大学入学共通テスト分析速報【地歴公民】 センター試験とどう違った? 今後の出題傾向や対策は?

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大学入試センター試験は、2021年1月から大学入学共通テストに変わりました。今回は大学入学共通テストの地歴公民について、センター試験からどのような変化があったのかについてご紹介します。

この記事のポイント

センター試験から共通テストになり、何が変わった?

1990年から実施されてきた大学入試センター試験(以下、センター試験)は、2021年1月から大学入学共通テスト(以下、共通テスト)に変わりました。

センター試験から共通テストへの大きな変更点として、英語のリーディングとリスニングの配点の変更などが挙げられますが、それ以外ではどう変わったか?について、地歴公民(社会)でみられた特徴を3点ご紹介します。なお実際の問題例は新聞社からの報道発表、または大学入試センターの公式サイトでご確認ください。

高校生の【さまざまな学習の場面】を用いた出題

まず1点目の特徴は、問題の導入で「高校生の学習場面」が多く用いられていることです。これまでのセンター試験でも、地理A・Bで「~地方に興味をもって地域調査を行った」というような場面設定などがありましたが、共通テストでは地歴公民の全科目で「高校生が授業の内容を話し合う」「話し合った内容をまとめる」など、【さまざまな学習の場面】が設定されていました。
また旅行などの学校以外での日常生活を扱ったものもありました。

  • 校内上映会で映画「アマデウス」を鑑賞後、授業で感想を語り合う(世界史A・第2問)
  • 授業でジョージ=オーウェルの小説『1984年』を紹介し、討論をした(世界史B:第3問)
  • 欠席した日本史の授業のプリントを受けとり、話を聞く(日本史A:第5問)
  • 授業で発表するテーマについて、事前学習のため博物館に行く(日本史B:第1問)
  • ある大学のオープンキャンパスに行き、複数の講義に参加した(倫理、政治・経済:第5問/政治・経済:第2問)
  • 春休みに旅行したヨーロッパの歴史を調べて旅行記を書いた(世界史B:第5問)

従来、会話形式の問題文では、先生と生徒の会話の場面のみを用いたものがよくみられました。しかし共通テストでの会話形式の問題文では、先生と生徒、生徒同士が話し合う場面だけでなく、日本史Bの第1問のように、話し合いの中で出てきた【問い】をもとに、高校生がさらに調べたり、考察したりする探究的な活動の場面なども描かれており、新しい学習指導要領で重視されている「主体的・対話的で深い学び」を意識した構成でした。

【さまざまな資料】を用いた資料問題が多く出題された

2点目の特徴は、【さまざまな資料】を扱う資料問題が多く出題されたことです。
センター試験の地歴公民でも文章資料や写真、グラフなどを扱う資料問題は出題されていましたが、「日本史・地理などでは資料の扱いが多く、世界史では少ない」など、科目によって資料の扱いが異なりました。

しかし共通テストでは地歴公民の全科目において、文章資料をはじめグラフ、写真、地図など【さまざまな資料】が、センター試験に比べ多く扱われました。以下に資料問題の出題例をあげますが、これまで資料の扱いが少なかった世界史や倫理などで資料問題の大幅な増加が印象的でした。

  • 始皇帝死亡時の逸話について異なる出典例(世界史B:第1問)
  • 1750年~1821年のイギリスでの金貨鋳造量・紙幣流通量(世界史B:第2問)
  • 『デカメロン』(世界史B:第3問)
  • 遼(契丹)から宋への亡命者の手紙の【改ざん前】と【改ざん後】(世界史B:第3問)
  • 『新版 きけ わだつみのこえ』(日本史A:第1問)
  • ブラジル国立デジタル図書館が公開している新聞記事(日本史B:第1問)
  • 記憶の定着の度合いに関する実験の手順と結果(倫理:第4問)

以前のセンター試験などでは「この写真の人物は誰か」というような、資料そのものの知識を問う問題がよくみられました。しかし今回の共通テストでは、特徴の1点目にあげた【さまざまな学習の場面】で、高校生や先生が【さまざまな資料】をどのようにみて、どのように解釈しているか、さらにそこから生じる【問い】をどう考えるかという、以下のようなストーリー仕立ての出題もみられました。

  • 東京の高校生花園カオルさんのファミリーヒストリー(日本史A:第1問)
  • 京都に住む高校生のタロウさんの京都府宮津市の地域調査(地理A・B:第5問)

