イメージや気持ちを形に表現する授業[こんな先生に教えてほしい]

たくさんの授業を見て、その授業への想いを多くの先生方から聞きました。「NHKデジタル教材」という番組とWebを組み合わせた教材作りや、全国のとびきりの授業を伝える番組を制作するためです。そのなかで、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。

今回紹介するのは、福島県のb先生の図工の授業です。「イメージや気持ちを形に表現する」ことを目指したこの授業を受けるのは、小学4年生です。

「イメージや気持ちを形に表現する」。これは、大人にも難しいことです。
すぐにできる人も確かにいますが、多くの人はトレーニングを積まなければ身に付かない力でしょう。ただ、その術を身に付けているとコミュニケーション能力の向上や心のバランスをとることに役立つと思います。
そして、トレーニングには、指導者の支援の言葉と優れた教材が欠かせません。

まず、b先生の授業で紹介するのは、色とりどりの毛糸や木の枝を使って「春」のイメージを形にするという内容です。
子どもたちの中には、たくさんのアイデアが詰まっています。「窓から見える風景」「クモの巣」「大きな花」「弓矢」(狩りからのイメージだそうです)など……。
制作過程で、b先生は、その子自身からわき上がってくる自由な発想や子どもが心に描いたイメージを壊さず、もっとふくらませるための支援の言葉を駆使します。
たとえば、
  • 「ここは、~になっているんだ。次にいろんなことが考えられるね」
  • 「何これ? 裏も表も~になっているんだ」
などです。
共通点は、まず作業を認めたうえで、~の部分に子どものこだわりを具体的な言葉で表し評価すること。次にこれからどうすればよいのかを子ども自身が考えるきっかけとなる言葉を組み合わせていることです。
これが優れた支援の言葉の要素だと思います。

思い返すと「わくわく授業」で取材した授業の達人と呼ばれる方々には、この支援の言葉に共通の部分があるように思えます。特に「どのようにすればよいかわからない」「自信がない」という子に対しては、具体的な評価と、子どもたち自身の気付きを促す言葉を組み合わせていました。
たとえば、発表の時「大きな声で」というのではなく、「先生に聞こえるように」とか「一番遠い席に座っている子に聞こえるように」という言い方をします。何をすればOKなのかがわかり、そして努力したくなるきっかけを生み出します。
b先生は、支援の言葉の使い手でした。

b先生のもうひとつの授業は、墨を使ってイメージを表現するというものです。
この墨を教材に選んだところがb先生のすごさだと思います。
まず、国語の教材から「ことばの世界」を示します。これには、「うれしい」「おもしろい」「悲しい」「つまらない」「残念」「喜ぶ」「くやしい」「がっかり」「好き」「感動する」「うっとりする」「いらいらする」「きんちょうする」「くるしい」などのたくさんの気持ちを表す言葉が載っています。
ここから一つだけを選び作品にするのです。

墨は、色の濃淡・かすれ・にじみ・ぼかしといったさまざまな表現が可能です。さらに、先生は、網・スポンジ・ビー玉・ブラシなどの道具も用意しました。
子どもたちは、墨だけで豊かな表現ができること、黒でもいろんな黒があることなどを発見し、「線一本でも話せる」ことを体で理解していきます。
子どもたちの表現した例を挙げると……
  • 薄めた墨で涙を描いて「悲しい」
  • 線を跳ね上げて「喜ぶ」
  • 勢いがある墨が縦横無尽に踊る「おもしろい」
  • スポンジを回転させて描いた、たくさんの渦巻きで「くるしい」
  • 垂れ下がる細い線で表現する「がっかり」
などです。
自分だけの表現を見つけること。表現は一つではないことに気付くことで、子どもたちの顔は、とても「すっきり」していたように感じました。

b先生の目指す「楽しいけれど、学びがあり、達成感や充実感のある授業」を生み出しているのは、支援する言葉と優れた教材だと思いました。

プロフィール


桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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