学校・会社という「箱」より大切なのは、自ら価値を生み出す力【椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム #8】

椎名 雄一先生(一般社団法人日本心理療法協会代表理事)による、不登校のお子さまの保護者のかたより寄せられたお悩みにズバリお答えいただく『椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム』。不登校のお子さまを前に、保護者が心配するのは進学や将来、そしてお金の不安です。そこで椎名先生からは3つの観点でアドバイスをいただきました。

この記事のポイント

    不登校で将来が不安。進学も就職もしなかったらお金の心配も。悩む保護者からの相談

    保護者からのご質問

    子どもが不登校のままだった場合、将来のことを考えると不安しかありません。進学や就職ができるのか、学校に行かないことでかかるお金のことも。それに将来的に働かなかったら、一体どこまでお金の面倒を見ることになるのか...。このままで本当に大丈夫なのか、保護者としてどう考えたらよいのでしょうか?

    (ご質問は過去に椎名先生に届いた内容を要約したものです)

    椎名先生の回答

    「将来のことが不安」という保護者の方はとても多いですが、忘れてはいけないのは「将来が不安で寝られない」「将来が不安で現実を見られない」という子どもたちもそれ以上にいるということ。

    「働けない自分は生きていてはいけないと思う」「もう自分に投資しないでほしい」という言い方をする子すらいるのです。

    そして、その現実に向き合えないからゲームやアニメ、推し活などに夢中になります。

    同じように「将来のことが不安」と思っている親子がなぜかみ合わないのでしょうか?

    それはどちらも「将来から目を背けているから」と言えると思います。「いやいや、保護者は背けていないのでは?」と思う方がいるかもしれませんが本当にそうでしょうか?


    かみ合っていないと考えられる理由は3つあります。

    1)「目の前の課題から目を背け、将来の話をしている」

    「将来のために学校に通うこと」は確かに大事です。でも、お子さんは「部屋から出られない」「自信がない」「人が怖い」といったようなことを言っていませんか?強迫性障害やLGBTQ +などの課題がある子もいます。家庭に目を向けると、親子関係、夫婦関係がよくないケースもあります。これらはいわば、「目の前の課題」と言えるものです。

    その「目の前の課題」を解決することは難しいので、パスしてひとまず「通える学校を探してきた」というようなことをしてもそれは助けになりません。これは厳しい言い方をすれば、ゲームやアニメ、推し活に夢中になって目の前の課題から目を背けているのと似ています。それらしい未来を用意したから「将来に向き合っている」ような気がしますが、実際には目の前の課題に向き合えていないのです。


    お子さんが「部屋から出られない」と悩むなら「安心して部屋から出られる」ことが、最初にすべき将来への行動です。

    2)「プレイヤーがお子さんだということを忘れている」

    「保護者としてできることをしよう」とがんばって、高校に進学率を聞きに行ったり、大学や専門学校に就職率を聞きに行ったりするのは必要なリサーチかもしれません。ですが、99%の就職率を誇る学校に入学できたとしても、4月の数日通っただけで通えなくなってしまったら、当然残りの1%の方になってしまいますよね。不登校対策の勉強会などに参加して、解決方法を勉強している人にも同じことが言えます。

    「この方法でうまくいくらしい」「これは成功率が高い方法だ」といった情報を手に入れて、我が子にも試そうとする。けれどそれは一般論であったり、誰か違う人の成功事例です。大谷 翔平選手の成功方法を我が子にも、と言っているようなものなのです。

    「我が子の将来」を描くなら「我が子がプレイヤーである」ということは大前提です。たとえば、保護者でさえもお手伝いさせられない状態なのに、他人が子どもに仕事をさせられるでしょうか?その前にやれることは、「我が子はここにこだわりがあるから、こういう仕事は夢中になってやります」といった具体的なお子さんの動かしかた、モチベーションのあげかたを発見して、「我が子はこういう人間だ」ということを把握することは、将来を考える上で必須です。

