[調査]深刻な大学生の学力低下 教員の6割問題視

「大学生の学習意欲と学力低下」のテーマで、柳井晴夫・大学入試センター教授らの研究グループが全国調査した結果、大学教員のうち10人中6人が学生の学力低下を問題視していることがわかりました。工学部や経済学部の教員が多いのに比べ、医学部では少ないなど学部間でかなり開きがあるようです。国公私の別では、私立大が「深刻な問題」「やや問題」の両方で69%を占め、国立大(56%)、公立大(44%)を上回っている模様です。

深刻なのは理学部・工学部?

柳井晴夫・大学入試センター教授らの研究グループによると、調査対象は約400校、600学部の教授、助教授が対象。2003年から2004年にかけて調査し、計1万1400人(国立5000人、私立5300人、公立1100人)が回答しています。

調査結果によると、「所属学部で学力低下がどれだけ問題になっているか」との質問に対し、全体の8%の教員が「授業が成り立たないなど深刻な問題になっている」と答え、「やや問題」は53%だった模様です。
つまり、10人中6人が大学生の「学力低下」を問題視している計算になります。

学部系統別で見てみると、「深刻な問題」「やや問題」の合計を比べると、理、工学部がとも75%で一番多く、情報学部71%、経済・商学部67%、外国語、社会学部各64%などとなっているようです。
一方、少ないのは専門色が濃く、卒業後の進路先も比較的明確であるためか、医学部が38%、保健・看護学部46%、体育学部49%、教育学部50%などと、他学部と比較してさほど深刻にはなっていないようです。

特に理、工学部などで今や深刻な問題になっているのは、入学後の初年次における理科・数学教育だといわれています。特に「物理」は高等学校での履修状況が多様化し、新入生の学力分布は幅広くなってしまいがちで、新入生に対する授業は、今まで通りに一斉に物理学の授業を進められない状態になっていると言われているようです。
すでにこの数年で、理工系基礎科目として「物理」「数学」「化学」などのリメディアル教育(大学講義についていけるだけの学力や知識を助ける教育)の実施は、多くの理工系学部で見られるようになりました。さらに、理工系学部では、理数の基礎知識が伴わないために学習不適応を起こした学生へのフォローも行っているようですがまだまだ十分ではないようにも思われます。

大学の危機意識

いま大学では国公私立大学ともに、学力低下を受けてどのような学部(4年間)教育をすべきなのか、入学直後の初年次の教育をどう設計すべきか、授業内容や教育方法の改善向上をどのように図るべきか、などについて議論を始めています。
もとより「大学生の学力低下」の議論は古くからあり、最近の「大学生の学力低下論争」の発端は、京都大学の西村教授らが指摘した大学生の学力低下問題です。西村教授は、国公私立の大学生を対象にして、小中学校レベルの数学(算数)のテストを実施しました。その結果、大学生の学力低下の分数のできない大学生の実態が明らかになったことが発端でした。

 ※『分数ができない大学生−21世紀の日本が危ない』

前述のように、大学生の学力低下は大学教育だけに留まる話ではなく、義務教育課程、高等学校での学習を経て、基礎基本の学力がどこまで剥がれ落ちずに身に付いているか、も重要な問題です。
ではまず、大学教員が大学教育そのものの改善・活性化策をどのように捉えているのか、を広島大学高等教育研究開発センター(有本章教授)の調査データ【図1】から見てみたいと思います。

【大学教育の改善・活性化が必要な理由】



 ※数値は肯定率の割合を示す
 ※カテゴリーの代表値は質問項目を相加平均したもの

このデータから、大学教育の改善は大学の責務であること、学生の学習意欲の向上を図る必要があると考えていることがわかります。「学習意欲の向上」の改善の必要性は、学長、学部長、教員ともに高い数値を示すなど、学生の「学びに向かう力」が低下していることに、多くの大学関係者は危機感を持っていることがここでも読み取れます。

大学に進学する意味

さて、大学生の学力低下の背景には、何があるのでしょうか。
柳井晴夫・大学入試センター教授らの調査によると、大学教員が痛感する学力低下の内容では、多い順に
 (1)自主的に課題に取り組む意欲が低い
 (2)論理的に考え表現する力が弱い
 (3)日本語力、基礎科目の理解が不十分
などの背景があることが明らかになっています。

例えば、大学1年次の基礎講座に「ノートのとり方」「テキストの読み方」「図書館利用」「レポートの書きかた」を開講する大学もあります。この大学では、論文と作文・感想文の区別がついておらず、「事実」と「意見」を区別して論理的に書くことのできない学生へのアドバイスの必要性を感じています。

ご存知のとおり「大学全入時代」(※)を2007年度に控えています。入学願書を提出すれば、ほぼ全員合格する大学・学部がすでに存在し、全大学の30%が定員割れを起こしているといわれています。

 ※中央教育審議会の大学分科会で、受験生が大学・短大の選り好みをせず、合格できる大学に入学をした場合の理論上の入学率が、2007年度の入試で100%になるという試算が示された。

一般入試だけでなく、推薦入試、AO入試など選抜試験でも、倍率が1.0倍の大学が出てきています。つまり高校での学習成果を厳しく問われない大学・学部が増えれば、大学へ入学してからの大学生の基礎学力不足は一層深刻化するでしょう。

いま大学生には、「意欲」「表現力」「語学・語彙力」などの不足感が見られるようですが、大学全入を迎えたあとの大学生の学力はどうなるのでしょう。
「何のために大学に進学するのか」「何を学びにいくのか」といった自らの進学目的を明確にすることも大切ですが、生涯学習時代を迎えた今、「自らの可能性を広げるために人は学び続ける」ということを、強く意識することも必要でしょう。

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