これからの学校教育に望むもの

今回の調査では、05年6月29日〜7月6日の期間に有効回答数 769人の方々にアンケートを頂きました。
本当に様々なご意見をいただきました。ご回答をお寄せいただいた方の約76%が小学生の保護者でした。
お忙しい中ありがとうございました。
さて、学校(幼稚園・保育園も含む)に対する満足度に対し、「とても満足」4.6%、「まあ満足」43.4%という結果だったわけですが、「学級崩壊」や「学力低下論」が一般に取り沙汰されるなか、学校に保護者は何を望んでいるのか、先生方にいったい何を期待しているのかをアンケートの分析を踏まえ、考察してみたいと思います。

■学校に臨む姿勢がかわってきた
■保護者の学校教育への期待
■学校への期待
■先生に期待するのは「厳しさ」「人間味」「愛情深さ」そして「個性を生かすバランス」
■最後に

■ 学校に臨む姿勢がかわってきた

今から8年前、ちょうど1997年前後から「学級崩壊」という言葉が社会問題化され、新聞紙上に何度か取り上げられるようになりました。それまでは、「学級崩壊」「授業崩壊」などの現象があったとしても、「一部の教師の指導力不足ではないか」とか、「偶発的で特殊なケースに過ぎない」との認識で片づけられることが一般的であったように思います。

1998年1月28日、栃木県黒磯市内の中学で中学1年の男子生徒が英語担当の女性教師をバタフライナイフで刺したという、とても痛ましい事件が起きました。まだ、みなさんの記憶にも新しいと思います。
双方の相対的な関係性は別にして、当時の新聞の論調は「この事件は、とくに目立たない『ふつう』の生徒が引き起こした」ということで、社会的に大きな衝撃を引き起こすことになりました。
この事件と前後して、小学校の現場でも、大都市部、新興住宅地に関わらず全国各地で「学級崩壊」という現象が、問題視されはじめました。
例えば、チャイムが鳴っても騒然として、席に着かない小学校高学年のクラス。
35名程度のそのクラスは、突然自分の感情を押さえることなく「チョーむかつく!」「とにかく気にいらねえー」「たりーっていってんだよ」などと口々に大声を出し始め、男子児童の5名程度が教室の後ろにたむろし、ついには教室から出て行く・・・。このように学級という場で、授業や教師を拒否し、傍観するだけでなく、挙句の果てには妨害までし始める。

ある小学校では、5年生の担任の先生の名前を徐々に公然と呼び捨てにし始め、教室の対角線で先生の授業中にもかかわらず、テレビゲームの話題を大声で話し、授業を無視する。同時にその対角線のグループとは別に、教室を歩き回る児童も出始めた・・・・・・(朝日新聞社会部編『学級崩壊』より)

・・・・こんな現実を、実際に目の当たりにしたり、耳にした保護者の方もいらっしゃることだろうと思います。
そして、この現実を学校も認め、クラス担任個人の変化ではなく、社会、家庭、価値の多様化、多層化などによる非常に複雑な課題として捉え直そう、といった変化が生まれてきたように思います。

このように「教室」という場で、荒れた学級の風景がどんどん広がりつつあると、学校の現場からも危機感を持って話が出始めました。そしてこの頃から言われだしたことは、

「『学級崩壊』とは、突然その表情を変え、暴れだす数名の子どもたちの話ではなく、いまやクラス全体に広がってきている」

という指摘でした。

「荒れ」に対して黙って傍観している子どもたちにも、相当なストレスが溜まっていて、何かのきっかけで教師への無視、暴力、過度の反応などが見られるようになった、といわれています。
こうした学校や子どもたちの心の暗部を巡る環境のなかで、保護者の方々は何を感じているのでしょうか。

■保護者の学校教育への期待

今回のアンケートでは、保護者の方が昨年1年間(昨年の4月から今年3月まで)で学校に行った回数が10回以下の場合、「とても満足」3.4%、「まあ満足」41.4%、10回以上の場合、「とても満足」6.1%、「まあ満足」46.2%、となっており、学校訪問回数が多い保護者のほうが、学校に対し満足度が高い傾向が若干見られました。

今回のデータを、2004年度にBenesse教育研究開発センターが文部科学省の委嘱を受けて実施した「義務教育に関する意識調査」のデータと比較すると、何点か気がついたことがあります。

(1)「義務教育に関する意識調査」では、学校への総合的な満足度は、小学校段階では約2/3が「まあ」+「とても」満足している結果が出ました。



やや、今回のデータのほうが学校への満足度は低い結果が出ています。
学校で回収されるアンケートより、WEBでお寄せいただく数値がやや自由度が出るのかもしれません。

(2)学校教育で身に付けてほしい能力・態度は何か、との問いに、「義務教育に関する意識調査」でも、上位5つは「教科の基礎的な学力」「人間関係を築く力」「善悪を判断する力」「自ら学ぼうとする意欲」「自らの考えを表現する力」でした。これは今回のアンケートでも、ほぼ同じ傾向で、単に学力や学習への姿勢だけでなく、人間関係の構築力や公共心などを身に付けることへの期待が高いことが分かります。


