小中学校での習熟度別指導の広がりと保護者の意識の変化


クラス全員で同じ授業で学習する、という横並びからはなれ、小中学校でも「個」に応じた指導がはじまっています。急速に広がる「習熟度別指導」を取り上げます。


義務教育といえば全国一律が原則でしたが、ここ1、2年で各地域や各学校ごとに自由な取り組みを認める動きが広がっています。今回は、保護者の方も感じはじめている変化……「習熟度別指導」(*)の広がりを取り上げたいと思います。

*習熟度別指導:
児童・生徒の学習内容の習熟の程度に応じた学習指導。クラスもしくは学年をいくつかのグループに分け、少人数で行う。小中学校の段階では、あくまでも学習内容の確実な習得、基礎基本の徹底を目的とする。


「習熟度別指導」を実施する小学校は4割に急増
ここでは、小学校での習熟度別指導の実施状況を見ていきましょう。図1をご覧ください。ベネッセ教育総研が2002年9~10月に小中学校とその先生を対象に実施した「第3回学習指導基本調査」の速報データです。

図1:「習熟度別指導」の実施状況(小学校)

図2:「習熟度別指導」の実施学年(小学校)

図3:「習熟度別指導」の実施教科(小学校)

調査の対象となった小学校(全国から642校)のうち、習熟度別指導を「実施している」が41.1%、「教員の手当てができれば実施したい」が35.7%という結果。つまり、7割以上の小学校が習熟度別指導を必要と考え、条件さえ整えば実施したいと考えていると読み取れます。

ただし、「実施している」割合については、教科数・実施時間数を問わずに回答いただいているものです。図2・図3から読み取れるように、学年では小学校3年生から取り組みはじめる学校が多いこと、教科では算数を中心に行われていることがわかります。

現段階では、習熟度別指導を実施する小学校も、全体の授業時間数のごく一部を当てており、取り組みはまだはじまったばかりであるととらえています。お子さまの通う小学校ではいかがでしょうか。


「習熟度別指導」に見られる意識の変化は?
高校では習熟度別編成をすることは珍しくなく、かなり昔から行われています。しかし、義務教育段階の公立の小中学校においては、教師個人が個別指導を工夫することはあっても、「習熟度別」という考え方は2、3年前まではほとんどタブーに近いものがありました。

それが、昨年からの文部科学省による「確かな学力」向上に向けての施策の1つとして「習熟度別」が注目されるようになりました。それは「習熟度別」に対する抵抗感に配慮して「少人数指導」という形で導入がはじまり、約1年ぐらいの間にこれほどまで広がることになったのです。

では、「習熟度別指導」への反応はどうなのでしょうか。

昨年、先進校の研究発表に行くと、「保護者の反発を招くのではないか」「子どもの受けとめ方はどうか」といったことが話題の1つでした。しかし、実際に実施してみると、保護者から反発がおきるというより、むしろ好評で、「子どもの間に差別意識を生み出した」「いじめがおきた」という話はほとんど聞かれませんでした。

わからない授業を我慢して聞く苦痛、それに対して、授業で「わかる」「できる」ことの喜び。クラス分けの方法をある程度、配慮さえすれば、「みんな同じ」にこだわるよりも、自分の習熟度に合わせたレベルの学習によって、充実感を味わえることの方が子どもや保護者の求めにあっていたといえるのでしょう。

「習熟度別編成」をめぐっては、賛否両論があるのは事実です。

ある小学校では、個別指導のきめ細やかさで設定されたコースを、子どもが自分で選択します。わからないときだけ先生に教えてもらいどんどん学習を進めたい子、詳しく教えてほしい子、それぞれの学ぶ意欲を高める工夫がされています。さきほど、“クラス分けの方法をある程度、配慮さえすれば”としたのは、こうした背景があるからです。

考えてみれば、公立の小中学校の周辺には、私立の学校やたくさんの塾があり、そこではいやおうなく競争原理が働いています。一方で、地理的に、経済的に条件がそろわずに、そういう教育機関を利用しにくいという現実もまだ残っています。公立学校の範囲で平等であることが、全体から見ると、そのほうが不平等だったりする。公立の小中学校で習熟度別指導が大きな抵抗なく広がりはじめているのは、子どもや保護者のリアリティのほうがずっと先に行っていたことを意味しているように思います。

この1、2年の変化を見ると、多くのことについて、今は常識でも2、3年後はそうではなくなる可能性があると、何かにつけ思います。個別指導がさらに進めば、どうなるのか。たとえば、今は大前提にある「学年」という枠さえ、子どもが自分の発達に応じて選択する時代がくるかもしれません。

実際、30年以上前にわたしが通ったアメリカの小学校では、ホームルームは4年、英語は3年、算数は5年のクラスで授業を受けました。日本の小学校がすぐにそうなるとは思いませんが、これからの時代を生き抜くにはかなり柔軟な考え方をして、新しい可能性、新しい提案を追求することが必要だと思うのです。


※ベネッセ教育総研とベネッセ未来教育センターは05年4月に統合し、新名称「ベネッセ教育研究開発センター」に変わりました。

プロフィール



「進研ゼミ小学講座」は1980年に開講して以来、「チャレンジ」の愛称とともに全国の小学生のやる気をひきだす自宅学習教材として親しまれてきました。現在、小学生の約5人にひとりが会員という、最も利用されている自宅学習教材です。

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