「学校に行きたくない」はSOS。親が焦りを手放すと子どもは自分らしく動き出す ー 西野 博之さん
不登校の子どもの数は35万人を超え、過去最多を更新し続けています。(※1)学習の遅れや生活リズムの昼夜逆転を目の当たりにし、不安を抱える保護者に向けて40年間、学校に行かない子どもたちと向き合い続けてきた西野 博之さんは「大丈夫。なんとかなるよ」と伝えます。学校に行かない子どもたちが見ている世界を理解し、親自身が安心を手に入れることで、「なんとかなる」の境地に立てるのです。
この記事のポイント
「行きたくない」が言えたとき、子どもはすでにギリギリの状態
2024年度、「不登校」とされた児童・生徒の数は過去最高の35万人超に。また、子どもの自死は4年連続で500人を超えており、動機の内訳を見ると、友達との関係や学業不振など学校問題が最も多くなっています。(※2)そうした実情を知らない人からは「不登校は単なるサボり」と言われることもありますが、「不登校は命に関わる問題」なのです。
文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」を元にグラフを作成
だからこそ、子どもが「学校に行きたくない」と言葉にできたときには、気持ちがギリギリの段階であることがほとんどです。そんなとき、「まずは焦らずじっくり話を聴いてあげてほしい」と西野さんは言います。
精神的に崖っぷちの状態であるところ、保護者が不安や焦りをぶつけてしまうと、子どもはさらに追い詰められてしまい、生きづらさを抱えることになります。その結果、不登校が長期化したり、精神疾患につながったりと問題が複雑化していきます。だからこそ西野さんは「親に安心していられること」を何よりも重視しているのです。
西野さんが解く「学校に行かない」ことへの誤解
保護者が不安になる背景には、世の中に根強く残っている「不登校についての誤解」があると思われます。たとえば「夜更かしして朝起きられないのは怠けているから」はその代表です。昼夜逆転は「まじめな子が、学校に行きたいのに行けない自分を責めた結果、心が壊れてしまうのを防ぐために、朝起きられない体をつくり出している。そうして、精神的に自分を追いつめる場所から逃れられるようにする現象だと受け止められます」と西野さんはこれまでの経験から話します。ほかにもよくある誤解を紹介します。
誤解1:「義務教育」だから学校には行かなければならない
「小中学校は義務教育だから学校に行かなければ」と思っている保護者も少なくないですが、それが誤解なのです。子どもが学校に行かなければならない義務は、どこにも規定されていません。子どもには「教育を受ける権利」があるだけです。教育について義務があるのは保護者と社会・国であり、学校に行きたい子を働かせるなどして「行かせない」ことは親の就学義務違反です。
「また、学校に行けなくなった子にも学ぶ権利は保障されるべきで、社会や国は、"学校に行けないから学べないのは仕方ない"ではないんです」。
誤解2:みんなが学校にいる時間は家で勉強するべき
同年代の子が学校で勉強している時間に、好きなことをしているのは「ズルい」と言われることがあります。ですが、そもそも「学校に行く義務」がないのですから、ズルはしていません。
「親が世間体を気にして、"みんなが学校にいる時間に外出するとズルしていると言われる。家にいなきゃダメだよ" と言い聞かせてしまうと、子どもは "学校に行かない自分は、悪いことをしている" と刷り込まれてしまいます。そうではなく、一緒に買い物に出かけたり、映画があれば観に行ったり、親から声をかけて、子どもがのってくれば、どんどん外出していいんです」。
誤解3:ゲームを取り上げれば学校に行く
学校に行かなくなって、昼夜を問わずゲームに夢中になるケースも多く聞かれます。「ゲームを取り上げれば学校に行く」と考え、ゲームを禁止するのは逆効果です。
「学校に行きたくても行けなくなった子は、自分を責めて苦しんでいます。楽しいことが何も見つからず、ゲームに逃げ込むことでかろうじて自分を保てている場合があります」。
やがて、ゲームより面白いものに出会い、心の余裕が生まれ、自然とゲームから離れていった子を西野さんは何人も見てきました。目の敵にするのではなく、今はゲームが子どもの心のよりどころなのだと理解したいですね。
誤解4:不登校の子は「学校が嫌い」である
「不登校の子どもは、学校嫌いだと勝手に決めつけないでほしい」と西野さんは教員に向けた研修でも繰り返し伝えてきました。
「多くの不登校の先輩たちがこう言ってきました。" 学校が安全で、安心して、楽しく学べるなら、学校に行きたかったよ" と。でも安全じゃない、安心できない、楽しくない。だから学校に行けなくなってしまったのです」。
コロナ禍の学校では、運動会も遠足も修学旅行も中止になり、給食は黙って食べる「黙食」が当たり前になりました。あの頃、急激に不登校が増えたのも、学校の楽しい部分がなくなったことが背景にあるかもしれません。不登校とは「学校に行きたいのに、行けなくて困っている状態」だととらえると、大人側も考え方が変わるのではないでしょうか。
保護者がすることは「クウ・ネル・ダス」、3つのチェックだけ
では、保護者は何をしたらいいのでしょうか。西野さんは「クウ・ネル・ダスだけでいい」と言います。クウ=食べられているか、ネル=寝られているか、ダス=排泄できているか。この3つだけを気にかけていればいいのだそうです。
