不登校からの進路選択の前に【椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム #13】

椎名 雄一先生(一般社団法人日本心理療法協会代表理事)による、不登校のお子さまの保護者のかたより寄せられたお悩みにズバリお答えいただく『椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム』。今回は、中学3年生の「不登校からの進路選択」について、お悩みの保護者からのご相談です。椎名先生は、理解のない状態でのサポートは子どもの邪魔になっている可能性がある、とお話しました。その背景を解説いただきます。

この記事のポイント

    「このままではうちの子、無所属...?」焦る将来への不安から見落としがちなこととは

    保護者からのご質問  

    中学3年の息子が、1年生の冬から不登校になり、今もほとんど外に出ない生活が続いています。最近はゲームばかりで、昼夜逆転もしています。  

    中3の6月には「進路について本格的に考える時期」と聞いて、なにもしないままではいけないと焦りを感じています。子どもは進路の話をしようとすると「もうそういうの、やめて」と怒って、数日間は部屋に閉じこもってしまいます。 このままなにも決めずにいたら「時間切れ」、「無所属」になりそうで焦っています。私はどうしたらいいのでしょうか?

    椎名先生の回答

    6月という時期は、多くの中学3年生にとって進路を考え始める大きな節目となります。保護者は他の子に遅れてはいけないと「進路」つまり「高校名」を決めようと焦ってしまいがちです。でも、これまで学校に行けなかったお子さんにとっては進路選択以前にやることがあります。

    もし皆さんがインフルエンザやコロナウイルスなどの身体がつらい状況になったとします。明日、明後日の体調すらわからないときに、あえて明後日の予定を入れるでしょうか?「とりあえず体調が戻らないとわからない」と保留にするはずです。なにしろ、明後日の予定を決めてしまっても、自分がその日に動けるかどうかわからないからです。

    不登校のお子さんの多くは「学校に行く」以前に「朝起きる」「外出する」「会話する」さえできない状態です。明日の朝起きられるかどうか?外出できるかどうかわからないのに3年間通う場所を決められるでしょうか?正直に答えるならば「どの学校も行けるかわからない」となりますし、適当に答えるならば「わからないからどれでもいいよ」となりがちです。この状況で「進路をどうするか?」について話し合うのは無意味なのです。

    そして話し合いの土台にすら乗れない子どもたちは、理解なく、前提が違う話を続ける大人がいやになったり、周りの期待に応えられない自分を嫌いになったりします。

    インフルエンザやコロナウイルスの例で言えば、体調が悪いことはまったく考えてもらえないまま、「明後日の夜ならいい?」「じゃあ明々後日は?」と問い詰められるようなものです。(いや...体調が悪いって言っているんだけれどな)と不信感が募るのも想像ができますよね。

    さらにその場合、本当に助けて欲しいのは病状が「早く治るようになること」です。元気にさえなれば、何日にするかは決められるのです。ですから、通えない学校の情報を山のように調べてきても「きょうはどう?」とあおっても「学校に行く気持ち」は高まりません。つまり、保護者のその行為はお子さんの邪魔にこそなっていても、助けにはならないということです。

    「自分は大丈夫だ」という気持ちはどうやって伸ばしていけるのか?

    では、お子さんはどうすれば、学校について「大丈夫かも」や「楽しいかも」となるのでしょうか?それは「自分には居場所がある」「自分には得意分野がある」「自分のことが好きになった」など、学校に対してそういった前向きな気持ちが持てるようになることが必要です。

    しつこいようですが、明日の自分がわからない。がんばることもできない状態の子に「明日なら行ける?」と聞いたら答えは「行けません(申し訳ありません)」となりますよね。それを重ねて「じゃあ、明後日は?」と聞けば、「行けません(申し訳ありません)もう私いらないですよね」と自己肯定感に傷がついていくだけなのです。

    それよりも大事なのは「自分は大丈夫だ」という気持ちをどうやって伸ばしていくかです。

     ・理解されない状態で学校に行けば「自分は大丈夫だ」という気持ちは傷つきます。
     ・無理やり進路を決めて続かなければ「自分はダメだ」と思ってしまいます。
     ・心の準備がないのに外出すれば「自分はついていけない」と感じてしまいます。
     ・昼間に起きて留守番していれば「自分だけ取り残された感じ」が強くなります。
     ・親が「どうするの?」と問いかけるたびに「自分は親不孝だ」と感じます。


    こうした状態を続けながらで「自分は大丈夫だ」という気持ちが強くなるでしょうか?

