46歳で大チャレンジ、保育士に転身も「体力キツい」 会社勤めに戻り、50歳で正社員になるまで #令和の親
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「年齢を重ねてからのキャリアチェンジは難しい?」「子どもがいるとキャリアの選択肢が狭まる……?」令和の今、子育てとキャリアについて悩む保護者の方は多いもの。
そんな中、子どもの成長とともに、異色のキャリアを歩んできたのが佐々木さん(仮名・50歳男性)です。管理職から40歳で保育士へ、さらには派遣社員から嘱託社員、そして正社員へとその歩みは縦横無尽。
子育てにも全力投球しながら、畑違いの職種への転職、自分よりうんと若い人だらけの職場、数々のカルチャーショック……40歳を超えて出合う初めて尽くしの環境をどう乗り越えてきたのか?
また、共働きで家計を支え合ってきた妻は、夫のキャリアチェンジを、どう受け止めたのでしょうか。
試行錯誤しながら、異色のキャリアと育児を両立する佐々木さんのリアルな実情を伺いました。
46歳で管理職から保育士に
佐々木さん:50歳で派遣社員から正社員となった私ですが、最初の大きな転機は子どもが5歳の時でした。当時管理職として勤務していた会社を退職し、保育士になったんです。40歳過ぎでの大チャレンジ。端から見たら無謀に見えたでしょうね。
畑違いの保育士をめざした理由は、二つあります。一つ目は、どんな場所でも働ける“手に職”を付けたいと思ったから。勤務していた会社はかなり激務で体を壊す人も多い職場でした。さらに業績が不安定になり、会社任せのキャリアに危機感を覚えたんです。そんな中、東京を離れ地方で開業する美容師の友人と話をし、ニーズがある業界で手に職を持つのっていいなと思うようになって。当時から、保育士不足は全国で深刻。いつどこでどんな状況でも働いていけるだろうと思いました。
二つ目は、子育ての知識を付けたいと思ったから。私自身、子育てをしていてもなにが子育ての正解か迷うことが多かったです。だったら、保育士の資格をとって、そこで学んだ知識を自分の子育てに還元できればと思ったんです。まずは退職する前に、働きながら2年ほどかけて資格を取得しました。保育士試験になかなか受からず、勉強は大変でした。
会社を退職したあとは、2017年12月から約1年、三つの園で保育士として勤務しました。これまで夫婦共働きで生活費を出し合っていたので、収入が下がった期間は、前職の退職金などで生活費をまかなっていました。仕事には不満はなく、楽しかったですね。ただ、年齢のせいもあってか、体力的にキツい部分があって。シフト勤務で変則的な労働時間だったり、土日も休みがなかったりで、長く続けるのは難しそうだと思うようになりました。
転職を考えるも50社応募しても1社も面接まで行けない日々
佐々木さん:「保育士を続けるのは体力的に厳しい。もう一度、以前やっていたWeb編集の仕事をしたい」と妻にも話したうえで、転職活動をスタート。ですが、全然うまくいきませんでした。年齢的にも厳しかったんでしょうね。50社近く応募しても、1社も面接に行けませんでした。
※写真はイメージです
これはマズいぞと妻に相談すると「とりあえず、派遣でもいいからWebの仕事を探してみたら?転職活動も並行して、1年の間に転職先を見つける。それがかなわなかったら、保育士として働くって覚悟を決めればいいんじゃない?」と言われました。そんなわけで、人生で初めて派遣会社に登録。年齢がネックとなる中、ご縁のあったS社で2018年10月から派遣社員として勤務することとなりました。
初めて派遣社員にーアラフィフ“おじさん”派遣社員の流儀
※写真はイメージです
佐々木さん:妻は仕事柄、時間の融通がききにくかったので、私が定時ピッタリに上がって、小学生の子どもの学童のお迎えへ。子育てと派遣社員としての仕事を両立しながら、正社員としての転職先を探すという日々でした。
人生初の派遣社員は、試行錯誤の連続でしたね。派遣社員としてうまく周囲になじんでいる人のブログを読みあさっては、ノウハウをメモして毎朝出勤前に読んでいました。
職場は若い人向けのメディアの編集部で、社員も20代を中心に若いかたが多かったんです。最初に挨拶させていただいた時は「急にこんなアラフィフのおじさん派遣社員が来て、みんなとまどうだろうな」と思いました。
なので、周囲に気を使わせないように、自分の経験や昔話をしない、上司でも新人でも誰にでも同じように接するということを意識しました。
仕事は毎日、カルチャーショックの連続。仕事の進め方はもちろん、若い社員のかたが話している芸能人の名前がわからない、Slackのスタンプにとまどうなど……挙げればキリがありません。そんななかでも、周りの人には本当に恵まれました。メンターだった正社員のかたに「聞いてダメな時間はないので、いつでも聞いてください!」と言ってもらえたことには、本当に救われましたね。
不安こそありましたが、運よく周りの人に恵まれたこと、そしてもともとポジティブな性格だったのもあり、初めての派遣社員としての仕事も楽しくやることができました。前職がかなりブラックだったので、耐性もあったのかもしれませんが(笑)。
この1年間は、自分の頭のOSが急速にアップデートされていくような毎日でとても楽しかったです。Windows2000で止まっていたところ、急に最新のiOSになったみたいな感じです。
