育児休業給付金の条件、そして気になる支給額はいくら?
育児休暇中は給与が支給されないため、収入について不安になるかたは多いでしょう。実は国民の育児を経済的に支援するために、国が様々な制度を定めていることをご存じでしょうか。
そのなかでも、厚生労働省が推進している、育児休暇中にお金が支給される育児休業給付金は覚えておきたいところです。うまく活用すれば、育児休暇中の収入面の不安を解消できるかもしれません。ここでは、育児休暇中の収入に不安を抱えるかたに向けて、育児休業給付金の申請方法や支給額、条件などについてわかりやすくご紹介します。
育児休暇と育児休業給付金の条件とは?
そもそも、育児休暇の定義について詳しくご存じないかたもいるのではないでしょうか。まずは、育児休業給付金の概要を確認しましょう。
・育児休暇とは?
育児休暇は、正式名称を「育児休業」といいます。1歳未満の子どもを育てる保護者(男女問わず)は、会社に育児休業を申請することで、1歳になるまでのうち希望の期間を育児のために休むことができます(※1)。
期間の定めなく雇用されているかたには、育児休業を取得する権限があります。また、期間の定めがある雇用形態で雇われている場合でも、次の条件を満たすと育児休業を取得できます。
a同じ企業に1年以上継続して雇用されている
b子どもが1歳になってからも引き続き雇用される見込みがある
c子どもが2歳の誕生日を迎える2日前までに、労働契約期間が満了している
d労働契約が更新されないことが明確ではない
次に該当するかたは育児休業を取得できません。
a雇用期間が1年未満
b現在から1年以内に雇用関係がなくなる
c週の所定労働日数が2日以下
dその日ごとに労働契約を結んでいる(日雇い)
なお、育児休業中は報酬が支払われないケースがほとんどです。そのため、育児休業中の収入に不安を抱えるかたが少なくありません。そこで育児休業給付金について、しっかり確認しておきましょう。
・育児休業給付金とは?
育児休業給付金は、雇用保険に加入しているかたが育児休業中に受給できるお金です。「育休手当」と呼ばれているものと同じものと考えてよいでしょう。収入面への不安が和らぎ、育児に集中できるようになることや、保護者のうちいずれかが育児と仕事を両立しやすくなるなど、さまざまなメリットがあります。
育児休業給付金を受け取るには?いくらもらえるの?
育児休業給付金の支給には、いくつかの条件が定められています。また、給付金額には上限と下限が定められているため、あらかじめ計算しておくことをおすすめします。
・受け取れる条件
育児休業給付金は、次の条件を満たした場合に支給されます(※2)。
a休業開始前の2年前間、賃金支払基礎日数が11日以上の月が12か月以上ある
b賃金の8割以上の金額が各支給単位期間において支払われていない
c育児休業中の労働時間が各支給単位期間で10日以内(10日を超える場合は労働時間が80時間以内)
d休業終了日が含まれる支給単位期間については、労働時間が10日以内(10日を超える場合は労働時間が80時間以内)であることに加え、休業日が1日以上ある
各支給単位期間は、1か月ごとに定められた期間のことを指します。たとえば、2月4日に育児休業を開始した場合、3月3日までで1単位期間となります。
・支給期間
母親の場合は、産後休業期間(出産日の翌日から8週間)の次の日からが育児休業開始日となり、育児休業給付金の支給対象期間となります。そして父親の場合は、後述の「パパママ育休プラス制度」を利用すれば、原則子どもの1歳の誕生日の前日から1歳2か月までが支給対象となります。母親のみが育児休業を取得する場合よりも、2か月分延長して取得することができます(※3)。
また、原則として支給期間は子どもの1歳の誕生日の前日までですが、「保育所などにおける保育の実施が行われない」などのやむを得ない事情で育児休業を延長する場合、育児休業給付金の支給対象期間も1歳6か月目の前日、もしくは最長で2歳の誕生日の前日まで延長できることが決定しています(※4)。
・計算方法
育児休業給付金の支給額は、休業開始までに支払われていた賃金を元にして計算します。ここで注意したいのは、休業開始日を起点として180日間までと、181日目以降では支給額が変わってくることです。休業開始から180日間は賃金の67%が支給額です。181日目からの支給額は、賃金の50%となります。(※5)
たとえば、月給20万円のかたが5月1日から育児休業を開始した場合、10月27日までは20万円の67%にあたる134,000円が各支給単位期間の支給額となります。そして、10月28日から子どもが1歳までは100,000円が各支給単位期間の支給額となるのです。
ただし「パパ・ママ育休プラス制度」を利用して父親・母親が180日間ずつ育児休業を取得する場合、計算方法が変わります。父親・母親それぞれの賃金の67%を、各180日間分取得できます。
・上限下限金額
育児休業給付金には、上限額と下限額が定められています。2018年8月現在上限は、支給単位期間1か月につき301,299円、下限額は49,848円(180日目まで。181日目以降は各224,850円、37,200円)です。
・受け取れない場合の条件
育児休業給付金は、雇用保険から支払われるものであるため、雇用保険の被保険者でなければ支給されません。そして、注意しておきたいのが、育児休業給付金の支給期間中に賃金の支払いを受けている場合です。
育児休業給付金の支給期間中に受け取った賃金が、休業開始時の賃金日額に支給日数をかけた金額の13%以上の場合には、支給額が少なくなります。また、80%以上の場合には、育児休業給付金は支給されません。
・退職した場合は対象となるのか
育児休業給付金は、育児休業が終われば職場復帰することを前提にしています。そのため、育児休業に入る段階で退職を予定している場合は、育児休業給付金は受給できません。支給申請して受給資格を得たあとに退職することになった場合は、退職日が含まれる支給単位期間ではなく、その1つ前の支給単位期間までが対象期間となります。ただし、支給単位期間の末日で退職した場合は、その支給単位期間も対象期間に含まれます(※6)。
育児休業給付金の申請方法と手続きの流れ
育児休業給付金を受け取るためには、まず受給資格確認手続が必要です。こちらは、対象者を雇用している事業主が原則として行います。その後、育児休業給付金の支給申請手続も行います。支給申請手続は2か月に1回行う必要があります。それぞれの必要書類や申請方法などについて、詳しくご紹介します。
