ニッポンの教育をどう考えるべきか --苅谷剛彦・オックスフォード大学教授に聞く(1)

グローバル人材の育成、高校教育・大学教育・大学入試の一体的見直し、「何ができるようになるか」を重視した学習指導要領の全面改訂……。日本の教育に関する改革論議が急ピッチで進んでいます。しかし、そんな時だからこそ何が大切なのか、一歩引いて考えてみる必要があるでしょう。東京大学大学院教授から英・オックスフォード大学教授に転身した苅谷剛彦さん(教育社会学)が一時帰国したのをきっかけに、ベネッセ教育総合研究所の木村治生初等中等教育研究室長が対談しました。3回にわたって内容を紹介します。
※この記事は2015年4月に東京都内で行われた対談を、教育ジャーナリストの渡辺敦司氏がまとめたものです。



知識を喜びや感動に結び付けるには?

木村 苅谷先生には、東日本大震災後の教育を考える「ポスト3.11 高校生未来プロジェクト」にご協力いただき、2012年12月のワークショップでは全国から公募した高校生34人に大学レベルの授業をしていただきました。学ぶ目的や意義を考えてほしい、と願ってのことでした。

苅谷 プロジェクトの検討を始めた時は、まだ東日本大震災、いわゆる「3.11」が突き付けた衝撃が鮮明でしたよね。2012年の段階でも日本全体に危機感が濃厚で、高校生も無関心ではいられない、という意識が強かったと記憶しています。それが帰国するたびに人々の関心が薄れ、「平常化」してしまっていると感じます。しかし、日本社会が直面する課題はむしろ深まっているのかもしれない。グローバル化ひとつとっても、3年前よりはるかに切実な問題として迫っています。

近年の日本の教育改革や政策の議論を海外から見ていても、確かに危機感が背後にあるのはわかるのだけれども、どう解決につながるかは必ずしも見えてこないですね。

木村 確かに3.11は日本社会の課題を考えるうえで意味深い素材で、高校生も積極的に取り組んでいました。

苅谷 「学校では話せないことを話せてよかった」と言っていましたよね。そうして高まった関心を平常化された学校教育の中にどう落とし込むかが課題です。
日本社会の問題がどこにあるのか、みんな気が付いているはずです。それなのに変わらないのは、まだ本当の意味での危機感がないからでしょうか。

木村 しかし保護者の多くも、社会の変化を感じとっているようです。当研究所でも、社会の変化が激しい時代には、学校時代にどれだけ学んだかより「学び続ける力」が大切になってくる、と考えています。

苅谷 学ぶことはある意味「道具」でしかありません。学ぶ楽しみもありますが、学ぶことで「何ができるか」が重要です。ニーズがあって初めて学ぼうとするのかもしれません。3.11がそうでしたよね。でも、抽象的に言っていてもしかたがない。「ああ、人と一緒に考えると楽しい」「一緒に考えたら、何か新しいことができる」という喜びや感動を味わうことが不可欠でしょう。そうした学びを通して本の著者や自分とも「対話」ができるようになった時に、学びが深まります。そうした喜びを意図的・計画的に教えることが、教育では大事です。そして、何かができるようになる。

もちろん知識は必要です。しかし、知識をどう使えば、そのような喜びや感動や何かができる手応えにつながるかの「センサー」を働かせる感度は、どこかで教えなければ身に付きません。それが教育者や保護者の役割でしょう。


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