子どもの「好き」を探すヒントは「動詞」にあり【椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム #6】

椎名 雄一先生(一般社団法人日本心理療法協会代表理事)による、不登校のお子さまの保護者のかたより寄せられたお悩みにズバリお答えいただく『椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム』。不登校期間には「子どもの好きなことを見つけて」とよく耳にしますが、保護者はどうやってサポートしたらよいでしょうか。
そこで今回は、お子さまの好きや得意を見つけて可能性を開いてあげたいと考える保護者のかたのご相談に、椎名先生が回答していきます。

この記事のポイント

    ゲームばかりの子ども、世界が広がるような好きなことに出合えるのか?と悩む保護者からの相談

    保護者からのご質問

    子どもの好きなことを見つけて伸ばしてあげたいと思います。でも、ゲームやYouTubeばかりで世界を広げようとすることもなかなかできません。どうやったら我が子の好きや得意を見つけて可能性を開いてあげることができますか?保護者の私ができることを教えてください。

    (ご質問は過去に椎名先生に届いた内容を要約したものです

    椎名先生回答

    お子さんの好きなことが見つかれば、それに力を注いで自信をつけたり、進路を見つけられるかもしれない。何よりも輝いている我が子の姿を見たい。そう感じている保護者の方は多いのではないかと思います。

    一方でこのテーマが非常に難しいことだと自覚されずに取り組んでいる方も少なくありません。そこで、こんなたとえかたをしてみたらどう思うでしょうか。

    台所で「麦茶を飲んだコップを洗う」のと「換気扇の油を落とす」のとでは、取り組みかた、覚悟のようなものが少し違いますよね。麦茶のコップを洗うようにして、換気扇の油に水をかけても油汚れが取れることがないように、望む結果にはつながりそうにありません。

    保護者の皆さん自身の可能性を開くような「好きなこと」との出合いはどんなものだったでしょうか?「え?!私は無趣味ですし...」という回答だとしたら、このテーマは40年あるいは50年生きてきた人であっても、達成できないくらいの難易度だということです。

    もし、お子さんが夢中でやっているゲームのキャラクターやゲーム内での立ち回りかたも知らずに、つまりお子さんに関心を持つことなしに、たまたま手に入れたチラシに載っている人気の情報を渡せば好奇心の芽が出るようなイメージでいるとしたら、「換気扇を水で洗おう」としているようなものです。前置きが長くなりましたが、これがお子さんの好きや得意を見つけるノウハウに入る前の大前提です。
    そのうえで、まずは見つからない理由を5つご紹介していきましょう。

    まずは知っておきたい、見つけられない5つの理由

    1)保護者がお子さんを操作しようとしているのが見え見え
    一番良くないのがこれですね。「好きなことがあれば学校に行くだろう」のように「真の目的は学校に行かせること」と顔に書いてあったら、お子さんが話を聞くはずはありません。好きなこととは頑張らせるための人質ではないからです。

    2)保護者がアップデートしていない
    保護者が子ども時代を過ごした「昭和の頃はこうだった」というような話を繰り返していても、お子さんが動くはずがありません。お子さんは現代を生きているのですから、「AIで画像生成をやりまくったらこうなった」くらいのテーマじゃないと反応が薄いのは当然です。現代の話をすることが大切です。

    3)表面的な情報で誘う
    好きなことを本気でやっている人と、それを「楽しそうだな」と見かけた人とでは、視点がまったく違います。「推し活」をやっている人と、それを周囲で見ている人がまったく違うことに似ています。いわゆるニワカの人に勧められても心が動くはずはありません。保護者が本気で楽しんでから誘えば、お子さんの心が動くかもしれませんね。

    4)お子さんが衝動的

    お子さんがスマホ依存になっていたりすると、脳の報酬系が過剰に刺激され快楽物質であるドーパミンが大量に分泌されているために「今すぐ報酬」「先に報酬」のようなモードになっています。「準備をして、試行錯誤して、報酬」という順番には耐えられないのです。好きを見つけるときにも衝動的になっている人には、選べるテーマが非常に限定的になります。先にその衝動性を緩やかにする工夫をした方が良いケースも多いのです(これは別の機会にお話します)。