毎日プラス1%の努力を積み重ね、嘱託社員から正社員に
佐々木さん:仕事は定時で切り上げる必要がありましたが、与えられた仕事をすればよいと自分で割りきるのではなく、「求められたことより少しだけ上をめざす」ことを心がけていました。できることの幅も広がり、1年後には嘱託社員に。
その後、50歳を手前にしたタイミングで部長が嘱託社員から正社員への登用を上申してくれました。人事は「前例がない」と驚いていたみたいです。はっきりとは言われませんでしたが、年齢がネックになったんだと思います。
50歳にして正社員に。会社でも初めてのことだったようで、うれしさと同時に「支えてフォローしてくださった方々のためにも、結果を出していかないと」と身が引き締まる思いがしました。
結果を出すといっても、会社から与えられる目標って高いことが多いじゃないですか。「ちょっと無理じゃないか」って思うこともありますよね。でも、明日は達成できなくても、少しずつ積み上げれば半年後、1年後に成果は出せるはず。そう信じて、やることを細分化し、毎日今できることのプラス1%の努力を積み重ね続けました。いま、目の前の5分間をがんばれないなら明日もがんばれない、そう思って努力を続けました。
その結果、当初は無理だと思っていた目標も時を経てクリアできるようになっていました。少しの努力でも日々積み重ねれば、気付けば一段高いステージに立てるようになると実感しましたね。その結果、社内で表彰をいただく機会にも恵まれました。
育児の原動力は「子どもの成長の瞬間を見逃したくない」
佐々木さん:仕事をがんばりながら、料理や掃除、送り迎えなどは大変ながらも楽しんでやっていました。子どもの成長は想像よりはるかに早くて、瞬間瞬間を見逃したくないなと思ったんです。
保育園や学童の送り迎えでも、保育士さんとの会話で園での様子を聞けたり、同じ園の保護者のかたと情報交換したりできるので、「大変」よりも「楽しい」「子どもに早く会いたい」という気持ちのほうが強かったです。
結婚前は料理もまったくできなかったんですが、子どもがアレルギーを持っていることもあり、自然と家で料理をするようになりました。手作りして工夫すれば、外食では食べられない洋食なども食べさせられると気付いて。子どもの笑顔も原動力となり、日々やりがいを感じられるようになりました。
家事や育児は、夫婦でやり方が違うこともあると思いますが、自分の得意を伸ばして相手の苦手を補うのが良好な夫婦関係を築くコツだと思っています。
妻には恩返し真っただ中
佐々木さん:妻には感謝の気持ちでいっぱいです。子どもが生まれた時、出産は本当に尊く大変なことで、そんなことを担ってもらっていることに心から感謝したんです。妊娠、出産の際はしてあげられることがあまりなかったので、子どもが生まれてからはがんばらないと、と思いました。
社内表彰をされる日の朝、机の上に妻から「おめでとう」とメッセージが置いてあったんです。そういえば、正社員になった日も、すごく喜んでくれましたね。
普通とはちょっと違うキャリアを歩んできた私ですが、妻は何も言わずにいてくれました。「子どももいるのに、今後の生活はどうするの?」と詰め寄ってくることはありませんでした。妻は日々の細かなことには小言も多いんですが、人生のピンチには優しいんです。見守ってくれるからこそ、余計にがんばらなくてはと思えたんだと思います。
正社員になってはや1年と10か月。怒涛の日々を経て、ようやく家族で楽しんでいけるフェーズに入ってきたのを実感しつつあります。だからこそ、妻への恩返しをもっとしていきたいですね。
子育てのつらさは一人で抱え込まないで
佐々木さん:育児と仕事の板挟みでつらい思いを抱えているかたも少なくないと思います。子育てで悩んでいる時は、本当に暗闇の中にいるような気分になります。よく「その状況を楽しんで」といったアドバイスもあるかと思いますが、大変さの真っただ中にいる時って、そうもいかないですよね。
だからこそ、一人で抱え込みすぎず相談できる人や場を持っていただきたいなと思います。それって、リアルな関係性の人じゃなくてもいいんです。SNSなどを探せば、同じ経験を乗り越えた先輩や、似たような状況に置かれた人がいるはず。私も子どものアレルギーに悩んでいた時、SNSやYouTubeの発信を見て学んだり、心が軽くなったりしました。コメントをしてみてもいいし、それも難しければ勝手に共感して同士だと勇気付けられるだけでもいいのではないでしょうか。
最後に一つ。子どもの成長って本当に早いので、動画を撮っておくことをおすすめします!うちもよく妻と「1日だけでいいから、赤ちゃんのころの子どもが戻ってこないかな」なんて話していますが(笑)、そんな時動画は役に立ちますよ。
まとめ & 実践 TIPS
「真面目に、噓をつかずに生きたほうが人生は楽しい、と思っています」と取材終わりに締めくくった佐々木さん。人生は何が起こるかわからないもの。だからこそ、その時に置かれた状況を前向きに受け入れ、真摯にプラス1%の努力を続けることが道を切り開くのかもしれません。佐々木さんの歩みそのものが「真面目に生きたほうが人生は楽しい」との自らの言葉を体現しているようですね。
※この記事は、ベネッセ教育情報とYahoo!ニュースの共同連携企画です。
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