山田ルイ53世さんが「ダメダメでもなんとかなる」と語る理由
「不登校ライフナビ」で2025年11月に開催したセミナーでは、不登校経験をお持ちのお笑い芸人の山田ルイ53世さんにお話いただきました。セミナー終了後、特に「さらにお聞きしたいこと」を深堀りしました。不登校を経験した子ども時代に感じていたこと、大人になったからこそ見えてきたものなど、お話いただきました。
この記事のポイント
殺伐とした家庭の空気を「なんとかやわらげたい」と苦心する子ども時代
ー セミナーでは「大人に褒められることを至上命題」にしていらしたとおっしゃっていましたが、きっかけってあるのですか?
山田)いやまあ、いやらしい子どもだったなっていうことかも知れません。
小学校の2年生ぐらいのときに、国語の授業でポエムを書いて。当時、「新聞に載りたい欲」みたいなのがあったんですよ。そのちょっと前に、親父が新聞を読んでて、「え、なになに?」ってのぞいて見たら、当時の僕と同じ年ぐらいの少年が、なにかの拍子に恐竜の化石を見つけた、みたいな新聞記事だったんです。
その記事に、親父がしきりに感心していた。その子は本来は誰に言われるでもなく、恐竜や化石が好きやったんでしょうね。毎日そういう石切り場みたいなところに行ってガンガンやったりとか、内から湧き出る衝動、情熱みたいなことに突き動かされて。結果として新聞でも取り上げられたんだよっていう。その内から湧き出てくるものに、本来なら感化されるべきだったんですけど、僕はその薄い表面の鍋の灰汁みたいな、「新聞に載った」ってところをすごいなと思ったんです。
で、自分も新聞に載りたいな、と思ってたころに、国語の授業で先生がポエムをつくれ、と言ったわけです。国語でつくるポエムが、ええ作品は新聞社の子どもコーナーに載ることになるっていうのを、僕はなんとなく知ってたんですね。
「大人に褒められる」ことを求めてきた子ども時代をふり返る
だから、「これや、新聞のやつ!」ってなって。『僕のランドセル』っていう、いまでも覚えてるのが気持ち悪いんですけど、ポエムをつくったんです。
「ぼくのランドセルはおにいちゃんのおふるだ、おにいちゃんのおふるだからぺっしゃんこだ、ぼくもたいせつにつかっておとうとにあげる」っていうようなのを書いたんです。で、それを書くときに、僕はその当時、小学2年生なんですけど、"醤油"も"薔薇"も漢字で書けるようなちょっとませた子どもやったんで、当然「お兄ちゃん」の「兄」とか全然漢字で書けるんですけど。
でも大人は子どもがこういうのを書くとき、ひらがなで書いて幼さを醸し出した方が喜ぶやろなと思って。大人に気に入られるためにいやらしい気持ちで書いたのが新聞に載って、まんまと親も大喜びして、しばらく台紙に張って玄関に飾ってたんですけど、そういうことばっかり考えてる子でしたね。
なにが原因か?と言われると、兄貴がものすごい親父と仲悪かったんですよ。それを間近で見てたから、兄貴の代わりに喜ばせてあげたい、みたいなサービス精神とかもあったんですかね。兄貴と親父が仲悪いだけでなく、親父とおふくろもあんまり仲良くなくて、憎しみ合ってるとかでないにしろ、仲が悪かった。
そういう家のピリピリ感みたいなのをなんとか和らげたいっていう行動原理が当時すごくあったんですよ。
なんかいたたまれなくなるんですね、それはいまでもあんまり変わってないです。
大人になったいま、当時の自分に言うなら「もうほっとけ」
ー ご自身が大人になり、お子様が思春期を迎えられました。山田少年が、家庭で一生懸命バランスを取ろうとしていた当時の自分に、なんて言葉をかけてあげたいですか。
山田)そもそも子どもがどうにかできることじゃないから、「もうほっとけ、ほっとけ、親が仲悪かろうが」とは、いまやったら思いますけど。
ー そうした苦しかった時期に居場所はありましたでしょうか。その後不登校になったら特に家庭でも学校でも、交流というところが少し絶たれてしまいますけれども。
