大人が答えを持たないで聴くと子どもは自分で考える[やる気を引き出すコーチング]

「うちの親とは話したくない」と言う高校3年生のAさん。そろそろ進路を決定しなくてはいけないのに、どうしても相談する気持ちになれないそうです。
理由をたずねると、「『相談しよう!お前はどうしたい?』と言われて、自分の意見を言っても、結局親の意見を言われて終わり!聴いてもらえないので相談しても無駄!」とのことでした。

親御さんも良かれと思って、アドバイスをされていると思うのですが、「親の意見」が、お子さんのやる気を引き出していないことのほうが多いように感じます。

■こちらが答えを持たないで聴く効果

以前、オランダの教育現場を視察した時のことです。午前中、日本の大学生と一緒に、小学校を視察した後、オランダ最大の教員養成大学にうかがいました。そこで、大学の理事長が私たちにこう問いかけられました。
「皆さん、午前中に視察された小学校で何か気づかれたことはありましたか?」。日本の学生の数名が、自分が感じたことを発言しました。これに対して、理事長は、「そうでしたか、そんな気づきがあったのですね。私たちの学生も、今年、日本を訪問しますが、皆さんのように何か新しい気づきを得てくれると嬉しいです」とおっしゃって立ち去られました。

「他にも、こんなことにも気づいてほしかったです」といった発言は一切なく、ただ、学生に意見を求め、受けとめられただけでした。理事長側には何の落としどころもなく、自分の「答え」などまったく持たない質問でした。このような先生の対応を、オランダではよく目にします。

最初からこちら側に意図があって、相手に気づいてほしいと思っていることを気づかせるような質問をあえてすることがないでしょうか。それを繰り返すうちに、質問された側は、自分の考えよりも相手の意図に沿う答えを探ろうとするようになってしまい、結局、本音や新たな発想を引き出せない状況を作り出してしまいます。
オランダの先生たちが、自分の答えを持たないで質問することによって、子どもたちは、大人の顔色をうかがわず、自分の考えを自分の言葉で発言できるようになっていくのだと感じます。

■答えを持たないで「時間」を与える

これは、お子さんには大学進学してほしいと思っていたSさんの事例です。
お子さん自身は、やりたいことがわからないので、受験はしたくないと思っていました。

「大学には行かない」とお子さんが言います。これに対して、Sさんは、
「そうか。じゃあ、高校卒業したら何したい?」といったん受けとめ、質問しました。
「うーん・・・」と、お子さんはうなったままで明確な答えは出てきません。
Sさんは、「今すぐやりたいことがわからないんだったら、大学に行って考えたほうがいい」と自分の意見を言うわけでも、「ちゃんと考えないとダメでしょう」と叱るわけでもなく答えを待ちました。とはいえ、すぐに答えが返ってくるわけではありません。
「高校卒業して何をしたいか、思いついたら、教えてくれる?」と言って、その場では、答えを求めませんでした。数週間後、お子さんから「やっぱり、大学に行くことにしたよ」と言ってきたそうです。

相談にのると言いながら、つい、自分の意見を言ってしまうのは、「こちらに答えがある」からではないでしょうか。「答えは相手の中にある」と思えたら、自分の意見を脇に置いて相手の話を聴けます。「自分の答えのほうが正しい。相手が間違っている」と思ってしまうと、もう相手の話は聴けなくなってしまいます。
もちろん、人生経験が浅い分「まだまだ甘いな」と、親としては感じてしまうこともあるでしょう。その気持ちも脇に置いて、子どもの想いや考えをいったん受けとめることで、子どもも自ら考えることができるのです。
子どもが自分で考える時間を与えてあげることは、子どもへの大いなるプレゼントと言っても良いのではないでしょうか。

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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