安倍首相が導入を掲げる「教育バウチャー」って何?

安倍晋三首相が教育改革の検討課題の一つとして掲げている「教育バウチャー制度」が注目を集めています。10月18日に発足した首相直属の機関である教育再生会議(座長・野依良治理化学研究所理事長)でも今後、教育バウチャー制度の導入が検討されることになりそうです。いったい教育バウチャーとは、どのような制度で、導入されればどのような影響があるのでしょうか。

教育バウチャー制度とは、子どもをもつ家庭にバウチャー(Voucher)という一種の現金引換え券を交付したうえで、保護者や子どもが自由に学校を選択し、学校は集まったバウチャーの数に応じて行政から学校運営費を受け取るという仕組みです。教育バウチャーの実施例では、米国のウィスコンシン州ミルウォーキー市、オハイオ州クリーブランド市、フロリダ州などがありますが、いずれも低所得層や極端に教育環境が悪い学校に通う子どもなどを対象にしたもので、一種の社会格差是正策として導入されています。

これに対して現在の教育バウチャーの論議は、所得などに関係なく一律に子どもをもつ家庭にバウチャーを配布することを前提としているようです。教育バウチャーの利点としては、(1)国公私立学校を問わず適用することで、家庭の授業料負担などの公私格差が解消される (2)国公私立学校を問わず自由に保護者や子どもが学校を選択することができるようになる (3)集まったバウチャーの数に応じて学校運営費が交付されるので、学校はより多くの子どもを集めるため努力し教育の質が上がる……などが挙げられています。教育バウチャー制度は、選択の自由、自由競争による質の向上という規制緩和の考え方が背景にあると言ってよいでしょう。

授業料などの公私格差がなくなり、国公私立の区別なく学校を自由に選べるようになるなど子どもをもつ家庭にとって、教育バウチャーは魅力的な面を多くもっています。ただし、一部の人気校だけに予算が集中し学校間の格差が拡大する、保護者や子どもに迎合する学校が増えて逆に教育が荒廃する、地理的に学校選択が困難な地方部と自由に学校選択できる都市部の教育格差が広がるなどのデメリットも指摘されており、文部科学省は教育バウチャー制度の導入に慎重な姿勢を示しています。政府与党である自民党のなかでは、積極的推進派の議員もいれば、反対派の議員もおり、意見はまとまっていないようです。

いずれにしろ、一つの制度にはメリットとデメリットの両方があります。教育バウチャー制度の導入が、現在の学校にとって得か損かではなく、保護者や子どもにどんなメリットがあるのか、デメリットがあるとすればそれは克服可能なのか、という視点で教育再生会議には議論してほしいものです。また、全国一律での導入が難しければ、通学のための交通網が整備されていて公私立問わず学校選択が可能な都市部において、地方自治体の判断で導入できるようにするというのも方法の一つでしょう。

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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