜひ、先入観を捨てて、お子さんが「運動に慣れる」ような環境を提供していただきたいと思います。

繰り返し言いますが、運動は誰でもできるようになるのです。
さて、皆さんの運動神経に対する誤解が解けたところで、次回は、気になる運動と勉強の相関関係についてお話したいと思います。


プロフィール


深代千之

東京大学大学院 総合文化研究科 教授。(社)日本体育学会理事、日本バイオメカニクス学会理事長、日本陸上競技連盟元科学委員。文部科学省の冊子や保健体育教科書の作成にも関わる。*主な著書:「運動会で1番になる方法」「運脳神経のつくり方」など

子育て・教育Q&A