「普通じゃないは強みになる」小児発達の専門医ママが語る、子育ての向き合い方
- 育児・子育て
【成長を促す接し方を直接保護者に教えます】
「うちの子、ちょっと周りの子と違うかも……」
そう感じたことはありませんか? 小さなころの言葉の遅れ、落ち着きのなさ、友達との関わり方……。子育てをしていると、さまざまな悩みが尽きないものです。特に、発達に特性があるお子さまを持つ保護者のかたは、不安や孤独を感じることもあるかもしれません。
今回は、発達専門の小児科医であり、3児の母でもある西村佑美先生に、ご自身の経験や、多くの子どもたちと向き合ってきた経験から、子育てのヒントや、子どもの可能性を伸ばすためのアドバイスをいただきました。
1. 寄り添う医師としての原点
私は宮城県仙台市出身で、小児科専門医、小児心身医学会認定医、子どものこころ専門医の資格を持ち、大学病院でも発達外来を担当してきました。現在はオンラインによる子育てサポートを行う一般社団法人日本小児発達子育て支援協会の代表理事を務める一方で、日本大学医学部附属小児科に籍を置きつつ、主に都内のクリニックで発達外来を専門に行っています。
私の医師としての原点は、43年前に遡(さかのぼ)ります。
最重度の自閉症の姉を持つきょうだい児として生まれ、当時は、自閉症になるのは親の育て方が原因だと言われ、母親が「愛情不足」と責められるのを目の当たりにしました。
姉には多くの可能性があるのに理解されていない状況や、母親の苦しみを見て、家族に誰よりも寄り添える医師になろうと決意したのです。
医学部卒業後は、一般小児科医としての診療を学びながら、発達診療の第一人者から指導を受けてスキルを磨きました。
その後、第1子を出産しましたが、息子にも言葉の遅れや多動があり、育て方にかなり悩む時期がありました。しかし諦めずに専門性を生かしながら「こどもちゃれんじ」などの幼児教育、発達支援などを試行錯誤した結果、独特の個性を持つユニークな子どもへと成長しています。
その経験から、子どもはその子に合わせて多角的に取り組んで伸ばすことができると実感しています。今は、「大丈夫、もう一度大好きになれる」というメッセージを多くの人に伝えていきたいと思っています。
【子育てアドバイスは白衣を脱いでママ目線で】
2. 診察室の外へ:ママ友ドクターとしての活動
地方病院と大学病院で専門外来を新設し、多くの患者さんと関わってきましたが、ある出来事が転機となりました。1年以上相談外来に通うお子さまのお母さんが「余命宣告を受けました。子どもが成人するまで見届けられません。どうしたらいいでしょうか」と相談してきたのです。このお母さんは医療従事者で、私の長男と同い年のお子さまがいました。しかし、同じ母親としてプライベートの話をしながらも本当の意味で寄り添うことができず、専門家として淡々と対応するしかありませんでした。
その後、私は第3子の産休に入り、また、コロナ禍とも重なり、このお母さんとは会えないままでした。しかし、この経験から「白衣を着て診察室にいるだけでは、同じ母親として本当に寄り添えない」と気付き、2020年に「ママ友ドクター®」として診察室の外での子育て支援活動を始めました。
コロナ禍でオンライン発信が急速に進み、YouTubeやSNSでの情報発信、全国での相談会開催を経て、2022年からは「子ども発達相談アカデミーVARY」というオンラインコミュニティ-を運営しています。現在100人を超えるメンバーがおり、卒業生も含めると200人近くが日本だけでなく海外からも参加しています。
現在、小児科医が主催する有料の子育て支援コミュニティ-としては日本最大級となりました。
VARYで学んだお母さんたちが各地域で後輩ママにアドバイスできるようになれば、日本の子育てサポート環境を変革できると考え、2024年、本の出版と同時期に「日本小児発達子育て支援協会」を立ち上げました。各自治体や企業と協力しながら活動を広げていきたいと思っています。
