不登校の子と親の心の回復に。アートセラピーで心の声を聴く方法
学校に行けない日々が続くと、子どもも保護者も焦りや不安を抱えてしまいますよね。不登校の子どもの心の回復の一手段として、「アートセラピー」が注目されています。アートセラピーは、特別な道具や技術は不要で、身近な材料を使って自宅で行うことが可能です。今回は、公認心理師・3色パステルアート®︎主宰でもある浜端 望美さんに、アートセラピーの6つのメリットと心の声を聴く体験ワークについてお話いただきます。
この記事のポイント
不登校の子どもと「アートセラピー」心の回復をアートでサポート
アートセラピーとは、「アート」という芸術の領域を用いて、健やかな生活やQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上をサポートすること全般を指します。
アートセラピーという言葉は、1940年代のイギリス人画家「エイドリアン・ヒル」が、自身の結核療養の際、「描くことは心の回復につながる」と実感した経験から名づけました。
もちろん絵を描くだけではなく、音楽や粘土、俳句、写真など、さまざまな種類のアート(芸術)でアートセラピーは可能です。身近にある材料を使い、自宅で行えるアートセラピーは、不登校の子どもにとって、心を回復させるきっかけになるかもしれません。
学校に行けない子どもの心に寄り添う アートセラピー6つのメリット
アートセラピーは、「学校に行けない」という焦りや葛藤、将来への不安などを抱える不登校の子どもの心の回復に期待できると考えられています。アートセラピーのメリットはたくさんありますが、ここでは6つに絞ってご紹介します。
【アートセラピーの6つのメリット】
1.無心になれる
2.感覚的体験ができる
3.感情発散、浄化作用がある
4.上下のないフラットな関係
5.いつもと違うこと=多角的な理解、新しい発見
6.ものを媒介したやわらかいコミュニケーション
不登校で家にこもる時間が増えると、ネットや本から得た情報が頭の中をぐるぐると回り、悩みごとでいっぱいになりがちです。そうならないためには、意図的に思考から離れて無心になり、感覚的な体験をする時間が大切です。
また、思春期特有のイライラやモヤモヤを保護者などにぶつける代わりに、作品として紙の上で安全に発散・浄化できる点も大きなメリットといえるでしょう。
さらに、アートセラピーには周りの人との関係性への効果もあります。保護者や先生、カウンセラーなどの大人と子どもの間には、どうしても上下関係が生じがちです。しかし、アートには正解がないため、経験や立場に左右されないフラットな関係を築きやすくなります。
そして、いつもと違う体験を通じて、子どもの新たな一面を発見でき、多角的な理解にもつながるでしょう。言葉だけでは凝り固まりがちな関係も、作品を間に介することで柔らかいコミュニケーションが生まれるのです。
実際にアートセラピーを体験してみよう
実際にアートセラピーを体験してみましょう。ぜひお子さまと一緒にやってみてください。
「アートで見る相関図〜距離感を感じてみよう〜」
【用意するもの】
・A4サイズの紙(コピー用紙でもなんでもOK)
・描くもの(色鉛筆・クレヨン・ボールペンなど。色があるものがおすすめです)
【手順】
STEP1:枠を描く
STEP2:中心に自分を表す○を描く
STEP3:距離感が近そうな人を1人○で描く(家族、パートナー、友人など)
STEP4:思いつく人をつけ足していく。何人でもOK。枠の外にはみ出してもOK
STEP5:リアルの世界にいない人を描いてもOK
自分との距離感や位置を感覚的に捉えながら描いてみてください。〇は色分けしたり、ハートや星マークなどにしたりしてもOKです。会ったことのない人や実在しない人、過去や未来の自分なども描くことができます。
【描き終えたら】
以下の画像は、私が実際に作ったものです。
描き終えたら、紙を少し遠ざけて客観的に全体を眺めてみましょう 以下の2つの視点で自分の内面を見つめてみてください。
(1)理想の相関図を考える: 「何かをつけ足したい?」「減らしたいものはある?」「位置をずらしたい丸はある?」など、考えてみましょう。
(2)視点を変えて見てみる: 自分が書いた他の丸(相手)の立場に立って、この図がどう見えるかを想像してみましょう。
アートセラピーから心の声を聴く
アートセラピーを通じて、『頭で考える』ことから、『感覚(体感・気持ち)』へ転換し、客観的に眺めることで、言葉にできない自分の本音に気づくことができます。
今回体験していただいたアートセラピーでは、自分と周囲の距離感を可視化することで、「実はこの人を遠くに感じていた」「この人ともっと近づきたい」といった、自分自身のリアルな感覚を発見できるでしょう。
このアートセラピーには、「この位置にある〇はこういう意味だ」という正解や分析があるわけではありません。描いた後に「どんな気持ちで描いたか」を自分で感じたり、作品を介して誰かと話したりするきっかけにしてみてください。
「人と交換できない自分だけの感覚」を大切にする時間が、情報や他者の言葉に左右されない「自分自身の声」を聞く手段になります。
【アートセラピー体験の感想】
ワークショップで、不登校の子どもを持つ保護者が、実際にアートセラピーを体験したときの感想をご紹介します。
「改めて自分と子どもや周りの人との距離感を考えることができ、有意義な時間になりました。アートセラピーは素晴らしいです。ありがとうございました」
「とても素敵な体験でした。ありがとうございました。とても楽しかったです」
「『相手側から見たら』という視点が面白いと思いました」
「私と息子の丸を書いたとき、何故だか涙が出てきました」
「丸の数が少ないなぁ。もっと人に頼れる環境を作ろうかなと思いました」
まとめ & 実践 TIPS
不登校の子どもの心の回復には、正解を急がず「感じる時間」を大切にすることが重要です。アートセラピーは、特別なスキルがなくても自宅でできる、心への優しいアプローチです。子どもの新たな一面を発見したり、保護者と子どもの距離が自然と縮まるきっかけにもなるでしょう。「何かしてあげたいけれど、何をすればいいかわからない」そう感じたときこそ、ご紹介したアートセラピーを一緒にやってみてください。アートセラピーが、子どもと保護者の心の回復のきっかけになれば幸いです。

浜端 望美(はまばた のぞみ)
公認心理師/3色パステルアート®︎主宰
2011年より、精神科クリニックや通信制高校、医療・ヘルスケア領域の企業にて、カウンセリングおよびアートセラピーを実践。 2012年に「3色パステルアート®︎」を創設し、2歳から93歳まで延べ6,000人以上に指導。現在はインストラクターの育成にも取り組み、アートセラピーの普及に力を入れている。 雑誌やテレビドラマの監修も手がけ、日本テレビ系列連続ドラマ『タツキ先生は甘すぎる!』では、アートセラピー監修を担当。 子どもから大人まで、「上手・下手にとらわれない表現」を大切に活動している。
