スクールバスは地方だけのもの?

アメリカ映画では子どもたちが「イエローバス」と呼ばれる黄色いスクールバスで通学するシーンがよく出てきますが、日本の学校では幼稚園を除いてスクールバスはあまり普及していません。しかし、最近になって、登下校時の安全対策の面からもスクールバスに注目が集まっており、文部科学省は積極的な活用を各教育委員会などに呼び掛けています。

小学校以上のスクールバス利用というと、主に地方の遠距離通学などを思い浮かべます。これに対して文科省は2006(平成18)年2月、登下校時の安全対策の一環としてスクールバスや路線バスを積極的に活用することを通知しました。背景には、2005(平成17)年に登下校中の子どもを狙った犯罪が相次いで発生したことがあります。自宅近くから直接学校まで子どもたちをバスに乗せて運ぶことで、登下校中の安全を確保できるスクールバスのメリットが着目されたわけです。同時に文科省は、スクールバスの活用状況の実態調査を実施しました。
それによると、小・中学生を対象にしたスクールバスは全国の市区町村のうち1,132自治体(62.7%)で導入されており、小・中学生の1.7%に当たる約18万人がスクールバス(路線バスや乗り合いタクシーなどの利用を含む)を利用していることがわかりました。導入率は意外に高いと言えるかもしれません。ただ、都道府県別に見ると、北海道・青森・山形・岩手・新潟・富山・島根・石川ではスクールバスを導入している市町村が9割を超えているのに対して、東京・神奈川・埼玉・愛知・福岡では3割を下回っています。交通事情の不便な地域を中心にスクールバスが利用されていることがうかがえます。
導入目的を見ると、「へき地対応」がトップで、次いで「安全確保」となっています。ただ、登下校中の安全確保のみを目的に挙げたのは、専用スクールバスを保有しているところで7.2%、路線バスなどその他交通機関を活用しているところで14.0%にとどまっており、子どもたちの安全確保に主眼を置いたスクールバスの活用はまだまだ少数派と言えそうです。
スクールバスの活用では、経費などの予算が大きな問題となるのは間違いありません。しかし、文科省の調査報告書は、スクールバスを「子どものいる世帯専用の乗り物」としてとらえるのではなく、「地域で支える乗り物」と考えることが重要だと指摘しています。経費負担の面もありますが、安全にバスを待てる停留所の確保や、停留所から自宅までの子どもの安全を見守る大人たちの存在など、地域全体の協力がないと、スクールバスの意味がないからです。
今後、子どもたちの安全確保のためのスクールバスの導入がどれほど進むかは未知数ですが、バスなどの乗り物をそろえただけでは不十分で、子どもたちの安全を守るためには地域全体の理解と協力が必要だということは確かでしょう。

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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