2024年9月に『発達特性に悩んだらはじめに読む本』(Gakken)を出版し1万部を超えるベストセラーに。「AERA dot.」に自身の半生について取材していただく機会を得ました。その記事が「Yahoo!ニュース」でトップテン入りし、なんとあのお母さんがそれを見て連絡をくれたのです。「まだ生きています。元気でやっています」と。インスタのDMで連絡をもらい、年末に一緒にランチをして、現在は子ども同士も交流があり、本当の意味での「ママ友」になることができました。
彼女は今も「あと生きていられるのは1年以内かもしれない」と言いながらも、前を向いて毎日を過ごしています。「子どもの成人式が見られない」ということは変えられないかもしれません。それでも少しでも安心して残りの人生を楽しんでもらえるよう、これからも寄り添っていきたいです。
【VARY会員向け交流会では、日頃の悩みを発散】
3. 子どもの個性を伸ばすために:保護者ができること
子ども自身が「よく学ぶ」ためには、子ども自身が一番得意な思考回路を使って学べるような工夫を大人が教えてあげることだと思います。
たとえば、算数も、「さくらんぼ計算」のように思考過程が多かったり、計算カードのような丸暗記の勉強方法のようなものは、ワーキングメモリーが弱い子どもたちには苦痛です。1たす1は2、2たす2は4のような単純暗記は本当に苦行でしかないのです。
うちの子もそうでした。視覚情報処理なら得意だから、代わりにそろばんを使って、1たす2という計算をイメージで行うやり方にシフトしてみました。その結果、3年くらいかかりましたが、他の子と同じように計算ができるようになりました。
ひとつのやり方でうまくいかないなと思ったら、こっちをやってみようかみたいに、いくつかのバリエーションを大人が見せてあげることが大事ではないでしょうか。子どもが負担なく楽しく感じられるコツが特性に応じて何パターンか見つかるので、自分に合ったパターンで上手にできるともっと楽しくなるはずです。そして、そばにニコニコして応援してくれる大人がいて、子どもをサポートする環境があることが本当に大事だと思っています。
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4.「普通じゃない」は強みになる:これからの社会で生き抜くために
これからの時代の子育てでは、自分自身が受けてきた子育てにとらわれずに、常に自身の考えをアップデートするという心がけが不可欠です。AI時代の今、子どもたちに必要なものは、基礎学力のみならず、いわゆる個性だったりします。
たとえば多動がある子は、昔ならばじっとしていられない悪い子と言われたかもしれませんが、好奇心が旺盛で、常にアンテナが立っていて、いろいろなことを見つけられる子どもだというふうにとらえながら我が子を育てていく。新しい時代に合った価値観を親自身が常にアップデートしていくという意識が一番大事です。
また、これからの時代は、普通じゃないということ自体が強みになるのは間違いないでしょう。
今後私が行っていきたいことは、普通と違うということで悩んでいるお子さまや、その保護者のマインドを変えていくことです。
たとえば今は「発達障害」という表現すらせず「神経発達症」と診断名も変更された時代なのに、専門家もメディアもまだまだ「発達障害は困った」「治すべきもの」というイメージを根強く持ち続けています。まずそういうネガティブなイメージを払拭(ふっしょく)して、10年先に「普通じゃなくてもいいんだ」「自分の特性は生かすものなんだ」と、今を生きる子どもたちが堂々と思えるような社会にしていきたいです。
子育ては、喜びと同時に、悩みや不安も付きものです。
特に、発達に特性があるお子さまを持つ保護者のかたは、周りの人に相談しづらいと感じることもあるかもしれません。
しかし、決して一人で悩まないでください。
親身になって相談に乗ってくれる専門家や、同じ悩みを持つ仲間たちがいます。
何も諦めなくていい、子どもの成長はまだ始まったばかり。
不安になるのは知らないから。
知らないことは学べばいい。
お子さまの可能性を信じて、一緒に成長していきましょう。
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