「不登校」自体は解決すべき問題ではない。不登校から子どもの未来を拓く思考の転換

子どもの不登校に悩む保護者の方々に寄り添い、多様な視点から情報をお届けするWebメディア「不登校ライフナビ」。開設から1年が経過したいま、不登校を取り巻く環境への理解はどのように進んでいるのでしょうか。
今回は、メディア立ち上げから中心となって活動を続け、このたび初の著書『不登校から未来を拓く』(東洋館出版社)を刊行された上木原 孝伸先生に、1年間のふり返りと不登校に対する本質的な視点についてじっくりとお話を伺いました。

この記事のポイント

    「不登校=問題行動」ではない。事象の背景にある課題に目を向けてこそ

    ー「不登校ライフナビ」がスタートして1年半ほどが経ちました。まずは、媒体立ち上げに込めた想いについて改めてお聞かせいただけますか?

    上木原:
    立ち上げの根底にずっとあるのは、「不登校は決して問題行動ではない」という強い思いです。不登校そのものは単なる「事象」であり、真に目を向けるべきなのは、その周辺や背後にあるさまざまな課題や環境なんですね。

    子どもが学校に行けなくなったとき、保護者は「どうして行けないんだろう」「自分の育てかたが悪かったのかもしれない」と、ご自分やお子さまを責めてしまいがちです。しかし、問題は「学校に行かないこと」そのものではありません。

    だからこそ「不登校ライフナビ」では、不登校という事象の背後にある課題に対して、解決のヒントや行動・意識の変化につながる情報を提供することを目指してきました。不安や孤独を抱える保護者の皆様の心に寄り添い、次の一歩を踏み出すための道しるべになりたい。その一心で開設以来、さまざまな情報を発信し続けてきました。

    ー「不登校は問題行動ではない」という捉えかたは、これまでの社会通念からすると少し新しい視点のように受け取られることもあるかと思いますが、いかがでしょうか?

    上木原:
    そうかもしれませんね。ですが、現代の社会状況を考えると、非常に自然で必然的な考えかただと感じています。

    学校現場における合理的な配慮が義務化されたり、社会全体で多様性が尊重されるようになったりしている一方で、現代を生きる子どもたちを取り巻く環境と、従来の教育システムとの間には少しずつズレが生じてきています。子どもたちを取り巻く世界が多様化しているからこそ、「学校に行かない」という選択をする子が増えるのは、ある意味で自然な流れとも言えるのです。

    だからこそ「不登校ライフナビ」では、記事や発信のなかで意識的に「学校に行けない」ではなく、「学校に行かない」という表現を使ってきました。「学校に行けない」と捉えると受動的でネガティブな印象になりますが、「学校に行かない」という言葉には、子ども自身が自分の意思でその選択をしたという意味合いが含まれます。子どもが自らの意思で「行かない」を選んだという事実を尊重することが、保護者にとっても子どもにとっても、大きな意識の転換点になると考えています。

    2万人が申し込んだ不登校セミナー。「親が孤立しない居場所」としての広がり

    ー「不登校ライフナビ」では、専門家の方々をゲストに迎えたオンラインセミナーを毎月精力的に開催しています。上木原さんご自身もモデレーターとして登壇されていますが、ふり返ってみてどのようなお気持ちですか?

    上木原:
    おかげさまで1年以上経った現在、セミナーの累計お申し込み者数は約2万人を超えるまでになりました。月に4本ほどのペースで1年以上続けてきましたが、これほど多くのかたにご参加いただけるとは、スタート当初は想像もしていませんでした。

    特に印象深いのは、セミナー中のオンラインチャットの存在です。最初は私や講師の先生へのお悩みのご質問が中心だったのですが、回を重ねるうちに、参加者である保護者の皆さま同士が「うちもそうでしたよ」「こうしてみたら少し楽になりました」といったように、お互いに温かいメッセージやアドバイスを送り合うようになっていったのです。

    画面越しではありますが、まさに「オンラインの親の会」のような優しい空間が生まれています。不登校のお子さまを持つ保護者のかたは、どうしても家庭内で孤立してしまいがちです。ですが、同じ悩みを抱える仲間と出会い、自分の声を届け、共感し合える「安心できる居場所」として、このセミナーが機能し始めていることを本当に嬉しく思っています。

    また、ここまで続けてこられたのは、ご登壇いただいた専門家の先生方の質の高いご講演があったからこそです。医療、心理、教育など、さまざまな分野の第一線で活躍される先生方のお話は本当に深く、私自身もモデレーターを務めながら、毎回誰よりも学びを得ていると感じています。

