学校評価は誰のために


教育改革が進む中、学校評価が重要な課題の1つになっています。これまで学校の先生がたは、自分が児童・生徒を評価することはあっても、自分が評価されることには慣れていない面もあって、学校評価には抵抗感が強いようです。また、保護者も“学校評価”という言葉から想像できることはあっても、実際にどういうことなのか十分に理解されているかたは少ないのではないでしょうか。現在、文部科学省では「学校評価の推進に関する調査研究協力者会議」(以下協力者会議)を設置して検討を進めています。今回はその内容をもとに、学校評価についてお話しします。

学校評価とは
学校評価は、各学校の教育目標の達成状況を把握するために行われるもので、これまで日本では、大きく分けて以下の2つでした。

学校評価とは

文部科学省が設置した協力者会議では、学校評価に関するさまざまな課題が検討されていますが、その中で特に重要と思われるのは、次の2点です。
(1)学校の自己評価の公表が低い水準にとどまっていること
(2)第三者評価導入の検討
ここでは、この2つに絞って話を進めたいと思います。

学校評価の公表について
文部科学省の調査では、学校の自己評価の実施と結果公表の状況は、表1のようになっています。小学校を例にとると、自己評価を実施した学校の割合は99.2%ですが、そのうち公表しているのは41.6%で半分以下です。(なお、私立学校の公表率はさらに低く、私立小学校は20.7%です。)

【表1】学校評価の実施状況(公立学校 2004年)
表1:学校評価の実施状況(公立学校 2004年)
※自己評価の割合:分母は全学校数/結果公表の割合:分母は自己評価実施校数

「学校評価と情報提供の実施状況」平成16年度間調査結果
(学校評価の推進に関する調査研究協力者会議配布資料)

2002年に、小学校設置基準などで自己評価を実施することと結果を公表するように努めることが規定されました。これにより自己評価の実施と結果の公表が努力義務化されました。先ほどの調査は2004年の結果、つまり施行から2年後のものですので、現在はもう少し公表する学校が増えている可能性はありますが、それを加味しても公表が順調に進んでいるとは言えません。
文部科学省としては、さらに公表する学校を増やしていきたいと考えているようですが、そのためには、評価を公表することについて、学校の先生自身が自分たちにとっても役に立つと実感できることが必要と思われます。

第三者評価導入について
もう1つの動きは第三者評価の導入です。先ほど申し上げたように、これまでの学校評価は、自己評価と外部評価(学校関係者評価)だったのですが、これらに加えて、学校とは直接かかわりを持たない専門家が行う第三者評価の実施が検討されています。計画では、今年度中に100校程度を対象に実施することになっています。試行段階では、対象の学校を評価することではなく、適切な学校評価システムを構築することを目的としています。
その背景には、第三者評価についても学校現場の抵抗感が強いことがあります。昨年実施された「義務教育に関する意識調査」では、第三者が学校評価をすることに対する一般教員の「反対」と「まあ反対」が合わせて約3割になっています。「どちらともいえない」を加えると7割近くになります。こうした抵抗感を払拭(ふっしょく)するような第三者評価が実際に実施できるかが課題と言えます。


【図1】第三者が学校評価することに対する一般教員の意識
図1:第三者が学校評価することに対する一般教員の意識
義務教育に関する意識調査・報告書(2005年ベネッセコーポレーション)

第三者評価を全国規模で実施するとなると予算的な裏づけも必要になります。協力者会議の副座長の小松郁夫先生(国立教育政策研究所 教育政策・評価研究部部長)によると、イギリスの学校監査の年間費用は9千万ポンド(約198億円)とのことです。日本の場合も本格的に取り組むとすれば、同程度以上の費用がかかる可能性があります。それだけの効果が見込めるかを見極める必要があるわけです。

誰のための学校評価か
最近では、学校の経営責任を明確にして、各学校が目標を達成しているのか説明することが重要視されていますので、評価の公表や第三者評価の導入は必然的な流れなのでしょう。しかし、当事者である学校の先生が、あえて外部の目にさらされることで、自分たちの力を高める、そこでの気づきを積極的に取り入れるつもりがなければ、こうした取り組みは形骸化(けいがいか)していく可能性があります。
日本の場合、校長先生には限られた権限しか与えられていないと言われています。学校経営として改善すべきことがあったとしても、人事や予算の面で限られた権限しかなければ、学校単独での取り組みには限界があります。学校評価を効果的に進めるためには、そうした条件整備も大切になります。
教育における評価はデリケートな問題を含んでいます。例えば、学校でいじめがあった場合、こうした問題はどのように評価していくのでしょうか。問題を隠蔽(いんぺい)することはよくないのですが、簡単にオープンにすればよいという問題でもないはずです。こうした具体的な事例を積み重ねていく必要があります。
最終的に問われているのは、学校の教育力を上げるのに役に立つのか、その学校に通う子どもたちにとってプラスになるのかということです。そうしたことが保護者も学校の先生にも実感できるような学校評価のあり方を模索していくことが求められています。


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