起立性調節障害の中学生を支える~学校との関わりと家庭での声かけのコツ~
中学生の約10%が発症するといわれる起立性調節障害。自律神経の調節がうまくいかないため本人の意思でコントロールができないさまざまな体調不良が起こり、発症から回復までに数年かかることもあり、日常生活に大きな影響を与えます。朝、起きられなくなるケースも少なくありません。
しかし、外見からはわかりづらいため、「怠けている」と誤解されることも……。起立性調節障害の子どもを持つ保護者の中には心配や不安のあまり「中学校とはどう関わればいいのだろう?」「子どもとどうコミュニケーションを取ればいいのだろう……」とお悩みの方も多いでしょう。
今回お話しを伺ったのは、「KJ起立性調節障害オンラインコミュニケーション」の代表を務め、起立性調節障害の子どもの進路選びに関する書籍の出版も手がける川倉 祐美さんです。ご自身のお子さんも起立性調節障害の経験をお持ちで、現在は起立性調節障害の方のための交流会などを毎月開催されている川倉さんに、起立性調節障害の子どもと学校との連携の取り方から家庭での声かけのコツまで教えていただきました。
この記事のポイント
そもそも起立性調節障害って?
起立性調節障害とは、自律神経の調節がうまくいかず、立ち上がったときに体の血流のバランスが悪くなる病気で、下半身の血液を心臓に戻すための調節がうまくいかなくなり、脳に血液が巡りにくい状態になる身体疾患です。
原因のひとつとして、小学校高学年から思春期の急速な身体的成長に自律神経の成長が追いつかず、体調を崩しやすくなってしまう、また、ホルモンバランスの変化も要因になるといわれています。起立性調節障害の検査では血圧や心拍を測定し、数値により診断されます。
自律神経の調節や血流など、からだの中で起きていることは本人の意思でコントロールができないことだと理解しましょう。起立性調節障害は、病気について知識があるかないかで対応の方向性が大きく変わってしまうことがあるため、まずはこの病気を「知る」ことがとても大切です。
起立性調節障害による体調不良は、倦怠感や頭痛、めまい、吐き気、集中力の低下などがあり、「朝、体が重くて起き上がれない」といった症状が表れるため、学校に行きたいのに行けないケースが多く、不登校の約3~4割が起立性調節障害に該当するのではともいわれます。お子さんが体調不良を訴えたときは、早めに小児科を受診するのがおすすめです。
起立性調節障害は外見からはわかりづらい
アンケート結果から見る! 起立性調節障害の症状と困ること
起立性調節障害の子どもは、午前中に症状が強く出たり、睡眠に関する困りごとがあったりする場合が多いです。
KJ起立性調節障害オンラインコミュニケーションが2022年に実施したアンケート(起立性調節障害オンライン講演会の申込者490人)では、起立性調節障害のかたのお困りの症状の上位は、倦怠感、頭痛、睡眠リズムの不調、めまい・立ちくらみ、集中力の低下で、どれも半数以上の方が当てはまるという結果になりました。
さらに、5項目以上の症状を回答した方が約8割、10項目以上が約3割で、おひとりのかたに複数の別々の症状が表れ、しかも、全て外見からわからない特徴があるといえます。また、起立性調節障害で困っていることの1位は「毎日登校するのが難しい」、2位が「午前中の授業に出席するのが難しい」となっており、3位の「机に向かって長時間座る姿勢が難しい」のように、椅子に座ることさえ難しい子どもも多くいることに驚かれるのではと思います。
これらの困りごとにより「朝、中学校に登校して授業を受ける」「机に座って授業を受ける」という中学生のルーティンに合わず、学校に行きたくても行けない日が続き、長期欠席になってしまうケースが多いのです。
無理をすると悪化してしまう場合もあるので、まずは体調を優先して、子どもの訴えによく耳を傾けてあげられるとよいでしょう。
起立性調節障害と学校との上手な関わり方とは?
