心理的にリスクの高い9月を乗り越えるには? やるとよいこと悪いこと【椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム #15】

椎名 雄一先生(一般社団法人日本心理療法協会代表理事)による、不登校のお子さまの保護者のかたより寄せられたお悩みにズバリお答えいただく『椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム』。今回のご相談は、「夏休み明けの9月、保護者はどんな対応をしたらよいのか」というお悩みです。椎名先生が「9月のリスク」背景について解説しながら、具体的な対応方法についてお話してくれました。

この記事のポイント

    なぜ不登校の子にとって9月がこれほどリスクが高いのか

    保護者からのご質問

    夏休みが終わりに近づくにつれて、子どもの様子が不安定になってきました。不登校になって半年ほどですが、夏休み中は比較的穏やかに過ごしていたのに、「もうすぐ学校が始まる」と意識した途端に表情が暗くなりました。9月は子どもにとって命のリスクが高いと聞きます。親としてどう過ごせばいいのか、なにをして、なにをしない方がいいのか教えてください。

    (ご質問は過去に椎名先生に届いた内容を要約したものです)

    椎名先生回答

    夏休みの間、不登校のお子さんは比較的穏やかに過ごしていたのではないでしょうか。それは当然のことです。夏休み中は学校がお休みで止まっていますから、比較対象がありません。みんなが休んでいる間は「自分だけが取り残されている」という感覚が薄れるんですね。

    ところが9月になると、社会が一斉に動き出します。比較と焦りが再起動します。加えて2学期は文化祭や体育祭といった行事が集中する時期。「みんなでそろって」「クラス全員で」という空気が学校中に満ちています。

    保護者のアンケートでは「先生から『休み明けにクラス全員そろって会えるのを楽しみにしています』と書かれた学級通信が配られ、とても嫌な気分になった」というコメントもありました。先生に悪気がないのはわかります。でもそれが不登校のお子さんにとっては大きなプレッシャーになるのです。

    さらに、気分が一度落ちた時にどのくらいで回復するかを保護者にアンケートで聞いたところ、その日のうちに回復する子は13%、2〜3日が42%、1週間以上引きずる子が32%、1ヶ月以上が14%でした。つまり約45%のお子さんが一度気持ちが落ちると1週間以上引きずるのです。9月の頭に落ちると、そのまま9月いっぱい、場合によっては2学期まるごと引きずる可能性があります。だから9月のスタートが重要なのです。

    「9月からがんばろう」が一番あぶない

    ここで保護者がやりがちなまちがいがあります。「夏休みも終わるし、9月から気持ちを切り替えてがんばろう」と親子で気合を入れることです。

    あるお子さんはこう話していました。「前日に自分で明日は行けるぞ!と理想を高めすぎて、当日の自分を苦しめてしまう」。これは本人の言葉です。理想を上げれば上げるほど、行けなかった時の落差が大きくなります。保護者のアンケートでも「最初の2週間で週4日も朝から登校して、3週目にはひどい体調不良で全休になった」というスタートダッシュで燃え尽きるパターンが複数報告されています。

    がんばること自体がリスクになる。これは直感に反するかもしれませんが、9月においてはとても大事なポイントだと知っておいてください。

    やらない方がいいこと

    具体的に「これはやらない方がいい」ということを挙げていきます。

    まず、登校できた日に「行けたね!」と大げさに喜ぶこと。これは行けなかった日のプレッシャーになります。行けた日が「特別な成功」になってしまうと、行けなかった日が「失敗」になりますよね。

    次に、「みんなもがんばっているよ」と言うこと。9月は比較行為がお子さんにもっともダメージを与える時期です。みんなが動き出しているからこそ、比較の言葉は刺さってしまうのです。

    そして、夏休み中の生活リズムを一気に戻そうとすること。身体は急には変わりません。アンケートでは「家にいると楽さが出てきてしまい、登校へのハードルが高くなる」という声がありました。楽な状態から一気にフル登校に切り替えようとすれば、心も体もついてこないのは当然です。

    やるとよいこと

    一方でやっておくとよいことがあります。

    まず、夏休み中にお子さんが感じられた「学校以外の自信」を9月にも途切れさせないことです。バイトでも推し活でも料理でも、お子さんが夏休みに手応えを感じていたことがあるなら、9月もそれを続けてください。学校に行けなかった日にその活動があれば、「きょうはなにもできなかった」とはなりません。

    次に、「行かない日」の過ごし方をあらかじめ親子で決めておくこと。行けなかった朝にあわてて考えるのではなく、事前に「行かない日はこう過ごそう」とプランがあるだけで、休んだ日の罪悪感がだいぶ軽くなります。

    そして、先生に「最初は週2からでお願いします」と事前に伝えておくこと。これはスタートダッシュ燃え尽きの予防です。保護者が先生と安全なラインを決めておくことで、お子さんが追い込み過ぎるのを防ぐこともできます。

    9月を「生き延びる」をゴールにしよう

    9月は「学校に行けるか行けないか」のギリギリをお子さんが毎日戦っている月です。親にできる最大のことは、「9月を生き延びること」をゴールにすることだと思います。

    登校できたかどうかではなく、9月30日にお子さんが「まぁ、なんとかなったかな」と思えていれば成功。そのためには行けた日を褒めすぎず、行けなかった日を責めず、毎日同じ温度で「おはよう」「おかえり」と声をかけ続ける。以前の記事でもお話した「定点観測」です。親が揺れなければ、お子さんの揺れも小さくなります。


    揺れ幅を少なくし、むしろ「登校した日ポイント」を貯めていくくらいのイメージで、「今月5ポイント貯まった!」とやっていた方が気分は楽ですよね。

    プロフィール


    椎名 雄一

    1973年生まれ。千葉大学工学部情報工学科を卒業後、電気通信事業会社に入社。20代でうつ病を発症し、約10年間のひきこもりや自殺未遂を経験。その後、自身の経験を「今悩んでいる人」のために生かすべく心理カウンセラーに転身。一般社団法人日本心理療法協会の代表理事として活動し、心療内科のカウンセラーとして現場での支援方法を模索。企業研修や企業カウンセラーとしても活躍。
    近年では通信制高校を経営し、中高生や保護者との関わりを通じて若者支援に力を入れている。2021年には「不登校・ひきこもりから抜け出す7つのステップ」(学びリンク株式会社)を出版し、不登校やひきこもりで悩む中高生や保護者のために「オンライン保護者会」を立ち上げ、2000人を超える保護者と対話を続けている。現場の声を大切にした講演、カウンセリング、コミュニティ運営には定評がある。

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