きょうだい差別をしてしまう…その心理と子どもの人格への影響は?専門家に聞いた

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”きょうだい差別”の影響は?

「上の子の時にはうまくいったのに、下の子ではうまくいかずに叱ってばかり……」「下の子だとかわいいけれど、上の子が甘えてくるとイライラする……」など、同じように育てていても、きょうだいでお子さまへの接し方や感情に差が出てしまうことに悩んでいるおうちのかたも多いのではないでしょうか。アメリカやイギリス、オランダで心理学を学び、子育て心理学が専門の佐藤めぐみ先生に、なぜきょうだい格差・差別が生まれてしまうのか、お話を伺いました。

この記事のポイント

きょうだい格差・差別とは。なぜ起こるのか

佐藤先生:上の子だけ、下の子だけ、中間子だけという差別が生まれてしまうのは、同じ親から生まれた子どもであっても、「同じではないから」です。たとえば、兄と妹であれば、「性別の違い」。5歳と2歳であれば、「発達段階の違い」。他にも、持って生まれた個性が違うので、その個性の違いによる、「子どもの育てやすさ、育てにさの違い」があります。また、親も一人の人間なので、自分の好みに合う・合わないという「相性」もあると思います。

発達段階の違いによるきょうだい格差は、たとえば上の子が5歳、下の子が2歳の場合、2歳の下の子がイヤイヤ期で手に負えない状態で、それに比べると上の5歳の子は話がわかるので、上の子が好き、といった場合などがあります。そういった場合は、数年経って、次は上の子が第二次反抗期に入り、下の子が小学校低学年のかわいい時期となり、立場が逆転するということもあります。そういったケースのきょうだい格差は、一過性のものであることが多いです。

きょうだい差別をしてしまう保護者の心理とは

佐藤先生:きょうだい格差・差別を持続的に引き起こしてしまう親の心理はいくつかありますが、その子の気質がきっかけになっていることはとても多いように思います。

子どもは一人ひとり違う「気質」、言い換えると「その子らしさ」を持って生まれてきています。気質とは、たとえば、「活発さ」や「粘り強さ」など、心理学的には9つに分類されます。

これらは、当然ながらきょうだいの間でも違いますし、親子間でも違うものですが、なんらかのきっかけで拒否反応のような感覚が出てしまい、それが差別へと発展してしまうのです。親と子の気質が似ている場合は、理解しやすい部分も多いですが、全く違う場合は、親がどれだけ子どもの気質を理解し、許容できるかということが大切になってきます。私が相談を受けるケースでは、親が子どもの気質に気付けていない、または無理やり子どもの気質を変えようとして、親子関係がうまくいかないという場合も多く見られます。

保護者のかたの完璧主義がきょうだい差別をもたらしていることも

佐藤先生:また、親が完璧主義者で理想が高すぎてしまう場合や、親の許容範囲が極端に狭い場合も、子どもとの関係がなかなかうまくいきません。完璧主義の人は、自分は「こうだ」という基準が”高く”かつ”狭い”のが特徴的で、自分の想定から外れることに敏感に反応しがちです。もしその”高く狭い基準”に、上の子はフィットしたけれど、下の子はフィットしていないとしたら、「下の子は受け入れられない」となってしまうのです。

上の子も下の子も、それぞれの気質があることを理解し、許容できる範囲を広げていこうとする意識づけはとても大切です。きょうだいであっても、気質が違えば、スタート地点が違う迷路のようなものです。いいとか悪いとか、高いとか低いとかではなく、それぞれをゴールに導くためのルートが違うと考えるとわかりやすいかもしれません。その子に合った育て方、関わり方はそれぞれ違うものなので、自分の枠がそことかち合っていないかを振り返り、もしそうであれば、完璧主義思考からの脱却に目を向けられると、状況が少しずつ改善してくると思います。

きょうだい格差・差別の子どもへの影響は甚大

佐藤先生:親にされる態度、たとえば「相手にされない」、「自分ばかりひどい言葉を言われる」など、きょうだいで差をつけられる状況に子どもが置かれた場合、たとえ親にどんな背景があろうとも、受け手の子どもは傷ついてしまいます。

小さいうちは、「寂しい」「悲しい」という感情が大きくなりますが、成長に伴い、自分の存在を否定する気持ちが出てきて、「どうせ僕なんて」「私なんて生まれてこなければよかった」といった言葉も生まれやすくなります。自己肯定感が著しく低下してしまっている状態と言えます。

また親のその子への関わり方は、そのままその子が将来にわたって人間関係を築く時のテンプレート(型)にも影響します。そうすると、やはり他の人を大事にできなくなったり、何かがあった時に仲間外れをしてしまったりという行動につながりやすくなります。

生まれ順による不満の特徴とは?