山田)ことさら自分がなんか過酷な環境におるなとは思ってもなかったから、居場所、相談相手みたいなことですか。児童会長やってたぐらいなんで、友だちは結構いたんです。ただ、人間関係にそこまでぐっと踏み込んだような付き合いかたをしてこなかった。これは今でもそうなんですが。
友だちと外で遊ぶことぐらいですかね。居場所っていう意味で言えば。
家族のなかで「バランスを取る役割だった」。
ー じゃあそんなに孤独を感じたりっていうこともなかったですか。
山田)孤独はあんまり感じていなかったかも。ちょっと誘導しようとしてます?おれを孤独な少年に仕立て上げようとして(笑)!読書好きってことじゃないですけど、小学校のときは一番本読むのが好きやったんで、多分親から見た当時の僕について感想を聞いたとしても、そう答えるやろなと思うんですけど、ずっと本読んでたみたいなのはあります。
だからちょっと本のなかに多少こう、逃げ込んでたみたいなのはあるかもしれないですね。
他人を気にしすぎるのをやめて、自分に集中する大切さに気づいた
ー 本を読むことがある意味「居場所」だったのですね。では、10代の皆さんにおすすめしたい本があれば教えてください。
山田)僕が子どもに読んでほしいなと思ってる本は、まず『クレクス先生のふしぎな学校』っていう児童書なんですが、古い児童書なんですけど。
これは僕がちっちゃいときに、さっき言った図書館でたまたま出合って、小学校の時に読んでたんだけど、ちりばめられたネタが面白くて。先生がいるんですけど、たとえば絵の具で緑をパレットにポン!と落として、それを炒めたらほうれん草のソテーになるみたいなことが、その魔法学校ではあって。
もう、ハリー・ポッターとかと出会う前に、まずクレクス先生に出会ってほしいんですよ!
他は、うーん。「ちっちゃいときに読んだ」みたいなこととしては、江戸川乱歩の『少年探偵団シリーズ』、『怪人二十面相シリーズ』ですね。あれは本当に、ドキドキワクワクする面白い冒険の物語で、そこで江戸川乱歩にハマると。
そうしたらそこから、『人間椅子』とかね、ちょっと訳のわからん、ちょっとグロい方の乱歩の方に進んでみたら面白いかなっていう。
ー「不登校経験は無駄でした」と言える、「周囲の期待に応えなくていい」と思われるようになった、大きな理由っていうのはありますか。
山田)よそと比べてどう、みたいなモチベーションの出しかたをしようとする癖がついてたわけです。あいつはこうなのにそれに比べておれは...。よしもっと頑張らなみたいな。若いときはそれでもいいと思うんですよ。
他人と比較したときの嫉みみたいな、ちょっと嫌な気持ちをガソリンにしても。
やっぱエンジンが丈夫ですし、走れるんですけども、40、50歳とかになってくるとね、他人と比べてどうこう思う時間がもうないっていうね。だからやっぱり自分に集中するっていうことを心がけています。
「40、50歳になったら人と比べてる時間がもうない」と気づいたと言う
たとえば僕が気にしてる、「なんかすごいなこいつ、負けたくないな」と思う相手がいたとして、そいつも僕のことを「ライバルや」と思ってくれてたとします。
彼が一番嫌がるのなんやろなと思ったら、こっちのこと見んと、自分のことだけに時間つくって努力してるっていう状態が一番怖いはずなんですよ。こっちに気ぃ取られて、何してんのやろっていう、その時間を全部こう自分に集中してる。
で、「あいつこっちのこと見もせえへんな」っていう状態の方が、怖いと思うんです。自分に集中してる状態っていうのがやっぱり一番コスパがいいなというか。
うん、しかも年取れば取るほど、そんなことにかまけている時間がもうなくなってくるっていうのもあるし。その方がやっぱり気分がいいですよね。自分の機嫌というか、心の持ちようをたとえば操作するリモコンがあったとして、自分でリモコンは持ってた方がいいんですよ。
他人のことを気にしすぎるっていうのは、このリモコンを人に渡してる状態。
自分ちのテレビのリモコンが隣の家のリビングにあっても用をなさないから、やっぱこう自分に集中するっていうのが一番良いかなという、当たり前のことにね、気づいたんですよ。
子育てを美化する風潮に流されず、「ダメダメ」な親で大丈夫!
