不登校は回復期の最初の入口?消耗したエネルギーを癒し、力を蓄えるとき

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不登校のゴールは「学校に戻ること」——そう思われる方は少なくありません。
けれど、私がこれまで多くの生徒やご家庭に寄り添ってきて強く感じるのは、不登校は限界まで頑張った子どもが、自分を守るために立ち止まり、失ったエネルギーを取り戻そうとする“最初の行動”だということです。

こんにちは、ベネッセ教育情報で不登校 通信制高校領域を担当している上木原 孝伸(かみきはら たかのぶ)と申します。

今、お子さんの様子を見て「なにもしていないように見える」と感じるかもしれません。
ですが、それは心と体が再び動き出すための準備期間。植物が冬の間に静かに根を張るように、目には見えないところで回復が進んでいます。

この記事では、不登校を「エネルギーを回復させるための大切なプロセス」として捉え直し、子どもが自分らしさを取り戻していく道筋や、保護者ができる前向きなサポートの方法を一緒に考えていきます。

この記事のポイント

不登校の回復過程とは?エネルギーを取り戻すプロセス

不登校になる理由は一人ひとり違います。ですが、そこに至るまでに心と体のエネルギーが大きくすり減っていることは共通しています。感情が不安定になったり、体の不調が出たりすることもあります。そんな状態から回復していく道のりには、よく似たプロセスがあるのです。

1. まずは「休息」が必要な時期

学校や人間関係のストレスが重なり、心も体も限界を迎えると、「もう行けない」「動けない」と感じる瞬間が訪れます。本人も混乱していることが多いので、この段階では無理に行動を促すより、安心して休める環境を整えることがなにより大切です。休むことは甘えではなく、回復の第一歩です。

2. だんだんと「エネルギーが戻る」時期

休養を続けるうちに、張りつめていた心や体が少しずつゆるみ、回復の兆しが見えてきます。長く寝ている、やる気が出ない、すぐ疲れる——。一見すると後退に見えるかもしれませんが、これは「安全だ」と感じられるようになった証拠だとも言えます。力を抜ける状態こそ、次に動き出すための土台。なにもしない時間は、回復のために欠かせないプロセスです。

3. 「新しい一歩」を考え始める時期

エネルギーが回復してくると、「なにかやってみたい」「外に出てみようかな」といった前向きな気持ちが芽生えてきます。家庭外の活動や、学校・フリースクールへの参加など、少しずつ社会との接点が生まれはじめます。ただし、その歩幅やタイミングは本人次第。急かさず、そっと背中を支えることが大切です。

不登校そのものが「回復期」の一歩という考え方

私は、不登校を「ただ止まっている時間」だとは思っていません。むしろ、それ自体が心と体のエネルギーを取り戻すための大切な入口だと考えています。
以前は、不登校から再び学校へ通えるようになること、そしてその過程こそが「回復期」とされてきました。けれども令和元年の文部科学省の通知には、こう記されています。

「不登校児童生徒への支援は、『学校に登校する』という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要がある」
出典:文部科学省 「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」令和元年10月25日

これは、再登校という一点だけをゴールにせず、子どもが自分の人生を主体的に選び取れるようになることを支えるべきだという意味です。

私の経験からも、学校に行かない期間は「逃げ」ではなく、傷ついた心身を守り、回復させるための時間です。そこでようやく、自分の中にある小さな“種”——これからの軸になる価値観や興味——に気づくことができます。そして、その種が芽吹いたとき、子どもは自分の足で社会に向かって歩き出していきます。

不登校は「止まっている」のではなく「回復」に向かっている

不登校の時間は、決して空白ではありません。子どもが外のストレスやプレッシャーから距離を取り、心と体のバランスを取り戻すための、意味のある期間です。
「学校に行けない」のではなく、「自分を守るために休んでいる」。そう捉えてみると、保護者や周囲の方の焦りや不安が、少しやわらぐかもしれません。

もちろん、昼夜逆転や学習の遅れなど、気になることは尽きないでしょう。ですが、同級生と比べる必要はありません。大事なのは、お子さん自身のペースです。
私は、不登校の期間を「元に戻す」ための時間とは考えていません。むしろ、自分らしさや新しい価値観を育てるための時間です。

「自分はなにを大切にしたいのか」「なにがつらかったのか」と向き合いながら、好きなことに夢中になってみる——そんな経験こそが、その後の人生を支える力になります。

保護者や周囲ができるサポート——休む時期として受け止める

保護者や周囲ができる最大のサポートは、子どものペースを尊重し、安心できる環境を整えることです。「早く学校に戻ってほしい」という思いは自然なことですが、その気持ちを子どもに押しつけるのではなく、「今は休むとき」と認めてあげることが回復の土台になります。

そして、子どもが「やってみたい」と口にしたことは、どんなに小さなことでも応援してください。できた瞬間には、一緒に喜びましょう。その積み重ねが、「やってみよう」という意欲を育てます。家庭が安心できる場所であることは、回復のスピードを確かに早めます。

不登校の期間は、再登校だけをゴールにするのではなく、子どもが自分らしさや新しい力を取り戻すプロセスだと考えてみてください。学校や支援施設と相談して自宅学習を止めない工夫をしたり、外の世界とつながるきっかけを探してあげたりすることも有効です。

そして、休息によってエネルギーが戻ってきたとき、自分で選び、行動できるような環境をそっと整えてあげましょう。それが、次の一歩を自ら踏み出す力につながります。

プロフィール


上木原 孝伸

教育企業で講師として17年間教壇に立ち、教科指導や教室運営に携わった後、通信制高校の開校準備から参画、同校の副校長を4年間務める。その後、発達に特性があるお子さまとそのご家庭にマッチする環境のコンサルティングサービスの責任者を務めた後、ベネッセコーポレーションに入社。不登校ライフナビの監修等を務める。

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