海外の大学と「二重在籍」が当たり前の時代に?

日本から海外に留学する学生は、減少傾向にあると言われています。しかし、グローバル化の進展により、国際社会で活躍できる人材の育成は急務です。このため文部科学省は、海外の大学と日本の大学の両方で勉強して、双方の学位を取得できる「ダブルディグリー」(複数学位)を推進するため、組織体制や実施上の留意事項などを示した、初のガイドラインを作成しました。ただ、これには、別のねらいもありそうです。

実は欧米諸国などでは、専門分野や興味に応じて複数の大学で学び、学位取得に必要な単位を積み重ねていくという学生も珍しくありません。
このうちダブルディグリーと呼ばれる制度は、異なる国の大学同士が協定を結び、互いに留学してきた学生に双方の大学の学位(学士号・修士号・博士号)を与えるというもので、主にEU諸国などで行われています。単なる海外留学と異なり、複雑な審査や手続きもいらず、一大学分の授業料で二つの大学の学位を同時に取得できるというメリットが学生にはあります。
日本では現在、東北大学と中国の清華大学など、九州大学と中国人民大学、早稲田大学と北京大学などが、「ダブルディグリー」の協定を結んでいます。

海外の大学とダブルディグリーの協定を結ぶ大学が増えれば、日本の学生が海外留学することが、より簡単になります。また、在籍する日本の大学の学位もきちんともらえるので、帰国後の就職が不利になるということもありません。これによって文科省は、大学生や大学院生の海外留学が増加し、国際社会で活躍できる人材の育成につながると考えています。
また、海外から協定先の大学生も日本に来るので、政府が掲げる「留学生30万人計画」の推進にもつながることになります。まさに、一石二鳥の成果が期待できる制度が、ダブルディグリーだというわけです。

そんな便利な制度がなぜ、これまで広がらなかったのでしょうか。まず、ほとんどの学生が国内の大学に進学し、国内で就職する日本の社会では、あまりニーズがなかったことが挙げられます。また、ダブルディグリーという制度自体が、まだ国際的に一般化していないこともあります。しかし、それ以上に問題なのが、日本の大学の「質」です。
一部の科目だけ単位を認める「単位互換協定」と異なり、ダブルディグリーは、双方の大学が学位を出すのが特徴です。逆に言えば、国際的に見て一定レベルに達していないような大学がダブルディグリーを実施するのは、困難です。
文科省は、実質的な「大学全入時代」の到来により、大学教育の質を確保することを、政策の重点に置くようになりました。大学教育の質の確保という視点には、国際的に通用し、国際競争力がある大学にしようという考え方が含まれています。
文科省のダブルディグリー推進の背景には、国際的にも通用するよう、日本の大学のレベルアップを図るという、もう一つの意図が込められているのです。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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