生活リズムの改善は実はもっと後でいい【椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム #4】
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椎名 雄一先生(一般社団法人日本心理療法協会代表理事)による、不登校のお子さまの保護者のかたより寄せられたお悩みにズバリお答えいただく『椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム』。学校という決まった時間割で過ごす生活と距離をとると、起きる時間も寝る時間も定まらず生活全体が行き当たりばったりに感じられます。
今回は、夏休みをきっかけに昼夜逆転の生活が定着してしまうことを心配する保護者のお悩みに、椎名先生がお答えします。
「昼夜逆転」が常態化。新学期になったら困ると悩む保護者からの相談
保護者からのご質問
不登校気味の子どもが夏休みに入ってから昼夜逆転が完全に定着してしまい、夜中の3時4時まで起きていて、お昼頃まで寝ています。
声をかけても「放っておいて」と言われてしまい、どうしていいか分かりません。
このままでは新学期に戻れないのでは?と心配です…。
椎名先生の回答
確かに夏休みに昼夜逆転が定着してしまうのは心配です。保護者としては2学期に向けて生活リズムを整えてほしいと考えるのも当然のことですね。
ただ夏休みに最優先で対処したいのは「生活リズム」でしょうか?
・自信がないと悩む子は、生活リズムが整うと学校に行けるようになりますか?
・数学や英語でつまづいて困っている子は、生活リズムが整うと学校に行けますか?
・生活リズムが整うと発達障害や強迫性障害などが解決しますか?
・いわゆるコミュ障は生活リズムの改善で良くなるのでしょうか?
不登校の原因ははっきりしないことが多いですが、カウンセリングをしていると共通するエピソードがあることは少なくありません。それらに共通しているのは「生活リズム」が整っていた頃から、その子の悩みはすでに始まっていた、ということです。
生活リズムが整っていた頃から「勉強についていけなくなっていた」「発達障害のある特性に悩んでいた」「コミュニケーションが苦手だった」ということはないでしょうか?「生活リズム」はお子さんが健全に生きていく意味では大事な要素のひとつです。ただ、決め手となるほど重要なことなのでしょうか。
子どもはどうして夜更かししている?比較対象のない時間帯に得られるもの
自己肯定感が低すぎるから教室にいると緊張してしまい、息苦しい。疲労感が尋常ではない。だから学校に行けなくなった。お子さんがそう言っていたとしたら保護者の皆さんはそれにはどう答えていますか?「夜更かししない」「朝はちゃんと起きる」それがあなたはできていない。と言い続けることで自己肯定感が上がるでしょうか?
お子さんは夜中までなにをしているのでしょうか?ゲームでしょうか?SNSでしょうか?配信でしょうか?夢中なのはアニメ?推し活?なぜ、親に怒られてまでやるのでしょうか?魅力はなんだと思いますか?
端的に答えると「自己肯定感が上がるから」ではないでしょうか?ゲームの中では居場所があって、協力しあったり、指示を出したり、頼りにされたり、感謝されるかもしれない。アニメを見ていると、主人公や特定のキャラクターに感情移入して、温かい気持ちになることで、自分も大丈夫だと感じられるのかもしれない。
“推し”を応援することで、自分にはできないけれど“推し”がなにかを達成していく場面に参加することで、少しでも自分を認められる気持ちになっているのかもしれません。あるいはアニメを一気見して、「この話題ならば答えられるぞ!」と、友だちとうまく話せている自分に近づいた自分を感じて安心しているのかもしれません。
なによりも夜の時間帯には比較対象がありません。ほとんどの人が寝ているからです。土日や夏休みもそうですが、社会が止まっている間は不登校の子どもたちの焦りが止まります。
苦しくてずっと寝て過ごすよりも「昼夜逆転」のほうがよいと考える
一方で午前中に起きているというのはどういう心境でしょうか?みんなは学校に行っている。1時間目、2時間目、3時間目…。けれど、自分の時間は止まったまま。頑張って動けるくらい元気ならば良いですが、動けなくなっているお子さんは、比較すれば比較するほど焦りや不安でいっぱいになって、余計に自律神経を乱し、さまざまな症状を悪化させてしまいます。夜は比較対象が止まっていてくれるので、自分が少しだけ前に進んで「大丈夫かもしれない」を貯めるチャンスでもあるのです。
昼夜逆転のメリットにはたとえば上記のようなものがあります。本人にとってはかなり大きなメリットです。なにしろ「自分のことを好きになれる」「安心させられる」行動をしているからです。そしてテーマはなんであれ、活動しているということはゲームが上達したり、アニメに詳しくなったり、大人からしたらなんの価値があるかわからないことかもしれませんが、それでも経験値が貯まります。
苦しくてずっと寝て過ごしているよりはずっとよいでしょう。不調の期間は、安心できる夜の時間に活動量を増やすのもかなり有効な作戦なのです。
生活リズムの改善以上にやるべきことはたくさんある
保護者の皆さんにお伝えしたいのは不登校対策でやっておきたいことは「昼夜逆転対策」や「生活リズムを整える」だけではありません。「人とのつながり」「自己肯定感を高めること」「自分自身の内面をよく理解する」「否定されない環境で体制を整える」「ゲームや推し活を通していろいろな人と関わる」など、大事なことがたくさんあります。そのたくさんある課題のなかでは「昼夜逆転対策」「生活リズムを整える」は最後の方の課題です。
昼夜逆転を治すために朝起きるのは良いですが、その日の午前中にお子さんはなにをしていますか?充実した午前中の計画がありますか?もしひとりでいるなら…。留守番をしているなら…。自分がいかにみんなと違ってうまくいっていないかを見つめ続ける午前中を過ごしていると思います。それならば午前中に予定が入るくらい「人間関係」や「自己肯定感」「活動意欲」などが高まってからでも遅くはありません。
昼間も自由に過ごしていいのが夏休み!5教科に限定しない自由な体験を
夏休みは学校がお休みですから昼夜逆転の「夜」に似ています。平日の昼間に外出していても目立ちません。そんな昼間も自由にして良い夏休みを「自分を輝かせる期間」にできたら2学期が変わります。
徹底的に趣味をやりまくった。徹底的にダラダラした。徹底的に本を読んだ。徹底的にゲームをクリアした。徹底的に鉄道に乗りまくった。せっかく学校がないのですから5教科のような限定的なテーマにこだわらずに、興味が出たものを徹底的にやってみるのが夏休み。と思うと少し考え方が変わってくるかもしれませんね。
この機会に、お子さまが夢中になっている世界を大人も体験してみてはいかがでしょうか。お子さまの気持ちを理解することにつながるはずですよ。
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