不登校の子どもから「放っておいてほしい」と言われたら?ゲーム三昧の子どもの真意と保護者ができること【椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム #1】
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今月から椎名 雄一先生(一般社団法人日本心理療法協会代表理事)が、不登校のお子さまの保護者のかたより寄せられたお悩みにズバリお答えいただく『椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム』を開始します。心理カウンセラーとして中高生や保護者と関わりながら、若者支援に力を入れている椎名先生は、不登校・ひきこもりで悩む中高生や保護者のために「オンライン保護者会」を立ち上げ活動中。2000人を超える保護者と対話を続け見出した、現場の声を大切にする椎名先生の回答は直球で具体的です。
さて、早速第1回目となる5月は、新学期のあわただしさが一段落し、子どもの心身に疲労が出てくる時期でもあります。「学校に行きたくない」という、いわゆる行き渋りが出やすいときでもあり、今回ご紹介するお悩みはこちらです。
新学期以降、不登校になったわが子。保護者の「このまま先が見えなくて不安」という悩み
保護者からのご質問
中学3年の子どもが、4月の新学期が始まってすぐに「学校に行きたくない」と言い出し、そのまま家でゲームばかりしています。
声をかけても「放っておいて」と言われてしまい、どこまで関わっていいのかもわからなくなっています。
このままでは先が見えず、正直とても不安です…。
私は今、親としてなにをしてあげたらいいのでしょうか?
(ご質問は過去に椎名先生に届いた内容を要約したものです)
椎名先生回答
中学3年生は高校進学を控えた大事な学年です。それだけに保護者の皆さんも「この4月から順調に学校に通ってほしい」と期待をされていたことと思います。そんななかで「学校に行きたくない」「お腹が痛い」「朝起きられない」と言って学校に行かなくなる子は少なくありません。そればかりかいざ学校に行かないと決まるや元気になったり、夜中までゲーム三昧という状態が続くと将来が不安になって、焦ってしまうのもとてもよくわかります。それこそ「私はなにをしたらいいのだろうか?」と考えてしまいますよね。
まず、ご質問の文章をもう一度よく読んでいただきたいのですが、お子さんは「放っておいて」と言っていますね。それなのに保護者として「私はなにをしたらいいでしょうか?」というのはすでになにかずれています。「放っておく」のが最善だというお子さんの言葉をまずちゃんと受け止めたいですね。
そっとひとりで作戦を練る「長考」の時。考える時間を邪魔してはならない
将棋の世界に「長考」という言葉があります。
棋士が次の手を考えるときにじっくりと時間を取ることですが、その時にもし第三者、それも将棋がわからない人がやってきて、「こうやったらいいんじゃない?」とアドバイスしたら役に立つでしょうか?将棋のプロでもない、今対局をしている当事者でもない人のアドバイスはほとんどが的外れで「そんなことは散々考えた」というような内容になってしまうかもしれません。そればかりかひとりでじっくりと考える時間を妨げたら邪魔してしまいますよね。「長考」の時にはそっとひとりで作戦を練りたいものです。
「放っておいて」と言ったり、部屋から出てこなくなるお子さんのほとんどは「長考」の状態にあります。学校に行くための基本的な自信を失ってしまった。人生が手詰まりになってしまったようで、すぐにはなにも判断できない。親も含めて誰かにどんな顔をして、どんなテンションで話したら良いかすら、わからなくなる子もいます。もし「自分には生きる価値がないのではないか?」とお子さんが悩んでいるとしたら、学校に行くためのアドバイスなどは役に立ちません。それ以前のところで迷子になっているからです。それでも学校になんとか行かせようとして、「これをしないと大変なことになるよ」と圧をかけてしまったら、「やっぱり自分は生きていけない」と追い詰められてしまうだけです。
誰も救えないほどの心のつらさを、ゲームが助けとなっている可能性
「そうは言ってもゲームの話はするし、ゲーム三昧です」
とご意見をいただきそうですが、もし大人の私たちが「生きる価値があるか?」というレベルの悩みを抱えたら、どうするでしょうか?お酒をたくさん飲むかもしれないし、カラオケや旅行で発散するかもしれませんね。「生きる価値について向き合う」をいきなりやる人は少ないのではないでしょうか?課題と向き合うことは正論かもしれませんが、人の心はそれにいきなり向き合えるほど強くはありません。それは大人も子どもも同じです。
朝、学校に行かないことが決まり、午前中、ゲームや睡眠など逃げる場所がなかったらその子は「みんなは学校に行っているのに自分はダメだ」ということを悶々と考え続けなくてはいけません。「今ごろ、1時間目が終わった頃かな」そんなことを気にしながら学校に行っている他の子と比較して、自分を責める。そんなことを1日やっていたとしたら元気になるでしょうか?夕方くらいには学校がありえないほど怖い場所に思えてくるし、自分自身がどうにもならないほどダメな状態、手詰まりだと実感して、今すぐ消えてしまいたい気持ちにすらなるかもしれません。
ゲームをしている間は悩みを深めないですみます。
もちろん家族と共同作業をしたり、気分転換ができる場合はゲームをする必要はありませんが、親は出かけてしまい、ひとりぼっちの子も結構いますから、ゲームは完璧に良いものではないですが、助けになります。
「放っておいて=見守るだけ」ではない。この時期に保護者ができるこれだけのこと
そうなると親はただ見守るしかない。
そう考える方がいますが、そうではありません。お子さんは「放っておいてほしい」という状態ですが、お子さんのその希望を叶えつつもやれることはたくさんあります。
・お子さんの様子をよく観察して、好不調のリズムや好き嫌いなどを把握すること
・親も気づかないうちに焦っていますから誰かに相談するなど気持ちを整えること
・不登校などは我が子だけに起きていることではないので他の子の体験談を聞くこと
・親自身が孤立していては不登校は乗り切れませんから親の居場所を作っておくこと
他にも不登校の背景にはジェネレーションギャップや夫婦喧嘩などの別の要因もあります。それらのアップデートをすることはお子さんを「放っておいて」できますので、ぜひどんどん進めていきたいところです。ご質問のケースで「先が見えず不安」なのは親の気持ちの問題です。お子さんは自分の気持ちの整理だけでも精一杯なので、それをぶつけて2倍にしてしまうことのないように気をつけたいですね。
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