不登校から考える|夫婦の対話と生き方が子どもの未来を救うヒントに
「また今日も学校に行けなかった……」。そんな日が続くと、「もっと厳しくすべきだったのか」「甘やかしすぎたのか」など、自分を責めてしまう方も多いのではないでしょうか。しかし、不登校の背景には、日本社会の長時間労働や、家庭内のコミュニケーションのあり方など、大人側の環境も深く関わっている可能性があります。
20年以上にわたり、不登校やひきこもりの子どもを持つ保護者の相談を受け続けてきた医師・臨床心理士として、夫婦の対話と保護者自身の生き方が、子どもの未来にどうつながるのか、私の考えをお話しします。
この記事のポイント
働き者の大人たち...不登校は社会の構造も関係している?
日本の男女は先進国で1番働いている
出典: 内閣府男女共同参画局 男女共同参画白書 令和5年版 コラム1「生活時間の国際比較」より参照
2021年のOECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本の男性の労働時間は平日10.5時間となっており先進国で最長です。一方、女性はスウェーデンの次に労働時間が長く、先進国の中で2位の平日6.3時間となっています。
そして、日本の男性は、先進国の他国と比べて家事・育児などの無償労働の時間が極めて少なく、女性の負担割合は84.6%となっており、偏りが見られるのが現状です。
夫に「もっと家事・育児に積極的になってほしい...」、そんな悩みを持つ女性も多いかもしれません。しかし、この状況は男性の怠慢ではなく、「生活を奪われるほど長く働かされる仕組み」が社会的に出来上がっているためとも考えられます。
社会が、男性の保護者に家庭で子どもと向き合う時間的・精神的な余裕を奪っているという見方もできるのです。
大人の働きすぎを子ども達はどう見ている?
こうした過酷な労働環境で生きる大人達の姿は、もしかしたら子ども達の目には「大人って楽しそうじゃない」と映っているのではないでしょうか。
毎日仕事に手一杯で、余裕のない両親や先生を見て、子ども達は「大人になるって大変そう...」「社会に出て良いことってあるのかな?」と無意識に感じ、社会への入り口である学校を拒否しているのではないかと感じています。
夫婦の意見のズレは「コミュニケーション」を教える絶好のチャンス
「柿の黒ずみ」と子どもの特性ー夫婦のズレは「正解」の違い
保護者間で子育ての意見が食い違うとき、「なぜわかってくれないんだろう」と感じることはきっと多いでしょう。でも、そのズレの多くは、どちらが正しい・間違いという問題ではなく、育ってきた環境の違いから生まれることも多いです。
我が家の話でたとえると、家の庭で採れた柿のヘタを取ると黒い部分が出てきたので、都会育ちの奥さんは「病気かな?」と心配しました。でも田舎育ちの私には「柿ってそういうものだよ」とごく自然なことでした。
実はこの黒ずみ、農家では消毒して取り除くものの、味には問題がありません。どちらの意見も「良い」「悪い」ではなく、見てきた「普通」が違っただけなのです。
これと同じ現象は、子どもの特性の見方でもよく見られます。「うちの子、じっとしていられないし、先生の話が聞けないみたい......何かの病気かな?」と心配する保護者がいる一方で、「子どもってそんなものじゃない?」と感じる親もいます。
かつて子どもが野山を走り回り、多少のやんちゃは「子どもらしさ」として受け止められていた時代には問題にもならなかった特性が、人口が密集し、子どもにも多くが求められる現代では「対処が必要なもの」と見なされることがある----これは、柿の黒い部分を「病気」と見るか「普通」と見るかの違いと、本質的に同じ構造なのです。
意見が合わなくてもいい...大切なのは向き合い方
お互いの意見が平行線になり、時には感情的になったり、不機嫌になったり、あるいは意見のズレを見て見ぬふりするときもあるかもしれません。
でも、この夫婦の意見のズレこそ、子どもにコミュニケーションの良いモデルを見せる絶好のチャンスです。なぜかというと、子どもは、大人が思っている以上に、保護者同士のやり取りをよく見ています。そして、「どちらが理屈で正しいか」よりも、「相手の気持ちをどう思いやるか」、「どう平和的に解決するのか」を、一番身近な大人から学ぼうとしているのです。
そのため、無理に意見を揃えようとする必要はなく、たとえケンカをしたとしても、「どう仲直りするのか」「どう譲り合うのか」「どう謝るのか」「どう許すのか」、保護者として正しいコミュニケーションの方法を見せることが大切です。
社会背景やジェンダーギャップなど、自分と相手の置かれている状況を理解し、お互いの背景を尊重しながら対話を続けることが、子どもにとって何よりの学びとなるでしょう。
子どもの成長力を信じ切る――保護者が幸せに生きることが最大のメッセージ
子どもの「自ら成長する力」を信じ、尊厳を守る
つい、子どもを正しい方向に導こうとして、食事のマナーや挨拶、身だしなみなど、日常のあらゆる場面で「小言」を言ってしまう方もいるのではないでしょうか? しかし、子どもは急いで導こうとしなくても、自分自身で必要なものを選び取り、成長していく力が備わっています。
たとえば、うちの息子の話ですが、子どもの頃は野菜を食べず、バイキングでチョコレートケーキばかり選んでいました。しかし、大人になると自らサラダや納豆などの健康的な食事を選ぶようになりました。このように、大人になると勝手に成長しているということは、子どもの成長のあらゆる場面で見られます。
不登校の子どもを信じるとは、「信じていればいつか学校に戻る」といった見返りを期待することではありません。たとえ保護者が望まない選択をしたとしても、「この子は愛されるに値する大切な存在だ」と無条件に信じ続けることが、本当の「信じる」ということです。
保護者が小言を封印し、子どもが自分の力で成長していく姿を目の当たりにすることで、子どもの「成長する力」へのリスペクトを感じられるようになるでしょう。
保護者が「機嫌よく生きる」ことが最大のメッセージ
最後に、保護者ができる最も重要な支援は、自身が自分のやりたいことをして、幸せに機嫌よく過ごすことです。保護者自身が人生を楽しんでいる姿を見せることは、言葉以上に「生きていくことは楽しいことなんだ」という強力なメッセージを子どもに伝え、子どもを安心させる力があります。
保護者が自分自身の人生を機嫌よく生きることこそが、結果として子どもを救うことにつながるのです。
まとめ & 実践 TIPS
不登校の背景には、日本社会の長時間労働や家庭内の負担の偏りといった大人側の環境も影響している可能性があります。子どもは日々、大人の姿を見ています。だからこそ、夫婦の対話や歩み寄りの姿勢は、何よりの「生きたコミュニケーション教育」になるのです。そして大切なのは、子どもの成長する力を信じ、保護者自身が機嫌よく、幸せに生きる姿を見せること。保護者が人生を前向きに歩む姿こそが、「大人になること、生きることは悪くない」という安心のメッセージとなり、子どもを支える土台になるのではないでしょうか。

医師・臨床心理士 田中 茂樹 たなか しげき
1965年東京都生まれ。医師・臨床心理士。京都大学医学部卒業。文学博士(心理学)。4人の男の子の父親。現在は、佐保川診療所(奈良市)にて、プライマリケア医として地域医療に従事している。20年以上にわたって不登校やひきこもりなどの子どもの問題について、親の相談を受け続けている。著者に『子どもを信じること』(さいはて社)、『子どもが幸せになることば』(ダイヤモンド社)、『去られるためにそこにいる』(日本評論社)、『子どもの不登校に向きあうとき、おとなが大切にしたいこと』(びーんずネット)、『子どもを見守ること』(大和書房)などがある。