    3)「親自体がお金のことを理解していない」

    将来のことを考えると多くの人は「会社に就職すれば安心」というようなイメージを持ちます。もし保護者の理解がそこで止まっていたとしたら、もちろんお子さんを会社という箱に放り込もうとします。それで「我が子の将来は安心」と考えているのだとしたら、それは大雑把すぎると言えます。

    お金は「価値」に対して支払われるもの。会社員としてなにかの「価値」を生み出すから結果としてお給料がもらえます。それは個人であっても同じです。「課題の解決」「幸せな時間の創出」「活躍の場の提供」「情報の整理・提供」などなにかの価値を生み出して、人は対価としてお金を得ます。また、社会的な立場も得られることもあります。

    つまり、お金を稼いで生きていくために必要なのは「会社という箱に所属すること」ではなく、「価値が生み出せる人になること」です。素敵な絵が描けること。人に物を教えるのが上手いこと。料理が得意なことなどは「価値を生み出せる」ということかもしれません。

    ということは、目の前でお子さんが芽を出しつつある「価値を生む力」を見つけられれば将来は見えてきます。

    マーケティング的な観察をして価値が最大化するフィールドを模索しよう

    その力を育てていけば「大きな価値」を生めるようになります。就職の面接で、すでに大きな価値を生めるようになっている人は採用されます。「価値を生む力」をずっと見過ごされてきている子は取ってつけたような面接用の台本を読んで就職しようとします。この差は明確ですね。

    この3つのポイント

    1)今、目の前にある課題をクリアする

    2)お子さんがプレイヤーであることを忘れない

    3)仕事とは会社に所属することではなく、価値を生むこと

    これらのことをもう一度確認して、お子さんの強みと弱みを分析し、ブランディングすること。そして、どの業界、どの地域に行ったらその価値が最大化するのか?つまりマーケティング的なことをしてみれば、お子さんの将来が見えてきます。多くの保護者は売り込みたい商品(我が子)のことを知らず、売り込みたい相手(業界、社会)のことを知らないまま「将来が不安」と言っているに過ぎません。

    「箱に所属すること」よりも、目指すは「自ら価値を生み出せる人」へ

    企業にも「私たちの業界が子どもたちの憧れる業界になるように」といった志を持って価値を高めている社員がいます。一方で「もらった給料分だけそこにいればいいんだ」という社員も少なくありません。

    もし、後者のような考えのかたであれば「会社という箱に子どもを放り込む」という発想になります。つまり、「学校や会社に所属していればなんとかなる」という発想をしている限りは、変化の大きい時代にお子さんの将来が見えてくることはあまりないのではないかと思います。

    まだ記憶に新しいコロナ禍のような非日常的な事態を思い出してみてください。あのときのように、当たり前のように登校・出社できた所属する場所が無くなったりしたら、自ら価値を生み出せない人の居場所は無くなってしまいませんか?


    むしろこの機会を活かして、お金や仕事について親子で考えたり話し合ってみるのも良いきっかけになるかもしれません。

    プロフィール


    椎名 雄一

    1973年生まれ。千葉大学工学部情報工学科を卒業後、電気通信事業会社に入社。20代でうつ病を発症し、約10年間のひきこもりや自殺未遂を経験。その後、自身の経験を「今悩んでいる人」のために生かすべく心理カウンセラーに転身。一般社団法人日本心理療法協会の代表理事として活動し、心療内科のカウンセラーとして現場での支援方法を模索。企業研修や企業カウンセラーとしても活躍。
    近年では通信制高校を経営し、中高生や保護者との関わりを通じて若者支援に力を入れている。2021年には「不登校・ひきこもりから抜け出す7つのステップ」(学びリンク株式会社)を出版し、不登校やひきこもりで悩む中高生や保護者のために「オンライン保護者会」を立ち上げ、2000人を超える保護者と対話を続けている。現場の声を大切にした講演、カウンセリング、コミュニティ運営には定評がある。

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