■学校への期待

教育とはもとより、「家庭」と「学校」、さらに「地域」が連携、理解すべきものです。
保護者が子どもに対して集団における最低のマナーとルールを教えてから、幼稚園、学校に通わせることが基本になってきます。学校がしっかり面倒を見てくれないと困るといった意見には、保護者の中にも「平和、飽食時代に慣れ、金銭欲、利己主義がはびこり、自分の思い通りにならない時は教師、親をも傷つける子どもたちが出てきた。でも、その解決を学校に全て依存するのは間違いだ」などといった一方の意見もあります。

以下アンケートにお答えいただいた中からまとめてみました。
Q10:これからの学校教育に最も望むことは何ですか。 (アンケートより)

  • 先生は昔と違って家庭や、地域でやっていた事まで学校でやらなければいけないようになってきています。
    専門外の分野、不得意分野まで先生は押し付けられているようなので、余裕がありません。もっと家庭や地域が子どもの教育に関心を持ち学校任せにせず、学校は本来しなくてはいけない機能を果たしてほしいです。


  • 社会性や道徳マナーなど、本来、家庭でしつけるべきことまで学校に求める風潮があるが、私は間違っていると思う。もっと国語、算数の基礎学力を鍛える、学校本来の役割を大切にしてほしい。


  • 親も学校もお互いに求めすぎている、お互いに歩み寄りが必要なのでは?そこから子どもたちへの良い影響が生まれてくると思います。私たちが在学時代に教えられたことを今教えてもらっていない。基本的な人間関係もある程度は学校で学ぶことが多いのです。


一方で、子どもも大人も我慢したり、周りのことを考えるゆとりがなくて、「自分勝手」や「○○しているつもり」になっていることが、案外増えているのかもしれません。先生は、ただ単に「授業に遅刻してはいけない」「宿題は期日までに出すように」などと、注意喚起をしたつもりでも、手のひらから漏れていくように聞き流される先生の指示。子どもたちも、学校や学級という集団のなかで、自分の果たすべき役割が分かっていないように思えます。

それぞれが感じたこと、考えたこと、欲求を現在の小学校のように、一人担任制という固定的な関係で、四十人近い子どもたちを抱えるシステムそのものに無理が生じ始めているとする意見もあるようです。
このシステムそのものが「もう通用しないのではないか」、「もう少し先生のマンパワーが必要」との不安が背景にあるのではないか、と思えます。そんな今の学校への不満や、不安を書いていただいた保護者の方もいます。

Q10:これからの学校教育に最も望むことは何ですか。 (アンケートより)

  • 親も含めて、子どもたちの性格や能力に多様化がみられると思います。それに対応するには、やはり少人数学級を望みます。子どもたちのすみずみにまで目が行き届き、先生自身の生活にも余裕が持てるような環境作りを望みます。


  • 社会に適応できない若者が増えている世の中なので、勉強も大事ですが社会性を身につける実践の場としての学校の役割にも力を注いで欲しい。ただ、すべての教師が社会性をもった大人なのかは疑問です。学校(先生)の常識は社会の非常識・・・ただ、先生たちは忙しすぎると思います。子どもたちを健全に導き育てるにはマンパワーがもっと必要だと思う。

一方で、保護者のなかには、先生に対する強い不信感を書いていた方もいます。

Q10:これからの学校教育に最も望むことは何ですか。 (アンケートより)

  • 子どもの通う中学校全体が、やる気のないムードに包まれています。会議や研究授業を理由に、授業のカットや短縮が頻繁に繰り返される。授業には、子どもを引きつける魅力がない先生もいる・・・と感じます。ある先生はカセットを流すだけ、ある先生はワーク教材を解かせるだけ…。テストを返されても、答え合わせも解説もしない先生がいると聞きます。これでは先生に対する子どもの信頼はそがれるばかり。やる気のある子の芽も摘まれてしまうのではないかと思います。


  • 悪いことをしたらきちんと説明して叱ってもらいたいです。今の子どもの先生は「気分屋さん」なので子どもが「今日は、(先生)機嫌がよかった・・・」って言っているのを聞くと悲しくなります。


担任の先生の雰囲気や、クラスのちょっとしたきっかけで集団は変わります・・・・「学級崩壊」にもいろんなケースがあるはずです。 学級が崩れていくきっかけは、恐らく本当にちょっとしたことで変わると思います。それは家庭と学校や子どもたちの集団の場で、子どもたちの内面に影を落とし、微妙に引き起こされているのだと思います。
学校の先生の教育者としての感度(センサー)が求められる場面だと思います。


■先生に期待するのは「厳しさ」「人間味」「愛情深さ」そして「個性を生かすバランス」

今回のアンケートでは、学校の先生に求める理想像を伺っています。
キーワードをまとめると、「厳しさ」「人間味」「愛情」そして「個性を生かすバランス」の4点が浮かんできます。
そして、そこには今の学校に対する期待もたくさん込められていました。

Q9:あなたにとっての理想の先生とはどのような先生ですか? (アンケートより)

