受験直前期のわが子にどう寄り添う?―声のかけ方と関わり方のヒント

受験直前シーズンとなりました。そんな時期のわが子にどのような声をかけたらいいのか、どう関わったらいいのか悩む方も多いはずです。そこで今回は、ベネッセ教育総合研究所教育イノベーションセンターの庄子主席研究員に、受験期の子どもへの声のかけ方や関わり方について伺いました。

この記事のポイント

    親も子どももストレスを抱える時期

    受験期は子どもだけでなく、保護者のかたも強いストレスを感じるものです。焦りや不安から「今日のテストの結果はどうだった?」「もっと勉強しなさい」といった問いかけをしてしまうこともありますが、それは子どもにとってプレッシャーになってしまうことが多いのです。
    お子さまに声をかける前に、「この言葉は自分の焦りから出ていないか」と振り返ることが大切です。

    まずは親自身を満たすことが大切

    「シャンパンタワーの法則」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。シャンパングラスを積み重ねたタワーの上からシャンパンを注ぐと、溢れたシャンパンが下のグラスに流れ込んでいきます。これになぞらえて「まず自分自身を満たすことが、他者を満たすことにつながる」という考え方です。

    保護者のかたに余裕がない状態では、子どもを支え、満たすことは難しいもの。お風呂にゆっくり浸かったり、好きな動画を見たりするなど、まずはご自身を癒し、元気になれることを行って自分を満たしたうえで子どもに接するようにしてください。

    受験期のがんばりを「当たり前」と捉えないで

    受験期のお子さまは、学校に通いながら塾や宿題をこなし、長時間勉強を続けています。大人に置き換えれば「日中仕事をして夜も働く」ようなもの。そんな日常を続けていること自体がすごいことです。

    ・朝きちんと起きている
    ・学校に通っている
    ・帰宅後も勉強している
    ・宿題をやっている
    ・周囲に優しく接している

    こうした「当たり前」を認めてほめると、子どもは安心し、自己肯定感が高まります。ふだんの行いや努力をきちんと見てもらえていると感じられることで、受験勉強にも前向きな気持ちで取り組めるようになるのです。

    これは心理学で「ピグマリオン効果」と呼ばれる現象にも通じます。他者から期待されることで、その期待に応えようと努力し、成果が上がるというものです。「よくやっている」「できている」と期待されるほうが、子どもはずっと伸びるのです。

    この時期、否定的な言葉や比較は逆効果

    受験が近づくと、発破をかけるつもりで「あと何日しかない」「落ちたらどうする」「○○さんはもっと勉強している」といった言葉をかけてしまうことがあるかもしれません。ですが、受験直前期に大切なのは、新しいことを詰め込むよりも、これまで積み重ねてきた努力を続けることです。

    焦らせる言葉や友達との比較ではなく、「毎日よくがんばっているね」「ここまで続けてきたことがすごいよ」といった、日々の取り組みを認める声かけが、子どもの心を支える力になります。

    お子さまに合わせた声かけも大切

    またお子さまによって効果的な声かけは違います。状況や性格に合わせた声かけが必要です。

    計画的なタイプなら

    計画的なお子さまに、「休んでいる暇はないんじゃないの? 早く勉強しなさい」といった声かけは不要です。計画的に取り組めていることをほめながら「私にはまねできない、すごいね」と伝えるので十分です。

    完璧主義なタイプなら

    自分に厳しいタイプのお子さまは、「大丈夫だよ」と安心させるだけでは不安が拭えないかもしれません。そんなお子さまには挑戦している姿そのものを認めることが大切です。「志望校をめざして挑戦していること自体がすばらしいよ」と伝えるほか、こっそりと「のんびりしているお父さん見てみてよ、あなたと全然違うわね(笑)。本当にあなたはがんばっていてすごい」とユーモアを交えた声をかけて、肩の力を抜かせるのもよいかもしれません。

    受験を「成長の機会」にするために

    受験を経験したお子さまの多くが「成長の機会だった」と言います。ストレスの多い時期ではありますが、挑戦を通じて「自分はできる」という感覚を得ることができれば、その後の人生に大きな自信となります。

    保護者のかたの関わり方次第で、受験は「ただ苦しいもの」ではなく「成長の糧」として記憶されるもの。結果だけでなく、過程を認める姿勢が未来につながるのです。

    保護者のかた自身の余裕も忘れずに、受験期を家族で乗り越えていきましょう。

    プロフィール


    庄子寛之

    元公立小学校指導教諭。大学院にて臨床心理学について学び、道徳教育や人を動かす心理を専門とする。「先生の先生」として、ベネッセの最新データを使いながら教育委員会や学校向けに研修を行ったり、保護者や一般向けに子育て講演を行ったりしている。研修・講演は500回以上。講師として直接指導した教育関係者は1万5000人に及ぶ。

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