引っ込み思案な子どもの「チャレンジ精神」を育むには[やる気を引き出すコーチング]

これは、子育て真っ最中のコーチ仲間Yさんのお話です。
「先日、幼稚園にお迎えに行ったら、先生にこう言われました。今、パラバルーンという大きな円形の布をみんなで持って動かす競技を練習しているけれど、その練習の輪に、うちの娘がまだ一回も入れなくて見ているだけなのだと」
さて、こんな時、お子さんにはどう対応しますか?

決めつけず、様子をみる

つい、「どうして、うちの子だけ?」と問題視しがちですが、コーチングのプロYさんの対応はこうでした。

「こういう時、基本的に、我が家では、『なんでできないの?』とか、『みんなとできるようにがんばろうね』とか、『イヤなの?』などとは聞きません。先生から様子を聞いただけで、娘のことを決めつけるような関わり方はしないようにしています。

なので、帰宅してからも、特に、その点には触れずに過ごしました。ところが、その週の金曜日にこんなことがあったんです。夜、娘とお風呂から出てタオルで身体をふいていると、娘が『ばしゃばしゃばしゃ』とタオルを振っていたんです。あれ?初めての動きだな!と思いながら、『どうしたの?』と聞いてみました。娘は、ただ、『ばしゃばしゃばしゃ』と言って、タオルを振っています。『もしかして、パラバルーン?』と聞くと、『そうそう!』と言うのです。

そこから、パラバルーンごっこが始まりました。娘と二人で、タオルを持って、『ばしゃばしゃばしゃ』、『うえ~!した~!きらきらきら、進め~!』のかけ声に合わせ しゃがんだり手を上げたり、それが、日曜日の夜まで続きました。『なんだ!パラバルーン、すごくやりたかったんじゃないか!』。その様子を月曜日に幼稚園の先生に伝えておいたところ、その日に初めて、みんなの輪の中に入って、競技ができたそうです」

さすが!Yさん。「がんばろうね」、「みんなと一緒にやってね」などの言葉を一言も使うことなく、お子さんのチャレンジを促しました。

安心して失敗できる場を作る

この出来事を通して、Yさんはこう言っています。
「人は安心している場所では、チャレンジできるし、安心感ある場所での練習は力になるんです。心から安心している人、場所でたくさん練習していくと、経験したことのハードルがぐっと下がります。うちの娘は、まだ安心しきれていない幼稚園で、やってみたいけどできなかったことを、思う存分『家族』という安心した存在の中でやってみたことで、幼稚園に行っても、チャレンジできました」

できないことを責めたり、無理に激励したりするのではなく、安心してチャレンジできる場を作ってあげることが、子どもの背中を押すのです。

評価しない、人と比べない

これは、小さなお子さんに限らず、中高生でも同じだと私は感じます。他の生徒がいる前では、自分の考えをはっきり話さない子どもでも、1対1の個別コーチングでは、びっくりするぐらいハキハキと自分の気持ちや考えを話せたりします。こうして、自分のことを自分の言葉で話す経験を積んでいくと、「みんなの前でも話してみようかな」という反応が見られるようになります。

評価されたり、人と比べられたりしないことは、安心感を生み出します。「うまくやらないと叱られる」とか「うまくやらないと恥ずかしい」といった委縮する気持ちがあると、なかなかチャレンジできません。誰とも比べられない安心感のある場所で、自分の思うようにやってみることは、子どものチャレンジ精神を育む上で大切なのです。

最後に、Yさんから、子育て中の方々に向けたメッセージです。
「他の子と比べたり、『なんでできないの?』と思うのをいったん置いておいて、『私の前でこの子は安心できているかな?』と心を配ってみてくださいね」
Yさん、貴重な事例をありがとうございました。

(筆者:石川尚子)

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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