    5)保護者の想定が狭い
    今回の相談内容である「子どもの好きなことを見つけて伸ばしてあげたい」というように、一見子どもが自由に選ぶ好きなことを前提にしているように見えて、「可能性を開くもの」と条件がついてしまっています。保護者がそのように無意識に枠組みを決めてしまうため、「可能性が開かなそうな好きなことは違う」と、知らない間に却下していることもよくあるのです。多くの場合、学校や進路につながるものといった条件がついてしまっています。

    保護者は子どもの世界に探しに行こう。ヒントは「動詞」にある

    ではどうしたら良いか?重要なポイントは2つです。

    1)探す場所は「子どもの世界」

    我が子のことを分析してもらおうと、病院やカウンセリングルームに連れて行くかたがいます。そんなアウェーな環境で、お子さんは自分を出すことはできません。お子さんがもっとも自分らしくいられるのは、ゲームのなかや推し活に夢中なときかもしれません。

    そこまで気力や元気がない場合でも、自分のペースで動画を見ているときなどはありますよね。つまり、お子さんが一番自分らしい場所に、保護者は探しに行くことが基本なのです。

    保護者は自分がやりやすい場所に子どもを連れてきて、なんとかしようとするものです。なぜなら保護者自身が変わらなくて済むからです。序盤でそれなりの取り組みかたが必要と述べましたが、「専門家のお医者さんに丸投げすればいい」、おすすめっぽい情報が載っている「チラシを見せればいい」と思っているうちは、正解はでてきません。

    お子さんの世界に入って探すことが大事です。魚を釣りたいなら海や川に行くのが大事であるのと同じなのです。

    2)なにを探したら良いかのキーワード

    探すのは価値観ですが、もう少し簡単に言い換えると「動詞」です。お子さんはゲームや推し活のなかで「助ける」「協力する」「模倣する」「表現する」「応援する」「楽しませる」「教える」「分析する」「つなぐ」など、なにをしているでしょうか?

    ショート動画を見て、自分も踊ってみたりしていませんか?(模倣する)あるいはゲームの情報をメモしたりしていませんか?(分析する)それともゲーム内で協力したりしていませんか?(他の活動でも同様なので省略)

    「教える」はゲーム内だけではありませんね。兄弟に何かを教えたり、保護者にスマホの使い方を教えたり、地域の活動のなかにもガイドのような「教える」役割があるかもしれません。

    こうした「動詞」を見つけられたなら、その動詞を極めるだけで好きなことや得意なことは増えていきますし、人生を貫くひとつのストーリーが見えてきます。「助けて生きて行く」「教えて生きて行く」そうした「どのように生きたいか」の軸になる動詞は、お子さんの可能性を一気に広げてくれます。

    「表現する」が強みの子は、「拡散する」「応援する」を強みに持つ子と出会うと、表現が世の中に知られるようになっていくのです。社会は難しい職業名ではなく、動作と動作の連携で成り立っているからですね。

    子どもの世界にある価値観に触れる「動詞」に向き合おう

    今回のご相談のようなお悩みは、人生を通じてとても難しいテーマです。親心から将来につながるきっかけとなるような分野を探してあげたいと思うものですが、まずはそれを切り離し、お子さんの世界にある価値観に触れるキーワードとなる「動詞」に、まずはじっくり向き合ってみてください。

    プロフィール


    椎名 雄一

    1973年生まれ。千葉大学工学部情報工学科を卒業後、電気通信事業会社に入社。20代でうつ病を発症し、約10年間のひきこもりや自殺未遂を経験。その後、自身の経験を「今悩んでいる人」のために生かすべく心理カウンセラーに転身。一般社団法人日本心理療法協会の代表理事として活動し、心療内科のカウンセラーとして現場での支援方法を模索。企業研修や企業カウンセラーとしても活躍。
    近年では通信制高校を経営し、中高生や保護者との関わりを通じて若者支援に力を入れている。2021年には「不登校・ひきこもりから抜け出す7つのステップ」(学びリンク株式会社)を出版し、不登校やひきこもりで悩む中高生や保護者のために「オンライン保護者会」を立ち上げ、2000人を超える保護者と対話を続けている。現場の声を大切にした講演、カウンセリング、コミュニティ運営には定評がある。

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