保護者の価値観のアップデートはできている?【椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム #14】

椎名 雄一先生(一般社団法人日本心理療法協会代表理事)による、不登校のお子さまの保護者のかたより寄せられたお悩みにズバリお答えいただく『椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム』。今回は、不登校になったお子さまとの会話がかみ合わないと悩む保護者からのご相談です。椎名先生からは、保護者が育った「昭和時代の価値観」を前提にしていないか?と鋭い指摘がありましたが、さてどういうことでしょう。

この記事のポイント

    話題を共有するには親子の「前提条件」が同じであることが必要

    保護者からのご質問

    中学生の息子が不登校になり半年が経ちます。こちらからいろいろと話しかけても乗ってこないし、アドバイスをしても「わかってる」で終わります。ゲームやスマホの話題ばかりで、将来のことを考えている様子もありません。私の言うことが時代遅れなのでしょうか?でも、生きるうえで基本的なこと(挨拶、我慢、努力)は時代に関係なく大切だと思うのですが...。

    (ご質問は過去に椎名先生に届いた内容を要約したものです) 

    椎名先生回答

    どんな課題にも前提条件がありますよね。たとえば「果実を育てる」にしても、桃といちごとではそもそもがまったく違います。成長に適した季節も違ううえに、収穫までの期間も違うもの。桃は3年以上かかりますが、いちごは1年以内に収穫を迎えます。いちごは、ランナーという茎を伸ばして根を張っていきますが、桃は木ですからそんなことはしませんし、実をむすぶ過程もこんなに違うわけです。

    では、お子さんは桃でしょうか?それともいちごでしょうか?いやいや、キウイかもしれませんし、ブルーベリーかもしれませんね。ブルーベリーを育てるには土壌から違いますから、桃と同じ土に植えたらまず育ちません。それなのに同じやりかたのマニュアルで育てようとしたら失敗するのは当然なのです。

    ここで少しイメージしてみましょう。まずはお子さんのこと。そして、お子さんが過ごしてきた平成から令和の社会のこと。現代やこれからの未来のこと。それは親御さんが育った昭和の時代とは、まるで違っていることがわかると思います。だとしたら、そのギャップに気づかずに、昭和のままの古いやり方を続けていては、うまくいくはずがありませんよね。

    保護者が言う「いろいろ」は、本当にアップデートされているか

    多くの保護者が「子どもにいろいろ話しかけても乗ってくれない」と言います。ここでひとつ試してみてほしいのです。保護者が言うところの「いろいろ」を書き出してみて、次に、ここ半年のトレンドに関することだけを残したら、あとは消してください。さあ、いくつ残りましたか?

    子どもたちは現代を生きています。半年前の話題でも古い感じがするくらいのスピードで世の中が動いています。まして昭和の価値観で話しかけていたら反応するわけがありません。参勤交代の話題を出して「なるほど!今度、参勤交代やってみよう!」となる人がいないのと同じこと。これは極端な例ですが、実はそれに近いことが日常で起きているのです。

    保護者アンケートでも親子の価値観の違いは明確に出ています。

        「駅で迷ったら親は駅員さんに聞く。一方の子どもはグーグルマップ」
        「いまの時代は大人に聞くよりChatGPTに導いてもらう方が信用できると娘が言う」
        「失敗したくないんだよ。ネットで口コミをみてから選ぶ。★が少なければ選ばない」
        「親は遅刻してでも行った方がいいと思う。だけど子どもは、遅れるくらいなら行かない方がマシ」

    これらは「甘え」でも「弱さ」でもありません。
    子どもたちが生きている世界の前提条件が違うのです。ネットで正解が検索できる時代に育った子どもが「失敗を恐れる」のは当然の反応です。人に聞かなくても情報が手に入る時代に「まずは専門の人に聞いてみなさい」と言ったところで、響かないのも当然と言えませんか?

    まずは「保護者の昭和の常識」を棚卸ししてみよう

    アンケートで「昭和の子どもといまの子の違い」を保護者に聞いたところ、「モチベーションが上がらないと動かない」を選んだ保護者が約8割、「体を動かさなくなった」が約7割5分、「我慢できない子が増えた」が約5割5分でした。

    この結果だけを見ると、「いまの子は根性がない」と思ってしまいそうです。でも同じアンケートのなかに「優しい子が増えた。競争するよりお互いに助け合っている」「大人の矛盾した言い分を見抜く」「ネットからさまざまな情報を収集するなかで、大人よりも多くの価値観を知っている」という声もたくさんありました。

    つまり、保護者の慣れ親しんだ "昭和の物差し" で測れば「弱くなった」ように見えることが、別の角度から見れば「優しくなった」「賢くなった」「繊細になった」とも言えるのです。

    ある保護者は「多様性の時代なのに!?」と息子さんに言われてハッとしたそうです。アップデートが必要なのは子どもではなく親の方だった、と。

    保護者は、反省ではなくアップデートをしよう

    ここまで読んで「そうか、自分はダメだったんだ」と反省する必要はありません。昭和の価値観で育った保護者が昭和の価値観を持っているのは当たり前のことです。それを責めても何も変わりません。ただ、アップデートは必須です。

    実際に価値観を書き換えた保護者からはこんな声が届いています。いくつか紹介しましょう。

    「考えかた、やりかたが完全に昭和の悪い風習をガチガチに踏襲していた。でも気づいて から見る世界が変わった」

    「為せば成る、に代表される価値観が、やろうとしても無理なことはある、という方へ変 わった」

    「『大事なこと』の定義が一変した。なによりも本人の心が動くことが大事だと思うようになった」などです。



    まずはひとつだけやってみてください。きょう、お子さんが観ているアニメ、やっているゲーム、推しているもの。そのなかからひとつだけ、自分でも調べてみてほしいのです。YouTubeで検索するだけでもいいですね。それだけでお子さんへの次の会話が変わります。お子さんが「え、知ってるの?」と驚いた顔をしたら、アップデートの第一歩は成功ですよ。

    プロフィール


    椎名 雄一

    1973年生まれ。千葉大学工学部情報工学科を卒業後、電気通信事業会社に入社。20代でうつ病を発症し、約10年間のひきこもりや自殺未遂を経験。その後、自身の経験を「今悩んでいる人」のために生かすべく心理カウンセラーに転身。一般社団法人日本心理療法協会の代表理事として活動し、心療内科のカウンセラーとして現場での支援方法を模索。企業研修や企業カウンセラーとしても活躍。
    近年では通信制高校を経営し、中高生や保護者との関わりを通じて若者支援に力を入れている。2021年には「不登校・ひきこもりから抜け出す7つのステップ」(学びリンク株式会社)を出版し、不登校やひきこもりで悩む中高生や保護者のために「オンライン保護者会」を立ち上げ、2000人を超える保護者と対話を続けている。現場の声を大切にした講演、カウンセリング、コミュニティ運営には定評がある。

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