自分自身と向き合いながら、書く喜びをつかむ作文の授業

今回紹介するのは、神奈川県のAL先生が小学4年生に行う国語の授業です。
目標は、子どもたちの書く力をつけることです。
作文を書く時、「何をどう書いていいかわからない」という子どもに、「思ったことを書いて」と教えるのではなく、どういう手順で【言葉を思い浮かべ】、【どうつなげばいいのか】を教えていきます。


今回、先生が決めたテーマは、「架空の個人面談」です。保護者と先生が自分について話す様子を想像して作文に書くのです。授業は、先生と保護者役になった子どもが個人面談する台本のない劇をするところから始まりました。

◆芝居
 先生        「A君は最近家でどんな感じですか?」
 保護者役の子ども  「一生懸命勉強しています」
 先生        「学校の様子で、話していることは?」
 保護者役の子ども  「掃除をサボっていて、先生に怒られたと言っていました」


このように子どもたちは、保護者になったつもりで答えていきます。2人、3人と劇を繰り返しながら、子どもたちが気づくのは、面談の主人公が誰なのかということです。主人公は、劇に登場しない子どもたち自身です。
さらに、もうすぐ個人面談という時期なので、子どもたちは興味津々です。

ここで、先生は、4色のカードを配ります。書く内容は、それぞれ決まっていて「学校での様子」「家での様子」「長所」「短所」です。
書き出したあと、手が止まった子を見つけると先生が寄り添い、アドバイスしていきます。話すのは、いつも先生が見ていること。「この間、B子さんに優しくしていたけれど……」「最近、積極的に発言していない?」などなど、これをしていくうちに、自然と何を書けばいいのかイメージをつかみ、書けるようになります。

ちなみに、授業後に先生に感想を聞くと、「架空個人面談という装置が、書く意欲を高めることにつながった」と話していました。
一方、書き終わった時、多くの子どもたちからは、「うれしい。こんなに書けるとは思わなかった」「びっくりした。書くのが楽しかった」「自分のことがわかった」という声が聞こえました。このことから推測すると、今回の授業は、文章を書き上げながら「私とは?」「私はどんな人間なの?」と、向き合いずっと考え続けることが「楽しかった」のではないかと感じました。「考えるのが楽しい」状況をつくる。これは授業づくりの最重要事項のひとつだと思います。

また、AL先生は、この授業をする前に、「ただいま日記」「おやすみなさい日記」「雨の物語」「?で始まる物語」など短い作文を書く活動を続けてきました。さらに、視点を変えて書く活動「教室の時計になって書く」「運動会のはちまきになって書く」「遠足の日の雲になって書く」などの活動もしてきました。それゆえ、抵抗感が少なかったのかもしれません。
ただ1名だけ「自分でない、保護者や担任教師の視点でもって書く」という設定が難しいという子どももいたそうです。その子には、先生が、個別に何度もフォローをしていました。
「事前の周到なトレーニング」と「全員をフォローする」は、よい授業と学級をつくるために欠かせないことだと思います。

その後、先生から、「自分にはいろいろな姿があるけれど、本当はどんな人間なのだろう?」という質問が出されます。
ここで、学習はグループ活動になり、自分の書いたものを発表し、アドバイスをもらいます。これは、新しい視点の情報の追加、情報の具体化をすることで、このあとの分類と絞り込みの作業に移行しやすくするための準備作業です。
 
たくさんの「自分の情報」を手にしたあと、これを文章にします。そのためには、情報の取捨選択が必要になります。
そこで先生は、文章の形として、使っていいのは、「始め」はカード1枚、「中」はカード2枚、「終わり」はカード1枚と決めました。
このように型を決めるということは、どう書いていいかわからない子の大きな手助けになります。まず「自分は書ける!」という自信を持たせようという配慮です。
ただ、4枚の選び方と並べ方に、子どもたちは悩みます。
そのために先生は、「書き出し」と「結び」の文章の例文を用意しました。これを手がかりに、自分のカードから選ぶのです。そして、「始め」と「終わり」のめどがついたら、話が流れるかどうかをポイントに「中」のカードを選びます。

手が止まっている子には、再び先生が寄り添いアドバイスします。

 ●「選んだ理由」や「伝えたいこと」を掘り下げる:これをすると、書きたいことが自然と見えてきて、選んだカードに書かれた情報の意味がはっきりしてきます。
 ●つながりが悪い時は、お母さんと先生の会話がどんな風に進むのかを想像させます。これで、自然な話の流れが現れるようになります。

使うカードが決まり、文章の骨子ができたところで、先生は、文章を書くコツを3つ伝えます。
 ●読み手が「読みたいな」と思うことが大事。
 ●見ているように、状況を書く。
 ●会話文と説明文を使い分ける。

さらに、先生は原稿用紙を3種類用意しました。
 A 16字×16字=約250字
 B 18字×18字=約300字
 C 20字×20字=400字
これは、書く負担を減らす配慮です。
 
全員があっという間に書き上げます。この授業は、一人ひとりが自分自身と向き合いながら、書く喜びと手応えをつかんでいく授業でした。

プロフィール


桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

お子さまに関するお悩みを持つ
保護者のかたへ

  • がんばっているのに成績が伸びない
  • 反抗期の子どもの接し方に悩んでいる
  • 自発的に勉強をやってくれない

このようなお悩みを持つ保護者のかたは多いのではないでしょうか?

\そんな保護者のかたにおすすめなのが/
まなびの手帳ロゴ ベネッセ教育情報サイト公式アプリ 教育情報まなびの手帳

お子さまの年齢、地域、時期別に最適な教育情報を配信しています!

そのほかにも、学習タイプ診断や無料動画など、アプリ限定のサービスが満載です。

ぜひ一度チェックしてみてください。

子育て・教育Q&A