先生の人事異動、権限が市町村に!?

文部科学省はこのほど、公立小・中学校教員の人事権を都道府県から市町村に移すことを検討するため、関係団体の代表や学識経験者らで構成される協議会を発足させました。市町村が公立小・中学校の教員人事権を持つようになったら、どうなるのでしょうか。

その前に、公立学校教員の人事権について説明しましょう。教員の身分は、あくまで学校を設置している市町村の職員です。しかし、採用や人事異動などを行う権限は、都道府県(政令指定都市を含む)が握っているのです。これは、教員の給与を国が3分の1、都道府県が3分の2を負担し、市町村は一切関係していない、という仕組みのためです。
都道府県が採用や異動を決定するため、公立小・中学校教員は数年ごとに定期異動があり、原則として都道府県内全体で転勤を繰り返します。これによって、財政力の弱い市町村も必要な教員を確保できるほか、優秀な教員が特定の学校や地域に偏ることを防ぎ、教育水準を都道府県内で均一に保つことができます。その一方で、勤務校や勤務地への愛着に欠けるというデメリットのほか、数年で管理職も含めて教員が入れ替わるため、勤務校の問題解決に消極的な「事なかれ主義」がはびこる理由の一つとも言われています。

文科省の中央教育審議会は2005(平成17)年10月、地方分権を推進するため、都道府県が持つ公立小・中学校の教員人事権を市町村に移譲することを提案し、まず人口30万人以上の中核市に教員人事権を与えることを求めました。これについては、政府の規制改革会議、地方分権改革推進委員会なども賛成しています。ところが、関係団体の間では、中核市など比較的規模の大きな市は移譲に賛成する一方で、都道府県や、小規模な市と町村は移譲に反対、というように、大きく意見が割れているのです。
自らの権限を失う都道府県が反対するのは当然ですが、移譲先である市町村、特に町村が強く反対しているため、文科省は調整に苦慮してきました。町村が教員人事権の移譲を受けることに反対している理由は、市町村ごとに教員採用を行うようになれば、大都市部など人気のある地域に質の高い教員や教員志願者が取られてしまい、人気の低い自治体が質の高い教育を確保できなくなる心配があるためです。また、給与の負担をどうするのかがまだ不明なため、安易に賛成すれば、将来、教員給与の負担で財政が圧迫される可能性も高いからです。

教員の人事権を市町村が持つようになれば、同じ学校や地域に生涯勤め続けることが可能になります。その一方で、教員のマンネリ化という弊害も出てくるでしょう。文科省は、複数市町村を単位にして、ある程度広域の人事異動を可能にする方向で検討する予定です。都道府県全体を見渡した義務教育の公平性や平等性と、地域に立脚した教育のための教員の定着という、矛盾する問題のバランスをどうとっていくのかが、今後の大きな課題だと言えます。

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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