不登校を終えた子が「お母さんを助けてくれてありがとう」と言う理由【椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム #10】

椎名 雄一先生(一般社団法人日本心理療法協会代表理事)による、不登校のお子さまの保護者のかたより寄せられたお悩みにズバリお答えいただく『椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム』。今回は、不登校の渦中で親子ともに苦しい日々を過ごす保護者から、「乗り越えた先にある未来」を希望にしたい、というご相談です。椎名先生が、実際に不登校を終えた方々に「あのころ」のことを聞いてくれました。

この記事のポイント

    苦しみの渦中を通り過ぎてからでないと、子どもも当時のことを説明できない

    保護者からのご質問

    不登校の渦中にいると、まるで出口のない暗闇のなかにいるような日々です。だからこそ、この暗闇の外にたどり着いた人がどんなふうに感じるのか?どんな景色が待っているのかを知って、いまを生き抜く道標にしたいです。

    (ご質問は過去に椎名先生に届いた内容を要約したものです)

    椎名先生回答

    不登校を経て回復した子どもたちが、あとから僕のところに来て、「お母さんを助けてくれてありがとうございました」と伝えてくれることがあります。これは決して珍しいことではありません。

    不登校の最中、子どもは学校に行かなければいけないとは思っている。けれど、心と体がどうしても動かない。混乱していて、自分でも自分を責めてしまうくらい苦しいそんな状態です。ですから、外から見ると止まっているように見える時間でも、内側では必死に答えの出ない問いと向き合っています。そんな渦中にいるときには自分のことを説明することすら困難ですね。

    一方で、学校に通い始めたり、自信を回復して新しい居場所を見つけるなどして不登校を終えて、深呼吸をしてまわりを見渡せるくらいになると、子どもは「当時のこと」を少し説明できるようになります(実際にはつらかった過去の出来事は思い出せなくなることが多いので、詳細が語れる子はまれではあります)。

    今回は、そうした声を集めてきましたのでご紹介させていただきます。

    学校に戻るのはゴールではない

    通信制高校に進んでも、「元のレールに戻りたい」という気持ちがすぐに消えるわけではありません。同じように高校卒業はゴールではなく、それも通過点に過ぎません。視野が狭くなって、学校に戻ることだけに集中しすぎると「自分が大事にしたいこと」がむしろ見えなくなることもあると思います。
    少し大人になって、ふり返って思うのは「不登校」も「停滞していたような時間」も、すべて大事なパーツなんだということです。(声1)

    人生とはその子、その人の全体像のようなものですよね。「学業」「仲間」「遊び」「希望」「こだわり」「苦労」「怒り」...。そういうものがすべて必要です。

    「遊び」からそれをつくろうとしている子に、そうではなくて「学業」からだ、と限定された道をつくっておいて、あとから「友だちをつくりなよ」などと言わないことです。「遊び」がないのに「友だち」を作るのは難しいことです。

    「学校に戻る」ことも「卒業する」こともその一部にすぎませんね。カレーライスをつくるのに「にんじんが先」「じゃがいもはあと」のような基準は不要です。「学業」「遊び」「仲間」「怒り」どこから人生を始めても良いと考えるとお子さんなりの順番が見えてきます。

    遠い未来よりも、いまが大事だった

    遠い未来のことを考えすぎると苦しくなった。絶望的な気分になった。自分には将来がないと思って消えてしまいたかった。それよりも「いま、できることに集中」「いまが楽しいかどうか」「いま、自分らしいかどうか」の方がはるかに大事だったと思う。(声2)


    お子さんが不登校になり、外出しなくなってから保護者が悩むことのひとつに「幼稚園や小学校低学年の、親の言うことを素直に聞いて外出をしてくれていた時期に、たくさん楽しい経験をさせておけばよかった」というものがあります。

    中高生になって、いったん家にこもってしまったら「川に行ってみよう」「バーベキューをしよう」といっても、これまでにそうした経験がない子は反応してくれません。そんな未知のものはやりたくないからです。でも過去に「ニジマス釣りが楽しかったな」とか「おじいちゃんと焚き火したのが楽しかった」という経験がある子は、それが助けになります。「いま」を楽しむことが「未来」を楽しむことにつながっているのです。

    いまを楽しめていない子に将来の話をすると「苦しいことがふくらんでいく未来」しか想像できません。それは生きているのがつらくなりますよね!


    「お母さんを助けてくれてありがとう」という理由

    不登校の渦中で、子どもは自分の苦しさだけでなく、母親の苦しさにも非常に敏感になります。不登校は、子どもだけが倒れている出来事ではないからです。子どもから見ると、「お母さんも一緒に倒れてしまっている出来事」です。保護者が子どもを助ける構図ではなく、母子が同じ場所で耐えている構図の中で、子どもは戦っています。

    だからこそ、外から関わる大人がまずお母さんと関わり、お母さんに笑顔がもどったり、家の雰囲気が変わると子どもも息ができるようになります。そんな変化を、子どもは驚くほどよく見ているのです。

    でも「お母さんを助けてくれてありがとう」という言葉は、渦中では出てきません。

    感謝を口にすれば、「だったら頑張れ」と返されてしまうかもしれない。その危うさを、子どもは本能的に分かっているからです。安全な場所に来て、初めて言葉にできるのです。だから、不登校をふり返って初めて「お母さんを助けてくれてありがとう」となるのです。

    むしろ、保護者も苦しいなか頑張っている渦中でこそ、その言葉を聞きたい!というのが親心かと思いますが、そんなふり返りの言葉が将来聞けるかもしれないと思って、まずは保護者が笑顔で深呼吸できると良いと思います。その未来の日まで、一緒に協力しあっていきたいですね。

    プロフィール


    椎名 雄一

    1973年生まれ。千葉大学工学部情報工学科を卒業後、電気通信事業会社に入社。20代でうつ病を発症し、約10年間のひきこもりや自殺未遂を経験。その後、自身の経験を「今悩んでいる人」のために生かすべく心理カウンセラーに転身。一般社団法人日本心理療法協会の代表理事として活動し、心療内科のカウンセラーとして現場での支援方法を模索。企業研修や企業カウンセラーとしても活躍。
    近年では通信制高校を経営し、中高生や保護者との関わりを通じて若者支援に力を入れている。2021年には「不登校・ひきこもりから抜け出す7つのステップ」(学びリンク株式会社)を出版し、不登校やひきこもりで悩む中高生や保護者のために「オンライン保護者会」を立ち上げ、2000人を超える保護者と対話を続けている。現場の声を大切にした講演、カウンセリング、コミュニティ運営には定評がある。

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