家庭でできる!水を汚さないためのちょっとした工夫[エココラム]

2007年のメーンテーマとして準備を進めてきた第1回アジア・太平洋水サミットが、12月3日・4日、大分県別府市で行われた。会議の模様は、さまざまなメディアで紹介され、多くの人が地球規模の水環境について考えるきっかけになったと思う。
私もスピーチの場をいただき、温暖化による氷河の融解および氷河湖問題、そして、ヒマラヤからの溶け水がベンガル湾にとおり抜ける流域国、ネパール・ブータン・インド・バングラデシュで起こっている状況の報告をさせていただいた。
今回の会議がきっかけとなり氷河の融解及び氷河湖問題が広く知られ、世界中で危機的な状況に陥っている現状をすべての人が理解し、共通の深刻な問題であると認識してくださればありがたい。

さて、地球規模での水問題について考えたあとは、日本の家庭で使われる水について考えてみたい。
一般家庭での1人当たりの水使用量は、1日約310リットルと言われている。この消費量は、世界第4位。
その内訳は、トイレが28%。次いで風呂24%、炊事23%、洗濯17%。
飲料水の確保が難しい国が多い中で、日本は飲料水を飲むこと以外に大量に使用しているのだ。
ここはひとつ、一日の行動を振り返り、水の使い方をもう一度見直してみる必要があるだろう。

まず、朝起きたら、節水に気を付けながら、洗面・歯磨きをしよう。水は30秒流し続けると、約6リットルも浪費してしまうことになる。
炊事は水の出る量を調節して、野菜や食器は「ため洗い」をしよう。蛇口に取り付ける、節水コマや節水アダプターなども販売されているので、それを使うのも効果的だ。
意外に多いのがトイレの排水量。従来型は、大洗浄時に1回13リットルほどの水を使っている。最近は、その半分の節水型も発売されているが、まだまだ普及していないのが現状だ。すぐにできることは、大小レバーをうまく使い分けることくらいだろうか。
そして意識すれば、大幅に浪費を避けられるのが、入浴時の水。寒いこの季節、シャワーで体を温める人も多いが、それは水とエネルギーの無駄使いだ。
洗濯機にはなるべく浴槽の残り湯を使いたい。残り湯半分を利用すると約90リットルの節約にもなる。それに温かな残り湯で洗えば、汚れも落ちやすい。

このような節水と同時に重要なのは、「水を汚さない」ということだろう。
水質汚染というと、工場排水を思い浮かべる人も多いかもしれない。だが、東京都環境局によると都内で川や海に流される汚濁の70%以上は生活排水に起因しているという。下水道設備などが充実している現在でもこうなのだから、この問題は、各家庭の努力で改善していくしかないだろう。

まず洗濯や食器洗いは、なるべく少ない洗剤で行おう。環境に配慮するため合成洗剤よりも石けんを推奨するかたも多い。しかし、どんな洗剤でも環境に負荷を与える。とにかく使用量を削減することが第一だと私は思う。
台所では、なるべく油汚れを出さない工夫をすることが大切だ。電子レンジで素材を中から温めてから調理をすると、少ない油で料理をすることもできる。
油汚れのひどいフライパンなどは、新聞紙などで油をふき取ってから洗いたい。
また焦げなど落ちにくい汚れには、重曹洗剤を使うと、洗剤の量を抑えられる。
そしてみそ汁やめん類の残り汁は、あまっても捨てずに、雑炊や炊き込みご飯に使おう。
下水をとおらず、そのまま側講に流れてしまうことの多い洗車など外での作業は、特に洗剤の量に気を付けたい。

以上のように生活排水を削減する工夫は、毎日簡単にできる。しかしその反面、続けるのが意外と難しい。ついつい「今日くらいは」という思いに駆られてしまう。
意識が下がってきたな、と感じるとき、私は雪山登山のことを考える。そこは究極的に水を大切にしなくては生き残れない世界だ。流れている水はないので、氷や雪を鍋にかけて水を作る。燃料と時間を考えると、ひとり1日6リットルほどしか作ることができない。鍋底の料理の残りカスも、水で解きほぐして洗ったら、そのまま暖めてスープとして飲んでしまう。捨てる水は、一滴もない。

もちろん、そんな修行のような山行をおすすめしているわけではない。今回は家族で意識を高められる水質汚染削減のアイテム作りを紹介したい。
まずは「アクリルたわし」。アクリルは非常に細い繊維の集まりでできているので、洗剤がなくてもかなりの汚れを落とすことができる。
アクリル糸は、百円ショップなどで売っている。あるいは使わなくなったセーターを解きほぐすのもいいだろう。この糸を、適当な大きさに20回ほどグルグル巻く。あとは、中心をしっかり縛ればできあがり。編み物の苦手なお父さんでも簡単に作れると思う。

次は、細かいゴミを排水口に流さない「フィルター」作り。破れてはけなくなったストッキングの足の部分を15cmほどの輪切りにする。そして、その片方を結び、結んだ部分を下にして流し台の総合排水口のバスケットに覆いかぶせればできあがり。
こちらは、お父さんが作るには、ストッキングを切る時に抵抗があるかもしれない。しかし、やはり非常に簡単に作れてしまう。
できあがったら、アクリルたわしとスポンジたわしで汚れの落ち方を比較してみたり、フィルターでどこまで細かいゴミがとれるかを見てみたりしよう。そして、少しの工夫が、環境保護に繋がっていることを親子で話し合ってみよう。

本来、少ないはずの家庭排水の影響が、工場などの排水による汚濁作用を超えてしまったことは、本当に残念なことだ。
一人ひとりの少しの意識の低下が、全体では大きな悪影響を与えていたのだろう。
だが逆に、各家庭の水への意識が高まれば、それは大きな環境効果を生むはずだ。
「チリも積もれば」という言葉を、一人ひとりの意識改革で、ぜひプラスの方向に運んでいただきたい。

プロフィール



アルピニスト。1999年エベレストの登頂に成功、7大陸の最高峰世界最年少登頂記録を25歳で樹立。「富士山から日本を変える」をスローガンに、日本各地の環境保全活動を展開、小学生から大学生までを対象に「野口健 環境学校」の校長を務めている。

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