登校できたときの対応について相談する
ありがたいことに、最近は起立性調節障害について社会に知られるようになり、この病気の知識をお持ちの中学校の先生や養護教諭の先生が増えています。一方で、中には「起立性調節障害についてよくわからない」「過去に受け持った起立性調節障害の生徒とは症状が違うようだ」という先生もいらっしゃると思います。
病名は聞いたことがあるけれど、詳しいことまではご存知ないとか、起立性調節障害の症状には個人差があることはまだまだ知られていないようです。まずは担任の先生に、お子さんが困っている具体的な症状や学校生活の中で体調悪化の不安がある場面、体調悪化を避けるための対処案を知ってもらい、可能な配慮について一緒に考えてもらうことが大切です。
ここで言う「配慮」とは、相談をベースに検討していただくことを意味しており、学校により設備や人員に制限があるなど必ずしも実現するとは限らないことを理解しましょう。また、遅刻や欠席日数を覆すことはできないのが一般的です。
【相談例】
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ケース1:素早い動作や立ち続けることが難しい →授業の開始前後に起立や礼、着席の一連の動作を行うことが難しい場合の代替案 →全校集会や式典など立つ場面が多い行事で椅子の使用について相談 ケース2:階段の上り下りの移動がきつい、休み時間内に間に合わない、体調悪化の不安がある →階段の代わりにエレベーターの使用許可について相談 ケース3:気温や直射日光により体調悪化の不安がある →空調の風が直接当たらない席について相談 ケース4:体調不良で体育の授業をやむを得ず見学するとき →見学場所の環境として炎天下や極寒の屋外は体調悪化のおそれがある、できれば空調のきいた屋内で椅子に座って見学を相談 →屋外で見学する場合に夏場は携帯用扇風機、冬場は学校指定の上着のほかにひざ掛けなどの防寒具の使用許可について相談 ケース5:医師から水分や塩分のこまめな摂取を指導されている →授業中に水分や塩分の摂取の許可について相談
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お忙しい先生にせっかく時間をとっていただいたものの相談時間が限られている、口頭では伝わりにくいときは診断書や医師の意見書、書籍を提示する、伝えたいことを箇条書きに記してお渡しするのも一案です。
相談の際は可能であれば担任の先生だけでなく、学年主任の先生、養護教諭の先生、体育の先生など複数の関係者に同席してもらうのも共通認識を得られてよいでしょう。
学校で体調が悪くなってしまったときのために
中学校で急に体調が悪くなったときのために、保健室の利用のルールについて事前に聞いておく、また、かかりつけ医の情報を共有しておくのもよいでしょう。 学校により保健室の利用は15分や30分までなどルールがある学校とそうでない学校があります。
クラスメイトや部活仲間の理解
子どもが「病気について周りに知ってもらいたい、理解してもらいたい」という考えを持っている場合は、担任の先生や顧問の先生を通じて、クラスメイトや部活仲間に起立性調節障害の症状について話してもらうのもよいでしょう。
あるいは、誰かのために限らず、学年として、この年代の誰にでも起こりうる起立性調節障害という体の病気について私たちが知っておく、という位置づけの講義があるのもよいと思います。
起立性調節障害は知っているか知らないかで本人への接し方が大きく変わってしまいかねない身体疾患です。周囲が受容的に接することができると起立性調節障害の子どもが体調に無理なく安心できる中学生活を送れることにつながるのではと思います。
起立性調節障害は理解されにくい
起立性調節障害の症状は午前中に症状が出やすく、夕方や夜は症状が軽くなることがあり、放課後の時間帯にコンビニなど近所の外出や散歩ができることがあります。起立性調節障害の症状は日内変動といって、時間帯により症状の出かたが変化することがあるのです。
ほかに、平日は体調が悪くて外出できないけれど、休日に友達とのお出かけができた、でもその翌日は体調がもっと悪くなり寝込んでしまう、ということがあります。不思議な現象に見えますが、イベントなどテンションがあがるようなことがあると一時的に交感神経が活発に働くためといわれます。