子どもが食べ、眠り、排泄できるには、家庭が「安心できる居場所」なのが大前提です。家の居心地がいいから学校に行かないのだ、居心地を悪くすれば家にこもらず学校に行くようになるという考え方も、西野さんは「真逆です」と断言します。
「家の中に安心が広がって、子どもが " 自分が自分のままでいい " のだと自己肯定感が回復されてくると、エネルギーが蓄えられます。すると、暇だ、どこか行きたい、外に出たい、という気持ちになるのです」。
保護者の「学校に行ってほしい」という願望は毛穴から出ている⁉
西野さんが「毛穴から出る」と表現している「保護者の焦り」の問題があります。口では「学校に行かなくていいよ」と言っていても、心の中に「いつかは行ってくれるだろう」という期待感があると、それが空気として毛穴から出て、子どもに伝わっているというのです。
「僕はこれを " 毛穴出る出る " と呼んでいます。親から " いつから行ってくれるのかな?" という空気感が出ている間は、子どもはびくとも動きません。大切なのは存在を丸ごと肯定すること。" 何をする・できる "、ではなくて、" いる・ある " に光を当てる。親からの " あなたがいるだけで幸せだよ " というまなざしが子どもに向けられると、自然と子どもは動き出すのです」。
西野さんの講演スライドより。力強い言葉が保護者たちの背中を押してくれます
好きなことに没頭して、子どもは動き出す
そのようにして、やがて家庭で安心を得た子どもたちは、次第に「自分の好き」を見つけることで動き出します。西野さんが所長を務めていた川崎市子ども夢パークを描いた映画『ゆめパのじかん』には、アリの巣をひたすらじっと観察し続ける少年や、木彫りに没頭する中学生の女の子といった「好き」を追求する子どもたちが登場します。中学生の女の子は、雀の木彫りを一人で彫り上げました。「ノートに書き写すだけの勉強が嫌いだった」と話した彼女は、後に優秀な成績で大学に進学したそうです。
中学生の女の子は、「夢パーク」で木工ボランティアをしている方と出会ったのをきっかけに、木彫りに没頭していきます (C)gara film/nondelaico
「知りたい、わかりたい、やってみたい。子どものパッションを大事にすることが学力の土台になります。学力とは出会いをものにする力なんです」。
西野さんはAI時代の到来においても、このパッションが重要になると言います。「暗記型の勉強の時代はもう終わります。AIが答えを出してくれる時代に大事なのは、探究心とコミュニケーション能力、非認知能力です。好きなことにどんどん集中させてあげてください」。
保護者同士のつながりで「安心」を手に入れよう
保護者が安心して、子どものありのままを受け止めることが、子どもの回復につながるとして、保護者はどうやってその安心を得られ、保ち続けられるのでしょうか。西野さんが強く勧めるのが、同じ境遇にある保護者とつながる「親の会」への参加です。
「不登校についての悩みは、当事者本人や、その親から経験談を聞くのが一番。先輩の親や子どもから " 大丈夫 " と言ってもらえることが大きな安心につながります」。
また、西野さんが代表を務めるフリースペースから巣立っていった子どもたちがテレビの取材で答えた言葉も、とても勇気をもらえます。「" 番組を見る人たちに伝えたいことは?" と聞かれて、みんな同じことを言ったんです。" なんとかなるよ " って」。
すべての子どもが同じペースで育ち、同じ環境がふさわしいわけではありません。現在の学校教育が合う子もいれば、合わない子もいる。それは子どものせいでも、親の育て方の失敗でもないのです。つまり、不登校は、子どもに問題があるわけでも、育て方に失敗したわけでもありません。
「クウ・ネル・ダス」を確認しながら、子どもの好きなことを応援し、不安になったときは親どうしのつながりで「大丈夫」を受け取る。そうして保護者が「大丈夫。この子はなんとかなる」と心から思えたとき、子どもは、その「大丈夫」を受け取って、自分で動き出せるでしょう。
参考資料
(※1)出典:文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」
(※2)出典:厚生労働省自殺対策推進室/警察庁生活安全局生活安全企画課「令和7年中における自殺の状況」

西野 博之(にしの ひろゆき)
認定NPO法人フリースペースたまりば理事長。川崎市子ども夢パーク・フリースペースえん他、各事業総合アドバイザー
1986年より不登校児童・生徒や高校中退した若者の居場所づくりにかかわる。1991年、川崎市高津区にフリースペースたまりばを開設。 不登校児童・生徒やひきこもり傾向にある若者たち、さまざまな障がいのあるひとたちとともに地域で育ちあう場を続けている。2003年7月にオープンした川崎市子ども夢パーク内に、川崎市の委託により公設民営の不登校児童・生徒の居場所「フリースペースえん」を開設、その代表を務め、2006年4月より川崎市子ども夢パークの所長に就任。2021年3月までの15年間所長を務めた。神奈川大学非常勤講師。精神保健福祉士。著書に『居場所のちから-生きてるだけですごいんだ-』(教育史料出版会)、『西野流「ゆる親」のすすめ<上>7歳までのお守りBOOK~「正しい母さん・父さん」を頑張らない。~』『西野流「ゆる親」のすすめ<下>10歳からの見守りBOOK~だいじょうぶのタネをまこう。~』(ジャパンマシニスト社)、『マンガでわかる!学校に行かない子どもが見ている世界』(KADOKAWA)等多数。
