「働き盛り」と「子育て盛り」は同時にやってくる
まもなく10年のイクメンプロジェクトとは
女性の働き方がますます変化するなか、男性が家事や育児をもっと担うことができれば、女性の活躍の場もさらに広がるはず……。
男性の育児休業取得率アップを狙いに始まった政府の「イクメンプロジェクト」が来年で10年を迎えます。イクメンという言葉がすっかり定着した現在、男性も子育てしやすい社会はどこまで実現したのでしょうか。制度やプロジェクトについて厚生労働省の担当者に聞きました。
働くパパの希望と現実を近づけるために
厚生労働省の2017年度調査では、約3割の男性が「育児休業を取得したい」と希望している一方で、実際の取得率は5.14%となかなか進んでいません。6歳未満の子どもを持つ夫の家事・育児関連時間は2016年年で1日あたり1時間23分。これはスウェーデンの3時間21分、アメリカの3時間10分など、他の先進国よりもかなり低い水準にとどまっています。
今後、労働人口が減少していくなか、こうした状況を打開し、女性も含めてより多くの人が働き続けられる社会を作るには、男性が家事・育児を積極的に担うことが求められます。
そのため政府が2010年に立ち上げたのが「イクメンプロジェクト」です。政府の目標は2020年までに男性の育児休業取得率を13%に引き上げることですが、冒頭で紹介したように、2017年度の男性の育児休業取得率は低い状況が続いています。
「イクメン」という言葉が定着し、パパ・ママタレントが活躍するようになって久しいのに、現実の数字はまだまだ厳しいものがあるようです。
そもそも育児休業とは?
そもそも「育児休業」とはどのような制度でしょうか。「女性が取るもの」とか「子育て中に会社を長期で休んでも給料がもらえるシステム」のように誤解している人が少なくない気がします。
育児休業は原則として、子どもが1歳になるまでの間に男女従業員が取得できる「育児・介護休業法」で定められた休業制度です。男性なら出産予定日から育児休業を取ることが可能で、妻が専業主婦であっても取得することができます。ちなみに出産をした女性は産後8週間が「産後休業」となり、その後に育児休業を続けて取ることができます。子どもが1歳以降、保育園に入れないなどの場合は最長2歳まで延長できます。
育児休業を取るには開始の1か月前までに勤め先に書面にて申し出をすることが必要です。会社に制度がなくても一定の要件を満たした場合は取得することができ、会社がこれを拒むことはできません。育児休業を申し出たことや取得したことを理由に解雇することなどや不利益な取り扱いを行うことも禁じられています。
育児休業中に給与が支払われる制度がある会社は少なく、多くが「無給」の休業となります。その場合に支給されるのが「育児休業給付金」で、これは雇用保険からの給付となり会社から支払われるものではありません。1か月ごとの給付額は育休開始時から180日目までは賃金の67%、それ以降は賃金の50%と決まっています。育休中は健康保険や厚生年金保険といった社会保険料は免除されます。
分割や延長の制度も
育児休業は原則的には1人の子どもにつき1回と定められていますが、条件を満たせば分割して取得したり、延長したりすることもできます。
いわゆる「パパ休暇」は妻の出産後8週間以内に、夫が育休を取得した場合、子どもが1歳になるまで再度育休を取れる仕組みです。産後の心身共に大変な妻のサポートをし、いったん職場に復帰。子どもが1歳に近づいたら再び育休を取り、妻の職場復帰の準備もサポートすることができます。
「パパ・ママ育休プラス」は両親ともに育休を取得する場合、子どもが1歳2か月になるまで延長できる仕組み(ただし、育児休業が取得できる期間は出生日以後の産前・産後休業期間を含めた1年間)。これも妻の職場復帰前後をサポートするために作られました。男性も女性も「働き盛り」と「子育て盛り」を両立できるよう、条件をクリアしていれば柔軟に育休も取れるように変わってきているのです。
男性が育休を取得する場合、取るタイミングや期間は妻の職場復帰までのプロセスや、家庭や会社の状況をトータルに考える必要があります。厚労省は「父親の仕事と育児両立読本~ワーク・ライフ・バランス ガイド~」を作成し、チャート式で育休取得の6つのパターンを提案しています。これをみると育休といってもさまざまなスタイルがあって驚かされます。
このように制度が柔軟になってきているにも関わらず、男性の育休取得者の8割が1か月未満の取得にとどまっています。大手フリマアプリの社長と男性幹部が約2か月の育休を取ったことがニュースになるのも育休を取りにくい要因が残っていることの表れでしょう。
「けがで会社を休む、その他のプライベートな事情で会社を長期で休むことは誰にでも、どの職場にもありうることです。育休も同じように考え取得する人がいることを織り込んだマネジメントが求められます」と厚生労働省職業生活両立課の担当者は話します。もちろん職場だけでなく、パパ・ママを取り巻く周囲の人たちの理解が、男性の育休取得率アップを支えることも大切です。
※厚労省 イクメンプロジェクト
https://ikumen-project.mhlw.go.jp/
厚労省 「父親の仕事と育児両立読本~ワーク・ライフ・バランス ガイド~」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/09.html