これらは正しい知識がないと「本人の努力が足りないのでは」「わがままでは」との誤解を生じやすく、保護者でも理解し受け止めるのに時間がかかることがあります。
たとえ動けた次の日に影響が出てしまったとしても、久しぶりに友達と関われたり、イベントを楽しめた達成感を感じられたりしたことは本人にとって貴重な成功体験のひとつで、次につながる可能性があると受け止めてはと思います。
起立性調節障害の子どもが学校に行きたいと思い、体調不良の中で体力をふりしぼって学校へ行ったとき、もしも周りから不用意な言葉をかけられてしまったら...。おそらく傷つき、悲しい気持ちになり、学校に対する居場所感が薄れてしまうかもしれません。
起立性調節障害は体調不良の苦しさだけでなく、周囲の無理解による二次的な苦しさが起きかねない身体疾患です。
家庭で保護者ができる、起立性調節障害の子どもへの声かけ
起立性調節障害の子どもに必要なのは温かな声かけ
「体調が悪くてやりたいことができない」
「できないことだらけの自分はダメな人間なんじゃないか」
起立性調節障害の子どもは、そんなふうに自己否定に陥ってしまうことも少なくありません。
また、
「自分のつらさをわかってくれる人が周りに誰もいない」
「自分は一人ぼっちだ」
子どもがそんな気持ちになっていないか、想像力を働かせることが大切です。
ぜひご家庭では、子どもの内面に思いを巡らせ、「不安」や「心配」が多いだろうから、「安心」や「リラックス」を補う声かけを実践できるとよいでしょう。
大切にしたい3つの声かけ
起立性調節障害の子どもへの声かけで大切なのは、打ち消しではなく受け止めの言葉だと思います。
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「うんうん(共感)」 「そうかそうか(受容)」 「いいねぇ(肯定)」 |
この3つは、何でもない言葉のようですが、共感・受容・肯定を表しています。子どもがつらい気持ちのときには寄り添い、何か行動を起こそうとしたときには新しい一歩への活力になる言葉です。
また、受け止めの言葉は、子どもとの「対話」につながります。受け止めの言葉かけを重ねることで保護者がよき聞き役・よき話し相手になれると素敵ですね。中には反抗期と重なり会話の機会がほとんどないという場合があると思います。そんなときは、表情や空気感で温かさを発信してみましょう。
まとめ & 実践 TIPS
起立性調節障害の子どもを支えるのは、出口の見えない真っ暗なトンネルの中にいるように感じるかもしれません。でも、この病気への理解と可能な範囲でのサポートのひとつひとつの積み重ねから、子どもが自分らしく過ごせる道が開けるのではと思います。中学校との連携が思うように進まないことがあるかもしれませんが、体調に合わせた無理のない環境づくりを共に考えてくださる理解者が一人でも増え、子どもの希望に合った生活スタイルを支えていけるといいですね。家庭では「うんうん」「そうかそうか」「いいねぇ」といった共感・受容・肯定の温かい声かけが、子どもにとって自分は受け入れられているという実感につながるのではと思います。
参考文献:「小児科医が伝えたい 起立性調節障害 症状と治療」(昭和医科大学病院小児科田中大介著/徳間書店)

プロフィール
長男が中学1年で起立性調節障害の重症を発症し学校を長期欠席。体調に不安があっても学習を進められる高校を探すため通信制高校を中心に昼夜間定時制高校など20校の学校説明会に足を運ぶ。2017年から「起立性調節障害の方のための体調に合った高校選びセミナー」や交流会を開催。通信制高校合同相談会の関東近郊会場にて起立性調節障害の講演の講師や相談コーナーを年間20回以上など。これまで2,000組以上のご家族や当事者と交流。江東区教育委員会 令和6年度・令和7年度 教育推進プラン点検・評価委員会委員、教育推進プラン江東第3期(令和8年度~令和12年度)策定委員会委員。資格:NPO法人日本子育てアドバイザー協会認定子育てアドバイザー。著書に『起立性調節障害の方のための体調に合った高校選び』(Amazon Kindle出版、2025)
川倉 祐美(かわくら ゆうみ)KJ起立性調節障害オンラインコミュニケーション 代表
