不登校の中3生、進路選択の時期が到来するも話し合いすらできない。悩む保護者に伝えたいこと【椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム #2】
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椎名 雄一先生(一般社団法人日本心理療法協会代表理事)による、不登校のお子さまの保護者のかたより寄せられたお悩みにズバリお答えいただく『椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム』。6月は中3生にとって、進路を本格的に考え始める重要な時期です。しかし、不登校の子どもを持つご家庭では、この時期は特別な悩みが生じることがあります。「進路をどうするべきか」「行動しない子どもとどう向き合えばいいのか」といった焦りや不安が募るなか、保護者としてどのように対応すれば良いのでしょうか?
今回は、進路選択のタイミングで不登校の子どもを支えるための考え方について、椎名先生が具体的なアドバイスをお届けします。
進路選択の時期を迎えた中3生、なにも動かない子どもに焦りを感じる保護者から将来を悲観した悩み
保護者からのご質問
中学3年の息子が1年生の冬から不登校になり、今もほとんど外に出ない生活が続いています。最近はゲームばかりで、昼夜逆転もしています。
中3の6月には進路について本格的に考える時期と聞いて、なにもしないままではいけないと焦りを感じています。
子どもは進路の話をしようとすると「もうそういうの、やめて」と怒って、数日間部屋に閉じこもってしまいます。このまま何も決めずに時間切れ、無所属になりそうで焦っています。私はどうしたらいいのでしょうか?
(ご質問は過去に椎名先生に届いた内容を要約したものです)
椎名先生の回答
6月という時期は、多くの中学3年生にとって進路を考え始める大きな節目となります。 親は他の子に遅れてはいけないと「進路」つまり「高校名」を決めようと焦ってしまいがちです。でも、これまで学校に行けなかったお子さんにとっては進路選択以前にやることがあります。
もし皆さんがインフルエンザや新型コロナウイルス感染症などになって、明日、明後日の体調がわからないときに明後日の予定を入れるでしょうか?「とりあえず体調が戻らないとわからない」と保留にするのではないでしょうか?明後日の予定を決めてしまっても自分がその日に動けるかどうかわからないからです。
不登校のお子さんの多くは「学校に行く」以前に「朝起きる」「外出する」「会話する」さえできない状態です。明日の朝起きられるかどうか?外出できるかどうかわからないのに3年間通う場所を決められるでしょうか?正直に答えるならば「どの学校も行けるかわからない」となりますし、適当に答えるならば「わからないからどれでもいいよ」となりがちです。この状況で「進路をどうするか?」について話し合うのは無意味です。
そして話し合いの土台にすら乗れない子どもたちは、理解なく、前提が違う話を続ける大人が嫌になったり、周りの期待に応えられない自分が嫌いになったりします。
明日の自分すらわからない子どもに、明日のことを聞いても保護者の欲しい答えは返ってこない
これをインフルエンザなどの例で言えば、体調が悪いことはまったく考えてくれず、「明後日の夜ならいい?」「明々後日は?」と答えられないことを問い詰めるようなものです。(いや体調が悪いって言っているんだけれどな)と不信感が募ったり、自分を責めることにしかなりません。
さらに言えば、このとき子どもが助けて欲しいのはインフルエンザなどから早く回復するための支えです。元気になれば予定も計画も決められるのです。通えない学校の情報を山のように調べてきて「今日はどう?学校に行けそう?」「進路について話し合おう?」などと煽ってきても「学校に行く気持ち」は高まりません。つまり、邪魔にこそなっていても助けにはならないということです。
お子さんはどうやったら「学校大丈夫かも」「学校楽しいかも」ってなるのでしょうか?それは「自分には居場所がある」「自分には得意分野がある」「自分のことが好きになった」そういう学校に対して前向きな気持ちになることです。しつこいようですが、明日の自分がわからない。頑張ることもできない状態の子に「明日なら行ける?」と聞いたら答えは「いけません(申し訳ありません)」ですよね。「じゃあ、明後日は?」「いけません(申し訳ありません)もう私いらないですよね」と自己肯定感に傷がついていくだけです。それよりも大事なのは「自分は大丈夫だ」という気持ちをどうやって伸ばしていくかです。
・理解されない状態で学校に行けば「自分は大丈夫だ」という気持ちは傷つきます。
・無理やり進路を決めても続かなければ「自分はダメだ」と思ってしまいます。
・心の準備がないのに外出すれば「自分はついていけない」と感じてしまいます。
・昼間に起きて留守番していれば「自分だけ取り残された感じ」が強くなります。
・保護者が「どうするの?」と問いかけるたびに「自分は親不孝だ」と感じます。
こうした状態を続けていながら「自分は大丈夫だ」という気持ちが強くなるでしょうか?
周囲が理解なく圧をかければかけるほど、子どもたちは自分を否定する経験をたくさんするので「自分にはできない」「自分には力がない」と信じるようになります。
そんなマインドで学校に戻るのは簡単なことではありません。
今ゲームをしているのはなぜでしょうか?
どんな瞬間に「よしやったぞ!」と思うのでしょうか?ゲームのなかに理解者がいたりしませんか?ゲームのなかで「仲間を助けて」いませんか?「分析と研究」をしていませんか?そこには消えかけた「自分の居場所」がほんの少しあるのではないでしょうか?
またの機会に詳しくお話ししますが、僕はゲームをしている忖度なしのお子さんの言動を見ていたら、こだわりや好み、価値観がわかります。それは「進路」です。その進路の断片はゲームやアニメなどの子どもの世界で自由にしている子どもを観察していると見えてきます。間違っても子どもが緊張する「検査」などで明らかになることではありません。
子どもが衝動的になっているときに理屈で攻めても無意味!的外れな援助にならないようにまずは理解すること
余談ですがかつて某大手ファーストフード店はアンケートで「どんなメニューが食べたいか?」とお客さんに聞いたそうです。答えは「ヘルシーな野菜が食べたい」それをまに受けた同店は、豆などのメニューを用意しましたが売れなかったそうです。この例からもわかるように、理性的な回答と実際の選択にはギャップが生じることがあります。衝動的な場面では、より嗜好性の高い選択肢が求められることがあるのです。
お子さんが衝動的になっている時に理屈で攻めてもなんの意味もないのです。お悩みの「私はどうしたら良いか?」ですが、もっとも身近で観察できる保護者が「話を聞けない」で理屈を優先している間は不登校問題は前進しません。絶好のポジションにいる保護者が現実のお子さんが見えていないのですから、いったい他の誰に手伝えるでしょうか?
お子さんが今なにに苦しんでいるのか?保護者の希望をかぶせる前に、ぜひしっかり理解してみることをお勧めします。理解のない援助は多くの場合、的外れだからです。
お子さんの状況を理解することは、保護者にとっても簡単なことではないかもしれません。しかし、まずは「進路をどうするか」という焦点を一旦脇に置き、お子さんがいまどのような気持ちで日々を過ごしているのかを見つめ直してみましょう。お子さんが「自分は大丈夫だ」と感じられるような環境を整えることが、結果的に進路選択の土台をつくることにつながります。保護者としてできることは、お子さんの現状をしっかり観察し、理解することから始まります。それが、次の一歩を踏み出すための鍵になるのです。
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