    不登校に対する昭和の常識と令和の常識。「親子間ギャップ」をひも解く専門家の知見

    ー今回、上木原さんは初の著作となる『不登校から未来を拓く』(東洋館出版社)を出版されました。この本では、セミナーで登壇された専門家の先生方との対話も再現されているそうですね。

    上木原:
    はい。ページの都合上、大変心苦しいことにこれまでご登壇いただいたすべての先生方との対話をご紹介することはできなかったのですが、凝縮して書籍に収めさせていただきました。

    この本のタイトルを『不登校から未来を拓く』としたのは、まさに「不登校」という経験を経たからこそ見えてくる、子どもたちの新しい未来があると考えたからです。不登校を選んだ子どもたちの心や体に何が起きているのか、そして彼らを取り巻く環境を正しく理解できれば、保護者は「どう関わればいいか」が見えてきます。そして、子どもが安心して自分らしくいられる「居場所」を見つけることができれば、子どもは自らの軸を持って、進路や次の一歩を踏み出していくことができるのです。

    各分野の専門家の先生方の知見やデータ、そして臨床での経験に基づくお話は、保護者の皆さまの不安を打ち消し、「これでいいんだ」と思える強力な裏付けとなってくれます。この本が、暗闇のなかにいるようなお気持ちで悩む読者の方々にとって、説得力を持った「希望の種」になればという思いで編集いたしました。

    ー不登校のお子さまの心身の状態や物の見方が分かると、保護者の接しかたや声かけもガラリと変わっていきそうですね。

    上木原:
    本当にそのとおりです。特に理解しておきたいことのひとつに、親世代と子ども世代の「常識のちがい」があります。

    令和のいまを生きる子どもたちは、幼い頃からインターネットやSNSに親しみ、テレビの番組表にしばられることなく、いつでも好きなときに多様なコンテンツに触れて育っています。まさに多様性の時代を生きているわけです。一方で、親である保護者の多くは、いわゆる「昭和的価値観」や「一律の価値観」の社会で生まれ育ってきました。

    つまり、保護者の「当たり前」と、子どもの「当たり前」は、生まれた時代背景からして根本的に異なっているのです。保護者が自分の育った常識の物差しだけで子どもを測ろうとすると、どうしても摩擦が生じてしまいます。

    書籍では、専門家の先生方の知見をお借りしながら、令和の子どもたちの心と体に実際に起きていることや、多様性の時代における大人・保護者の望ましい関わりかたについて、具体的な事例を交えながらしっかりとお話させていただきました。

    不登校は「解決」するものではない。自分らしく生きるための始まり

    ーありがとうございます。それでは最後に、今まさに不登校のお子さまと向き合い、不安や焦りを抱えておいでの保護者の皆さまへメッセージをお願いいたします。

    上木原:
    不登校は、その子が「自分らしく生きるための始まり」です。

    最初にお話ししたように、不登校そのものは決してネガティブなものでも、焦って「解決」すべき対象でもありません。この「不登校=解決すべき問題」という思考から、「自分らしい未来を拓くきっかけ」へと意識を転換することこそが、お子さまと保護者の未来を拓く大きな鍵となります。

    そうは言っても、「そんな風に割り切れない」「どうしても不安で夜も眠れない」と感じておられる保護者のかたも、まだまだたくさんいらっしゃると思います。それは親として当然の感情ですし、無理に強がる必要はありません。

    ですが、どうかおひとりで抱え込まないでください。「不登校ライフナビ」の記事やセミナー、そして今回まとめた書籍などを通して、少しでも肩の荷を降ろし、お子さまと一緒に歩んでいくための「希望のヒント」を見つけていただけましたら、これ以上に嬉しいことはありません。

    【編集後記】

    上木原先生のお話からは、子どもたちの可能性を信じることや保護者への深い共感が伝わってきました。

    親子間にあるギャップを理解し、子どもの心と体の状態を正しく知ること。そして不登校を「自分らしく生きる始まり」と捉え直すことー。上木原先生と専門家の方々の対話や、具体的なヒントが詰まった新刊『不登校から未来を拓く』(東洋館出版社)も、ぜひあわせてチェックしてみてください。

    プロフィール


    上木原 孝伸

    教育企業で講師として17年間教壇に立ち、教科指導や教室運営に携わった後、通信制高校の開校準備から参画、同校の副校長を4年間務める。その後、発達に特性があるお子さまとそのご家庭にマッチする環境のコンサルティングサービスの責任者を務めた後、ベネッセコーポレーションに入社。不登校ライフナビの監修等を務める。

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