やりたいことを自由に選ぶ子どもは自分勝手にならないの?[やる気を引き出すコーチング]

オランダの教育現場を視察に行く時、いつも私が大変お世話になっている視察コーディネーターの仲本かなさんが一時帰国され、そのタイミングで開催された講演会に参加してきました。
「子どもが自分で考え、行動し、主体的に学ぶ」コーチングがベースにある教育がオランダでは行われています。言葉かけにコーチング手法が採り入れられているというレベルに留まらず、コーチングの考え方や仕組みそのものが現場に根付いていることを、私も視察で感じてきました。子どもたちがやりたいことを自分で選んで学ぶ時間が多いので、学習意欲も高く、幸福度も高いと言われています。

ところが、こういう話を日本ですると、「自分勝手でわがままな子どもに育ちませんか?」というご質問が出ます。実際はどうなのでしょう?今回の講演会では、この疑問が私にはかなり解消されました。

■コーチング+ルール:自由放任というわけではない

仲本さんのお話を一部ご紹介しましょう。
「オランダの学校は休み時間が頻繁にありませんので、授業中でも、自分の判断で、トイレに行きたいなと思った時に行けます。しかし、ルールもあります。
先生が話している時は行けません。そして、トイレに行く時は、教室に置いてある首飾り(紙で作ったもの)を一人一つずつかけて行きます。首飾りは、男の子用が1つ、女の子用が1つ、合計2つしかありません。自分が行きたいなと思っても、誰かが首飾りをかけてトイレに行っている間は行けません。先生が話している時も席を立てませんから、様子をみて少し待つ必要があることもあります。完全に自分の欲求のままに行動するのではなく、自分の欲求と環境に合わせて考えて行動することを学習していきます。
やりたいことを子どもは自分で選んで学べますが、何でもいいわけではありません。選択肢があり、それを選べる人数制限があります。自分がやりたいと思った課題を、他の子どもがすでに選んでいたら、自分はできないことがあります。その場合は、考え直したり、相談したりして折り合いをつけます。こうして、自分がやりたいこととできることの調和をとっていきます」

なるほど!「何もかもが自由」というわけではなく、一定の枠組みの中で自分で選択する工夫がなされているわけです。

■ツールを使った自己表現

今回、仲本さんから、お土産にサイコロをもらいました。オランダの小学生はこれを一人1個ずつ持っていて日常的に使っています。3㎤ほどの小さな積み木のようなものです。
一斉授業をあまりしないオランダでは、各自が自由に課題に取り組む時間が多いのですが、このサイコロはそんな時間に活躍します。

「サイコロの赤の面を上にして、子どもが机の上に置いている時は、『今、集中したいので邪魔しないで』というサインです。先生も他の子も話しかけず、そっとしておきます。緑の面を上にして置いている時は、『自分の課題は終わったよ。話しかけてもいいよ』というサイン。「?」マークの面は、『わからないことがあります』のサイン。この面を出している子どもには先生が声をかけに行きます。自分のことだけを考えて自己主張するのではなく、周りの状況も考え自分の意思を表現するツールです」
言葉以外のツールを用いて伝え合う方法がおもしろいなと感じました。

ただ言われた通りにする、言われなければ考えないのではなく、常に「自分は今、どんな状況なのか?どうしたいのか?」を考える機会を、オランダでは4歳児から与えられています。自ずと考える力と主体性が鍛えられます。ルールによって、「やりたいことができない場合もある」という環境を作り、単に「ルールだからダメ」と一方的に言うのではなく、どうするのかを自分で考えて表現するためのツールがあることは参考になりました。
日本の学校、ご家庭でも、何か採り入れられそうなヒントがあるのではないでしょうか。

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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