・必要書類
雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書・育児休業給付受給資格確認票・育児休業給付金支給申請書を提出します(※7)。
受給資格確認手続と初回の支給申請は同時に行えます。受給資格確認のみ行う場合は、母子手帳や出勤簿など、提出書類の内容を証明できる書類が必要です。
受給資格確認と初回の支給申請を同時に行う場合は、それに加え、初回の育児休業給付金支給申請書の内容を証明できる出勤簿や賃金台帳などの書類が必要となります。
・申請方法
通常では事業主が申請しますが、やむを得ない事情がある場合においては希望すれば本人でも申請可能です。申請先は、事業所がある地域を管轄するハローワークです。なお、電子申請による支給申請も認められています。
・申請期限
雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書と育児休業給付受給資格確認票は、初回の支給申請を行う日までに申請が必要です。初回の支給申請も同時に行う場合は、育児休業が始まって4か月後の日が含まれる月の末日までです。
2回目以降の育児休業給付金支給の申請期限は、公共職業安定所長が指定する期限までに申請が必要です。ハローワークから交付される「育児休業給付次回支給申請日指定通知書」に記載されています。
・受給方法と初回支給日
育児休業給付受給資格確認票と初回提出の育児休業給付金支給申請書に付属している払渡希望金融機関指定届に記載した被保険者本人の口座へと振り込まれます。支給決定から振り込みまでの期間は約1週間です。
・2人目以降の育児休業給付金
1人目の育児休業中に2人目を妊娠した場合、2人目の産休が開始する前日に1人目の育児休業が終了することになります。そのため、1人目の育児休業給付金は、2人目の産休開始の前日までが対象です。なお、2人目以降も受給資格を満たせば育児休業給付金が支給されます。ちなみに双子など多胎児出産の場合でも、育児休業給付金は給与の代わりに給付されるものなので金額は1人の時と変わりません。
・受給中の社会保険料や課税
育児休業給付金は課税されないことになっています。また、育児休業給付金の受給中は、被保険者と事業主にかかる社会保険料が免除されます(※8)。
育児休業給付金の延長とは?また延長できる条件とは?
育児休業給付金の支給対象期間は、一定の条件を満たすことで延長できます。支給対象期間の延長の条件をご紹介します。
・支給対象期間の延長の条件
育児休業給付金の支給対象期間の延長には、1歳6か月までと2歳までがあります。次のいずれかの条件を満たした場合に、支給対象期間を延長できます。
a無認可保育施設を除く保育所などに申し込みをしているが、1歳(2歳まで延長の場合は1歳6か月)を過ぎてからもしばらくは保育を受けられない場合
b育児休業給付金に係る子どもを養育する予定の人が死亡した場合
cけがや病気、精神上の障害などによって養育が困難になった場合
d離婚などによって子でもと同居しなくなった場合
eこれから6週間以内に出産予定日がある、または出産から8週間が経過していない場合
・パパ・ママ育休プラス制度
パパ・ママ育休プラス制度とは、両親ともに育児休業を取得している場合、条件を満たせば1歳2か月まで支給対象期間を延長できる制度です。次のすべての条件を満たす必要があります。
a育児休業を取得しようとしている本人の配偶者が、子どもの1歳の誕生日の前日よりも前に育児休業を取得している。
B本人の育児休業開始予定日が子どもの1歳の誕生日よりも前である。
C本人の育児休業開始予定日が配偶者の育児休業開始日よりも後である。
なお、ここでいう配偶者には、事実上の婚姻関係と同様の関係にある者が含まれます。
育児休業給付金をうまく利用して、育児への不安や負担を減らそう
育児休業給付金は、育児中の収入を支えてくれる保護者の強い味方です。申請方法や申請期限、延長の条件などを理解し、育児休業中にうまく役立てましょう。育児休業給付金は、法律で認められている制度です。まわりに知らないかたがいたら、ぜひ教えてあげてくださいね。
(※1)厚生労働省リーフレット『子育てをしながら働き続けたい. あなたも取れる! 産休&育休』:
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/31.pdf
(※2)ハローワークインターネットサービス『育児休業給付について』:
https://www.hellowork.go.jp/insurance/insurance_continue.html#g2
(※3)厚生労働省雇用均等・児童家庭局/都道府県労働局(雇用均等室)『育児休業給付金が引き上げられました!!』:
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/pdf/ikuji_h26_6.pdf
(※4)厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク『平成29年10月より育児休業給付金の支給期間が2歳まで延長されます』:
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000169691.pdf
(※5)厚生労働省リーフレット『育児休業給付案内リーフレット_260401』:
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000042797.pdf
(※6)厚生労働省『Q&A~育児休業給付~』:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158500.html
(※7)厚生労働省『育児休業給付の内容及び支給申請手続について』:
https://www.hellowork.go.jp/dbps_data/_material_/localhost/doc/ikujikyugyou.pdf
(※8)国税庁『No.1191 配偶者控除』:
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1191_qa.htm