子どもがさらに前進する言葉と伸び止まる言葉[やる気を引き出すコーチング]

「コーチングでは、できていないことを注意するのではなく、できていることや良いところをどんどん認めていくんですよね。そういうのを『承認』って言うんでしたよね。承認したほうが、子どももやる気になれるんだろうなとは思いますが、『自分はもうこれでいいんだ』と満足してしまって、それ以上はがんばらなくなるということはないですか?」
折々に、このようなご質問をいただきます。皆さんはどう思われますか?

成長が実感できる承認

学習塾で講師をしているAさんから、非常に興味深いお話を聴きましたので、ご紹介します。

「テストの成績が良かった子どもには、『やっぱり優秀だね』とか『君はもともと数学のセンスがあると思ってたよ』といった言葉で承認していました。
もちろん、悪い気はしないようで、嬉しそうにはしていたんですけど、『もともとできる力を持っているよね』という言い方をしてしまうと、だんだんチャレンジしなくなっていく子がいるんです。
『もうこれでいい』と思ってしまうのか、優秀だと言われたので、『失敗して評価を下げたくない』と思うのか、これ以上高い目標を目指そうとしなくなるのを感じるんです。

そこで、最近は、『前回見直したところが今回は全部できていたね』とか『力を入れていた数学が特に伸びたよ』と成長したことを伝えるようにしているんです。
そうすると、もっとがんばろうとする意欲が見えるようになってきました。『自分の力は自分の取り組みによって伸ばすことができるんだ』と思うからでしょうか。単に、承認すればよいわけではないんだなと思いましたよ」

このお話は、私もたいへん参考になりました。「もともと優秀なんだよ」という言葉は、決して悪くはないと思います。私もよく使います。相手に、「自分は力を持っているんだ」というプラスの自己暗示を与えることは非常に効果的だと思っています。

ところが、それだけでは、前進を止めてしまう場合もあるのです。「さらに自分を高めたい」という意欲を引き出す上で、成長実感が持てることは非常に重要です。また、「自分の取り組みしだいで自分はこれからも成長できる」という自己成長への期待感が持てることも大切な要素です。

「過程」を尊重する承認

Aさんはこうもおっしゃっています。
「成長したことを承認するようになって気がついたことがあるんです。それまでは、テストの点数や順位など結果に焦点をあてて承認していたんだなと。『よくできたね』とか『過去最高だったよ』とか。それだと、結果を出せなかった時に、たちまち承認できなくなります。
そこで、結果がどうであっても、結果に至る過程を意識的に承認するようにしてみました。『集中して取り組んでいたね』、『最後まであきらめないでがんばっていたね』と。良い結果を出せた子は、『がんばってやってきたことでうまくいったんだ!また、がんばろう!』と思いますし、結果が悪かった子も、『見ていてくれたんだ。次はもっとがんばろう!』と思うようです。『もうこれでいいんだ』という子は少なくなってきたように思います」

大人だって、そうかもしれません。良い結果を目指して取り組んだのに、思い通りの結果を出せなかった時、「どんなにがんばっても、結果がこれでは意味がないね」などと言われたら、もう一度挑戦する気持ちが萎えてしまいます。良い結果が出せた時も、結果だけほめられると、「たまたまかも」と思ってみたり、「まあこんなもんだ」となったりしがちです。「過程」を尊重する承認は、意識して使ってみる価値が大いにあるようです。

子どもの前進をさらに促すか、そこで止めてしまうのか、ちょっとした言葉の使い方に気をつけていきたいものです。

(筆者:石川尚子)

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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