  • 基礎をしっかり学習させた上で、学校での集団生活の指導をしてくれる先生。小学生の場合は、子どもの気持ちを理解した上で人の気持ちを思いやる心を育んでくれる先生。中学生であれば、教科学習のおもしろさを授業に取り入れてくれ、担任としては難しい年頃に子どもの気持ちに寄り添いながら、基本的な社会生活を指導してくれる先生。


  • 最近の先生の傾向として子どもの声が聞こえない、があります。子どもが本当に言いたい事が先生に伝わらないようです。先生も全体に気を配り、見渡す心の余裕がないようなので一方通行になっています。一番理想的な先生と言うのは子どもの心にいつまでも残るような信頼できる人間です。


  • やはり、教師は聖職だと思いますので、生徒のことを損得抜きで、情熱を持ち親身になって考えてくれる先生が理想で、そうでなければ、先生を志すべきではないと思います。


  • 常に子どもたちに目をむけてくれる。だからクラスがバラバラになることもないし、いじめも起こりにくい。授業も押し付けがましくなく、子どもたちに分かりやすく、宿題にもきちんと目を通してくれる。保護者に対しては、クラス通信などで、今、学級では何をしているか、どういう雰囲気か、知らせてくれる。良いことも悪いこともクラス通信(プリント)などで先生の言葉で知らせてくれる。


  • 子どもが尊敬する事ができ、自分も何か一つでもがんばれることがあるんだと、生きていく自信や希望を持たせてくれるような先生。


  • 厳しくても愛情をもって接してくれる。勉強以外のことを自ら実行しながら教えてくれる先生。


  • 個性を尊重しつつ、子どもの意見を素直に聞いてくれて、子どもから信頼される先生。


この理想の先生像・・・果たしてみなさんは、どう答えられますか。すべてを満たすことは難しいのか、しかしみなさんの傍にいてほしい先生像なのか。

■最後に

「先生や学校に多くを期待しない」と少し距離を置こうとする保護者が一部いるものの、子どもたちの生活と学びの中心は今も昔もやはり「学校」です。

今、日本人そのものが、自由にモノが言える権利意識と自己責任をどこかで履き違えているケースが増えていないでしょうか。一方的な「学校批判」もどこか間違っているように感じます。逆もまたしかりで、「家庭の教育力の低下」だけが発端ではないはずです。

学校をめぐる課題も、「掴みどころのない無気力先生がいる」「学校社会のなかで極めて情報開示が少ないなど閉鎖性」などを指摘する声も、確かにあります。ただし「金八先生」はどこにでもいるはずもなく、保護者にとって他者への依存だけでは、大きな業(なりわい)である「育み」は成立しないでしょう。

最後に少し考えさせられるコメントをいただきましたので、ご紹介します。

Q9:あなたにとっての理想の先生とはどのような先生ですか? (アンケートより)

  • 教育に情熱を持ち、未来の宝を育てているんだという気持ちの強い先生。子どもの長所を伸ばしてくれる先生。親と一体になって何でも話し合える先生。


Q10:これからの学校教育に最も望むことは何ですか。 (アンケートより)

  • 教育と言うのは本当に尊い仕事だと思っています。先生もご自分の家庭を抱えてなおかつ、クラスの子どもたちを受け持つのですから、大変だと思います。親としても協力していきたいと思っています。学校公開だけではなく、普段親も自由に教室を見ることができ、悪いことをした生徒には注意してあげることができる環境を作ったほうが良いと思います。授業中立ち歩いて話を聴けない子など、地域の親が愛情もって見てあげる、勉強はプロの先生が教えて、クラスのサポートは親がしてあげてもいいと思います・・・・・


  • 例えば、「学級崩壊の原因の半数以上は教師の指導力不足」とも言われますが、すべての原因が教師にあるわけではないと思います。子どもを持つ親は教師に押し付けて、責任逃れをしているのでは・・・。例えば電車の中で子どもが騒いでいても親は注意しない。ごめんなさい、ありがとうは家庭のしつけ。親は家庭をもう一度考え直してほしい。自分を含めて・・・・・


私たちは、いままで「学校」という機能に、多くをまたは全てを期待してきました。
まず、保護者と学校の関係の根本は相互の理解と正しい情報流通、そして相互支援なのだと思います。
過去の「自身」のみを尺度に捕らえるのではなく、変化する子どもたちの世界を、客観的なデータなどで「学校」と「先生」とともにしっかりと捉えていくことが、今こそ求められているのかもしれません。

お子さまに関するお悩みを持つ
保護者のかたへ

  • がんばっているのに成績が伸びない
  • 反抗期の子どもの接し方に悩んでいる
  • 自発的に勉強をやってくれない

このようなお悩みを持つ保護者のかたは多いのではないでしょうか?

\そんな保護者のかたにおすすめなのが/
まなびの手帳ロゴ ベネッセ教育情報サイト公式アプリ 教育情報まなびの手帳

お子さまの年齢、地域、時期別に最適な教育情報を配信しています!

そのほかにも、学習タイプ診断や無料動画など、アプリ限定のサービスが満載です。

ぜひ一度チェックしてみてください。

子育て・教育Q&A