「見る」と「観る」の違いを実感した授業[こんな先生に教えてほしい]

毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。
小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。そのなかで、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。


今回紹介するのは、「『見る』と『観る』の違いとは、そういうことか!」と実感した授業です。
それは、神奈川県のt先生が小学6年生に行った理科「燃焼」の授業です。t先生の授業の特徴は、観察や実験の結果を、文字ではなく主に絵を描くという方法でまとめさせることです。絵を描く作業に「観る」という行為と結びつけると、子どもたちは自然と考え出します。
「考える力」を身に付けさせることが、今、大きな教育課題のひとつです。t先生の教え方には、解決へのヒントがたくさん詰まっています。

授業に沿って説明していきます。
まず、「燃える」とはどういうことかを絵に描きます。真っ赤な炎を描き、その横に「熱い、怖い」と書いた子。ものが燃える様子を描き、「熱い、黒くなる、こげる」という文字を付け加えた子など。画用紙には、一人ひとり違う「燃える」イメージが描かれました。
次に、t先生は、ろうそくに火をつけ、子どもたちに本物の炎を観察させ、疑問に思ったことを実験で確かめさせます。ここでのポイントは、子どもたちが、結果を絵に描いてまとめるということを意識していることです。
既に知っていることを絵にしていますから、実際の炎と自分の描いたものを自然に比べ始めます。「比べる」こと。これこそ、考える第一歩です。
そして、
・炎は1色ではなく、中心は青で真ん中は太陽みたいな色だと気付いた子
・ビンに入れると消えることから、実験を繰り返し、長いろうそくと短いろうそくをビンに入れると長いほうから消えるという謎を発見した子
・酸素を吸い、二酸化炭素を出す。人間みたいに呼吸をしていると記した子。
などがあらわれました。
自分で調べ、友達と話し合いながら、みんな考える行為をずっと続けていました。t先生のクラスのみんなの持続力は驚くほどです。今の子は、集中力や持続力がないと言われますが、課題や状況設定、そして指導の仕方が悪いだけのようにも思えます。


「モノをよく観て、何が言えるのか」
t先生のこの指導を続けると、自然と「考える習慣」が身に付きます。
その理由は二つ。
(1) 目標がはっきりしている。
子どもたちは、「絵にあらわせるもの発見しよう!」とうハッキリした目標を持って学びに入ります。だからこそ、主体的な学びが起こります。つまり、何をすればよいかがわかっているのです。
これは、授業の基本だと思うのですが、あまりそのような授業には、出会えません。先生は、伝えているつもりでも、子どもが腑に落ちていないことが多いように思います。
(2) 描くことは自分を見直すこと。
描くためには、自分の感じたことや発見した事実を言葉にしながら、そこに意味づけをし、イメージ化しなければなりません。そのために、自分の心や頭の中を見直す作業が行われます。それこそが「考える」ことだと思います。
また、文字ではなく、絵に描くことは、文字の背景にある世界も意識することにもつながります。

燃えるということは、酸素と熱と燃えるものが結びつき、二酸化炭素と炎と煤(すす)になるという見えない世界です。
でも、t先生の教えた子どもたちの絵には、見えない世界のことがたくさん書かれていました。しかも、その子ならではの表現です。
きっと、その子は、「見る」ではなく「観る」をしたのだと思います。そして、「わかった!」のだと思います。
「見る」から「観る」の授業が増えることは、子どもたちが学ぶことに集中する機会が増えることだと思います。t先生のような教え方が広まることを期待しています。


プロフィール


桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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