今回の共通テストでの出題は、特徴の1点目にあげた映画の上映会、読書討論会、博物館見学などの【さまざまな学習の場面】において、文章資料、グラフ、写真などの【さまざまな資料】に接して、どのような対話がなされ、考察が深まるのかという授業事例を示しているようにも思えます。そういう意味では、黒板を前に一方的に説明する「チョーク&トーク」の授業スタイルだけでない、多様な学びを示唆しているのかもしれません。

会話文・レポートなどの【文字量の増加】が顕著

そして3点目の特徴には、【文字量の増加】があげられます。これまでのセンター試験でも倫理などで問題文・会話文だけで1ページ埋め尽くしているような問題もみられましたが、今回の共通テストでは特徴の1点目にあげた【さまざまな学習の場面】での会話文、特徴の2点目であげた【さまざまな資料】に出てくる文章資料などを中心に、文字量が大幅に増加しています。
たとえば昨年度のセンター試験の地理Bと、共通テストの地理Bで、文字量を比較すると、以下のような結果となります(カウントは筆者による)。

  • 問題文:センター試験→約600字、共通テスト→約2、300字
  • 4行以上の設問文:センター試験→60%、共通テスト→84%

地理Bでは空欄や下線部のある文章や会話文が、センター試験と比べて約4倍に増えています。さらに共通テストの地理Bでは設問文の多くが4行以上と長文化したことも特徴としてあげられます。
昨年までのセンター試験では設問文が「~について述べた文として正しいものを選べ」など、おおよそ1~2行程度のものが多くみられましたが、共通テストの地歴公民では全体的に設問文が長文化したことで、問題を解く受験生の負担が増えたと思われます。

共通テストにはどのような対策が必要か?

センター試験と比べて大きく変わった共通テストですが、今後どのような出題が予想され、どのような対策が必要となるのでしょうか。なおこの記事の執筆時点(1月25日)では追試験が実施されていないため、本試験での出題傾向のみでの予測としてお読みください。
【さまざまな学習の場面】で【さまざまな資料】に接するなかでの対話と、そこから生じる新たな【問い】を投げかけるような展開は、来年度以降の共通テストでもこの傾向は続くと思われます。そして共通テストの特徴にあげた【さまざまな資料】と【文字量の増加】を考えると、これからの受験生には、なじみのあるインターネットの記事だけでなく、新聞や書籍などでの文字やグラフ、模式図などを速く正確に読み取れるようなトレーニングも必要と思われます。

共通テストでは、資料の読解や考察を求める出題も多くみられましたが、これらの読解や考察は教科書レベルの重要事項の理解を前提としているため、これまでどおり教科書レベルの重要事項の定着が必須と思われます。さらには学習した内容を、日常生活など授業以外の場面においても関連づけて自分ごと化して考えるようにすることも、これからの共通テスト対策になると考えられます。

まとめ & 実践 TIPS

共通テストはこれまでのセンター試験と比べて、資料の扱い方、場面設定などに特徴がみられました。これまでと同様に教科書レベルの重要事項をしっかり押さえるとともに、学習事項をさまざまな学習活動や日常生活の場面を通じて自分ごと化して理解を深めることをおすすめします。
なお、2021年度の大学入学共通テストの公民では、科目間に20点以上の平均点差が生じたため、得点調整が行われることが発表されています。得点調整に関する詳細は、大学入試センターのWebサイトでご確認ください。

株式会社プランディット 社会課 十河(そごう)
編集プロダクションの株式会社プランディットで、進研ゼミを中心に、小学校から高校向けの社会(地歴公民)の教材編集を担当。

出典
【Q&A】大学入試の基礎知識「大学入学共通テスト」とは? センター試験からどう変わる?
https://benesse.jp/juken/202101/20210116-1.html

Benesse 駿台 データネット2021
大学入学共通テストの問題は、「速報」の「 問題(※毎日新聞)」に掲載
https://dn-sundai.benesse.ne.jp/dn/center/

大学入試センターWeb
得点調整について
https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jouhou/tokutencyousei.html

プロフィール



1988年創業のベネッセ・グループの編集プロダクションで,教材編集と著作権権利処理の代行を行う。特に教材編集では,幼児向け教材から大学入試教材までの幅広い年齢を対象とした教材・アセスメントの企画・編集を行う。

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