ー 昔は周りを気にしてとにかく褒められようとしていた山田ルイ53世さんが、「自分に集中して自分でリモコンを持つ」というところに到達された。そこからの振り幅がすごいですね。
山田)セミナーでルーティンの話したじゃないですか。20も30もあって、大人になって精神医学の先生に相談したら、強迫神経症だったんじゃないですかと指摘されまして。
それをどうやって乗り越えたかっていうと、いっぱいあったルーティンを、説明してもわけわかんないと思いますけど、こっちの拳の中に全部封じ込めて。息をフッ!て吹きかけたら全部やったことになる、という一つのルーティンにまとめたんですよ。
で、この話を専門家の先生にしたときに、「ちょっと是非研究させて欲しい」と言われて。野生の狼が自分の傷をなめて治すかのような、普通はやっぱり行動療法とか、カウンセリングとか積み重ねていくらしいんですけど。僕はなんかもう、焦りによって「とりあえずどうにかせなあかん、動かなあかん」っていうことでそうなったんですけどね。
ー 自分で解決策すら見出せるのがすごいところですね。では最後に、不登校のお子さまや、そのお子さまとの接しかたにお悩みの皆さまに、メッセージとかいただけますでしょうか。
山田)なんかね、いまの社会の風潮でしょうか、親のハードルを上げられすぎてる気がするんですよね。
「もう母親、父親になったんだから!」と子どもが生まれた瞬間にハードルが上がる。
子どもが生まれたからといって徳が上がるわけではない。そんなことは絶対ないわけで、親だからこうしなきゃとか、子どもがいるんだからこうふる舞わなきゃいけないとかっていうのが、なんか多すぎる気がするんです。
「子を持って親になった途端に徳があがるわけがない」。
たとえば子育てに関しても、子育てパパママ向けの雑誌とかでも、理想に満ちたきれいな絵づくりをした紙面で子育てする家庭を美化するような傾向があるでしょ?
ああいうの僕はもうやめた方がいいと思ってるんですよ。要するにみんな、そうじゃないとダメだ。で、そうじゃないうちは劣っているとかね、とらわれちゃうと思うんですよ。でも多分、そんなんみんなうまくいってないですよ。
住宅展示場行ってモデルルーム見てね、うわあ、きれいだな、すごいなって憧れるんですけど。それってなんできれいかっていうと、人が住んでないからなんですよ。誰も暮らしてないんですよ、そこに。
でも我々は実際に生きて暮らしてるから、あんな風にはならないよっていうことを、「ダメダメでも大丈夫ですよ」っていうこと、あんまり自分のハードル上げすぎないで欲しいなっていうことを、親御さんに向けてはやっぱ言いたいかなとは思いますね。
(了)
「自分の心の持ちようを操作するリモコンは他人に渡さず自分が持っていた方がいい」と語る山田ルイ53世さんの言葉にハッとしました。感受性が高く他人の気持ちに敏感な子どもが、集団での生活で疲弊してしまう背景にもつながると感じました。最終的にご自身の内側から答えを導き出した山田ルイ53世さんの選ぶ言葉には、すみずみまでご自分らしさが感じられました。
山田ルイ53世 やまだるい53せい
お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。 地元の名門・六甲学院中学に進学するも、中学 2 年の夏にひきこもりになる。約 6 年 のひきこもり生活を経て大検合格。愛媛大学に入学も、その後中退し上京、芸人の道 へ。「ルネッサーンス」のフレーズとワイングラスでの貴族のお漫才で 2008 年にブレイク。現 在はラジオのパーソナリティやナレーション、コメンテーター、執筆業、イベントなど幅広く活躍 中。主な著書に「ヒキコモリ漂流記完全版」「僕たちにはキラキラ生きる義務などない」がある。