    周囲が理解なく圧をかければかけるほど、子どもたちは自分を否定する経験をたくさんするので「自分にはできない」「自分には力がない」と信じるようになります。
    そんなマインドで学校に戻るのは簡単なことではありません。

    今ゲームをしているのはなぜでしょうか?
    どんな瞬間にお子さんは「よしやったぞ!」と思うのでしょうか?ゲームのなかに理解者がいたりしませんか?ゲームの世界で「仲間を助けて」いませんか?「分析と研究」をしていませんか?そこには消えかけた「自分の居場所」がほんの少しあるのではないでしょうか?

    進路の断片を理解するには「子どもの世界」で自由に過ごす子を観察しよう

    またの機会に詳しくお話ししますが、僕はゲームをしているお子さんの忖度のない言動を見ていたら、こだわりや好み、価値観がわかります。それらはいうなれば「進路」です。その進路の断片とは、ゲームやアニメといった「子どもの世界」で、自由に過ごしている子どもを観察していると見えてくるのです。間違っても子どもが緊張する「検査」などで明らかになることはありません。

    余談ですが、かつて某大手ファーストフードチェーンが「どんなメニューが食べたいか?」とアンケートをとった際、答えは「(ヘルシーに)野菜」だったそうです。しかし、いざ用意した豆などのメニューは売れませんでした。

    冷静に理屈を言えば、先々の健康を考えて必要なのは「野菜」です。しかし、食欲に突き動かされているときには、目の前のこんがりアツアツの「ポテト」が食べたい人が多いからです。

    お子さんもこれと同じです。冷静な状態なら「将来のために進路(野菜)が大事」とわかります。しかし今は心が傷つき、目の前の苦しみで手一杯な「衝動的」な状態です。そんなときに理屈で攻めて、無理に「野菜が必要だ」と言わせたとしても、なんの意味もないということです。

    その進路選択は「保護者の願望」ではないか?を見直す

    改めて今回のお悩みの「私はどうしたら良いか?」に立ち返ってみます。もっとも身近でわが子を観察できる保護者が話に耳を傾けなかったり、あるいは思い込みでごり押ししている間は、不登校問題は解決しません。

    まさに絶好のポジションにいる保護者がわが子を見えていないのですから、一体他の誰が手伝えるでしょうか?
    お子さんがいま、なにに苦しんでいるのか?保護者の願望を子どもにかぶせる前に、ぜひしっかり理解してみることをお勧めします。理解のない援助は多くの場合、的はずれとなってしまうので一歩立ち止まってみましょう。

    プロフィール


    椎名 雄一

    1973年生まれ。千葉大学工学部情報工学科を卒業後、電気通信事業会社に入社。20代でうつ病を発症し、約10年間のひきこもりや自殺未遂を経験。その後、自身の経験を「今悩んでいる人」のために生かすべく心理カウンセラーに転身。一般社団法人日本心理療法協会の代表理事として活動し、心療内科のカウンセラーとして現場での支援方法を模索。企業研修や企業カウンセラーとしても活躍。
    近年では通信制高校を経営し、中高生や保護者との関わりを通じて若者支援に力を入れている。2021年には「不登校・ひきこもりから抜け出す7つのステップ」(学びリンク株式会社)を出版し、不登校やひきこもりで悩む中高生や保護者のために「オンライン保護者会」を立ち上げ、2000人を超える保護者と対話を続けている。現場の声を大切にした講演、カウンセリング、コミュニティ運営には定評がある。

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