子どもたちが将来なりたい職業は?
子どもに幸せな将来をおくってほしいというのは、保護者の切なる願いでしょう。しかし、子どもが自分自身の将来をどのように考えているのかについて、改まって子どもと話をする機会は少ないかもしれません。
そこで今回は、東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所が実施した「子どもの生活と学びに関する親子調査2015」の結果のうち、子どものなりたい職業の有無やなりたい職業ランキングなどを見ながら、子どもが自分の将来を描くうえで、保護者が出来る支援について考えてみましょう。
「将来なりたい職業」がある小中高校生は4~6割台
【図1】は、「将来なりたい職業(やりたい仕事)」が「ある」と回答した子どもの比率を、学年別に示したものです。「ある」の比率は、小学5年生が69.3%と最も高く、その後は学年を経るにつれて下がり、中学3年生が44.4%と最も低くなっています。高校生になると、再び、比率は増え始め、高校3年生では57.6%となります。
また、これを性別に示した【図2】を見ると、すべての学校段階で、女子のほうが男子に比べて、「ある」の比率が15ポイント前後高いことがわかります。ただし、男女ともに、中学生が最も低い比率であることは共通しています。
中学生の時期に、「ある」の比率が低いのはなぜでしょう。この結果を見て、中学生は将来への意識が低いと考えるのは早計だと思います。詳細は後述しますが、「この1年くらいの間に、『自分の進路(将来)について深く考える』という経験をしたか」という質問に対して、「した」と回答した子どもの比率は、小学生よりも中学生のほうが高いのです。視野が広がり、社会についての知識も増えるなかで、自分の将来を現実的に考え始めたからこそ、なりたい職業を決めきれない姿だと読み取れます。
「将来なりたい職業が見つからない」「小学生のときは、なりたい職業があったけれど、今はない」というような言葉がお子さんから聞かれた場合、その心のうちに目を向け、迷いに寄り添うなど、お子さんに合った働きかけが出来るとよいでしょう。
「スポーツ選手」「ケーキ屋」になりたい小学生、「先生」になりたい中学生
次に、子どもたちがなりたい職業について見てみましょう。【表1】、【表2】は、「将来なりたい職業」が「ある」と回答した子どもに、一番なりたい職業(やりたい仕事)を具体的に書いてもらい、ランキングにしたものです。
まず、【表1】の小学4〜6年生のランキングを見ると、男子は「サッカー選手」、「野球選手」、女子は「ケーキ屋・パティシエ」「保育士・幼稚園の先生」が上位となっています。異なる調査のため単純比較はできませんが、2009年に、ベネッセ教育総合研究所が実施した「第2回子ども生活実態基本調査」においても、男子、女子ともに1位、2位は同じ職業が占めており、これらの職業は不動の人気となっています。3位以下も2009年調査と比べると、男子は「タレント・芸能人」「バスケット選手」「調理師・コック」「会社員」がランク外になり、「学校の先生」「建築家」「警察官」「電車(運転士・車掌など)」がランクインしています。女子は「理容師・美容師」「ペットショップ」がランク外になり、「動物の訓練士・飼育員」「薬剤師」がランクインしています。
次に、【表2】の中学生のランキングを見ると、男子は「学校の先生」が1位です。続く「サッカー選手」「医師」「研究者・大学教員」は、小学生の上位と同じ職業です。女子は「保育士・幼稚園の先生」が1位で、「看護師」「学校の先生」「医師」「薬剤師」など、教師や医療系の仕事が上位を占めました。2009年との比較では、男子は「野球選手」(1位)や「タレント・芸能人」(3位)が、女子は「タレント・芸能人」(2位)や「ケーキ屋・パティシエ」(3位)が上位から脱落しています。男女ともに、比較的安定した職業を希望する傾向が強まっていると言えそうです。
将来について考えるきっかけづくりを
では、子どもたちは、日ごろ、自分の将来についてどれくらい考えているのでしょうか。
【図3】は、「この1年くらいの間に、『親から仕事の楽しさや大変さを聞く』という経験をしたか」という質問に対し、「した」と回答した子どもの比率ですが、小学4年生から高校3年生まで、3〜4割程度と、比率に大きな差は見られません。
一方、【図4】の、「この1年くらいの間に、『自分の進路(将来)について深く考える』いう経験」を「した」子どもは、小学4年生から高校3年生まで、学年が上がるにつれて比率が高まっており、特に中学3年生(61.5%)と高校3年生(82.4%)という進路選択の時期は、将来について深く考える時期であることが見てとれます。
また、これらの経験が、将来なりたい職業を持つうえで有効に作用することもわかりました。【図5】を見ると、「自分の進路(将来)について深く考える」経験をした子どもは、経験しなかった子どもに比べて、将来なりたい職業が「ある」の比率が、どの学校段階でも20ポイント以上高い結果となりました。「親から仕事の楽しさや大変さを聞く」経験についても同様の結果でした(経験した子どものほうが8〜10ポイント高い。図は省略)。
将来の目標を持つことは、子どもの日々の学習意欲の源にもなるものです。早い時期から自分の将来について考える習慣を付けることで、中学3年生や高校3年生などの受験勉強や進路選択にもプラスになるでしょう。
また、子どもが将来について考えるきっかけをつくることは、子どもが将来展望を描くうえで、大きな手助けになると思います。ぜひ日常的に、保護者のほうが自分の仕事の話をしたり、外出先で出会った人やテレビ番組などを題材にして、さまざまな職業があることを伝えたりしてみてはいかがでしょうか。
<調査データ>
東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所共同研究
「子どもの生活と学びに関する親子調査2015」(2015年7~8月実施)
http://berd.benesse.jp/shotouchutou/research/detail1.php?id=4848