きょうだい差別を受けた子どもは、心が傷ついていくだけではありません。置かれた現状にさまざまな不満も覚えるようになります。きょうだいの中の生まれ順によって、不満を感じる点に違いがあることも多いので、その傾向をここで見ていきたいと思います。

上の子が抱えやすい不満

きょうだいがいると、どうしても下の子に手がかかってしまうもの。特に下の子の年齢が低いほど、親は下の子にかかりきりになってしまいがちです。上の子は「お姉ちゃんでしょ」「お兄ちゃんらしくして」と我慢を強いられることも少なくありません。

その結果、「弟(妹)ばかりずるい」と不満を感じ、なんとか親の気を引こうとして、わざとイタズラをしたり、困らせるようなことをしたり過度に甘えるといった「赤ちゃん返り」を見せることもあるでしょう。その様子を、「困らせることばかりでかわいくない」と感じるときょうだい差別に拍車がかかり、さらに子どもは、「弟(妹)ばかりずるい」と不満をつのらせていくことになります。

中間子や末っ子が抱えやすい不満

中間子は、きょうだいの中で自分がいちばん親から放っておかれているのではないかと不満に感じることが多いようです。いちばん上の子は第一子なのでひとりっ子時代を経験しますし、いちばん下の子は手がかかる分、目がいくようになります。中間子は、生まれたときから兄姉がおり、自分がいちばん下という時期が短いことも多いため、その立場を自由で楽と感じることもある一方で、寂しさも覚えがちです。

また、中間子はタイミングによって上の子扱いされたり、下の子扱いされたりするものです。都合よく扱われることに、不満がたまっていくこともあるようです。

末っ子は、親からもきょうだいからも甘やかされてかわいがられるもの。愛情を感じやすい立場ではあるものの「いつまでも子ども扱いしないでほしい」という不満もあるでしょう。また、洋服や持ち物などきょうだいのお古が回ってきやすいことから、「自分だけ新しいものを買ってもらえず損をしている」「上のきょうだいのほうが大切なのでは?」と感じることもあるようです。

きょうだい格差・差別を減らしたいと思ったら

保護者のかたが気を付けるべきこと

きょうだい差別を減らすために気を付けるべきこと 1.自分のメンテナンス 2.その子自身に目を向ける

佐藤先生:私の相談室でも、子どもへの愛情が偏ってしまっていることに悩んでいる親御さんのご相談はとても多いです。その経験から言えるのは、「今日から差別をしない!」と決心し、すぐに解決するほど簡単なことではないということです。しかし、意識をしていかないと変わるものも変わらないのも事実なので、今後目指していく方向性として、とくに意識していきたいポイントを2つお伝えします。

まず1つ目は自分のメンテナンスです。睡眠不足、体の疲れ、完璧主義思考…など、そのままになっているところも多いのではないでしょうか。思考の部分は自分でテコ入れするにはハードルが高いと思いますが、体調面のケアはできるところもあると思います。自分の状態を良くしていくことで、同じ物が違って見えてくることは非常によくあるので、きょうだい差別対処の一歩目は自分のケアです。基本的に、だれも好き好んできょうだいを差別しているわけではありません。だからしんどくて苦しいのです。改善のスタートに立つための力をまずは意識的に取り戻していきましょう。

2つ目は「その子自身に目を向ける」ことです。当たり前のようで、実は難しく、つい私たちは比較をしてしまいます。でもそれが差別のきっかけになるので、「この子はこういう子なんだよね」とそれぞれを受け入れていくことを意識していきましょう。また、差別している子の方とのスキンシップが減ってしまうのは、よく見られる現象なので、努めて”触れる”ことを心がけてみてください。結果的にその子自身に目を向けることにつながっていきます。

悩んだら誰かに話してみる

きょうだい格差・差別の要因は1つではないこともあります。子どもとの相性や気質の許容に加えて、たとえば親自身の幼少期と我が子とを比較して、「私はこんなわがままは許されなかった」と腹立たしく感じたり、自分の嫌いな部分と子どもが似ていたりする場合も、「この子は受け付けられない」と感じてしまいがちです。

要因が複雑だと思われる場合、自分がなぜ子どもを差別してしまっているのかが紐解ければ、それが改善のきっかけになることも多いもの。1人で考え出すと、「私はダメだ」と思考が負のスパイラルにはまってしまいがちですが、第三者に話すと少し冷静さを保ちやすく、新たな視点をもらえるので、「誰かに話す、相談する」ことをおすすめします。カウンセラーなど専門家であればより的確に導いてくれると思いますが、信頼できる友達や家族でもいいと思います。

一人で抱えているだけでは、なかなか解決しがたい問題ですので、誰かに話すことで、解決のきっかけを見いだせるかもしれませんし、自分の頭の中の整理にもなり、原因がはっきりするかもしれません。

きょうだい格差・差別から心理的虐待に発展させないために

佐藤先生:きょうだい格差・差別は、きょうだいだけの問題ではありません。人間ですので、差をつけてしまいたくなる気持ちは理解できますが、エスカレートすると、「心理的虐待」につながることもあります。子育ては見えない線がいっぱいあり、その線引きがとても難しいものです。

ニュースなどで出てくる虐待の事件も、最初からあれほど痛々しいことをしていなかったはずです。どこかみんな同じようなことからスタートして、ある時それがエスカレートしていってしまい、心理的虐待から身体的虐待につながっていってしまったのではないでしょうか。

きょうだいを差別してしまう気持ちは、なかなか他の人には打ち明けづらいものですが、自分から気付くとで、虐待に発展せずに踏みとどまれることもありますので、誰かに助けを求める、話してみることをぜひおすすめします。

まとめ & 実践 TIPS

保護者のかたが子どもの気質に気付き、それを許容していくことで、きょうだいそれぞれの「その子らしさ」を引き出し、伸び伸びと子どもが育つようです。きょうだいでもそれぞれが違うことを理解すれば、「同じやり方で育ててもうまくいかないのは当たり前」と思え、子どもの見方が変わり、きょうだい差別も起きにくくなるのではないでしょうか。

プロフィール


佐藤めぐみ

公認心理師|オンライン育児相談室・ポジカフェを運営。専門は0~10歳のお子さまをもつご家庭向けの行動改善プログラム、育児ストレスのカウンセリング。英・レスター大学大学院修士号取得。書籍、メディアへの寄稿や監修も多数。

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