子どもの思考力とやる気を高める日常の対話[やる気を引き出すコーチング]

このところ、立て続けに、同じようなお問い合わせがあり、驚いたことがあります。
「娘が中学の自由研究テーマとして、オランダの教育に興味を持ち始めました。近々、オランダの教育について講演会をされるご予定はないでしょうか。娘を連れてうかがいたいと思います」。

コーチングをベースにしたユニークな教育方法を実践しているオランダ教育について、私が折々に発信していることで、ご連絡をいただいたようですが、小中学生がいきなり、オランダ教育に興味を持つとは、正直、考えにくいです。いったい、どういう経緯があったのか、お問い合わせいただいた一人のお母さんにうかがってみました。

ニュースの内容を親子で話題にする

中学2年生の娘さんを持つお母さんはとても興味深い話をしてくださいました。
「いつだったか、なんとなく、子どもとテレビを見ていて、『全国学力テストが実施されます』というニュースが流れたんです。うちの子は受ける予定はなかったのですが、『ああいうテストって受けてみたいと思う?』と質問してみたんです。そうしたら、こんな会話になって…

『う~ん、テストは嫌いかな。だいたい学校でもテストがあるのに、なんでまた別にテストをやる必要があるわけ?』
『うん、なんでだろうね?』
『まあ、あれでしょ? 全国の子どもの学力を大人が知りたいってことでしょ? それで、テストが増えるなんてめんどくさくない?』
『そう思うんだね。じゃあ、○○ちゃんは、全国学力テストはなくてもいいと思う?』
『私はなくてもいいと思うけど…。テストって、本当は先生が教えたことをどれだけ生徒が理解できたかってことを知るためにやるもんだと思う。結果を見て、みんなができていないところはもっとちゃんと教えようとか、先生も考えてくれたらいいのに、できていないと先生から責められるみたいな感じになってるのが好きじゃない』
『なるほどね! おもしろい意見だね。じゃあ、テストはもっとどうなったらいいのかな?』
『よけいに勉強に対するテンションが下がるから、テストとかやめた方がいい。やるなら、もっとやる気がわくような形でやったらいいと思う』
『へぇ! そういえば、オランダの小学校ではテストがないって聴いたけど』
『え? マジ? いいな~。本当にないの? 中学校も?』
『よくわからないけど、まず、入試がないらしいよ』
『え~! いいなぁ! オランダ行ってみたい! で、なんで、そんな話知ってるの?』
『この前、石川さんっていう人の勉強会で勉強してきた』
『いいな~! 私、そういう勉強ならしてみたい! あ、自由研究はそれにしようかな~』

答えを出すことよりも話し合うことに意義がある

一つのニュースから、お子さんの興味を引き出していく対話に感動しました。このご家庭では、自然とコーチングを実践されているんですね。「今、世の中で何が起きているのか。それについて自分はどう思うのか」を親子で話し合うことで、自然と思考力も育まれるでしょう。新たな興味を引き出し、自発的な学習を促進するかもしれません。日常の何ということもないコミュニケーションの中にも、そんなヒントがあるのだなぁと、今回のお話で実感しました。

オランダでは、算数の授業でも、正解を導き出すことにはあまり重きを置いていないように感じられます。日本だと、九九を暗記させたり、筆算のやり方を教えたりしますが、「これはどうやって解いたらいいかな? どんな方法があるのか一緒に考えてみよう!」というアプローチをします。

やり方を覚えて正解を出すことよりも、自分で考えてみる過程を大切にしています。社会に出たら、答えが一つではないことばかりです。まず、自分で考える、探究する、誰かと話し合う中で、思考力ややる気はいっそう高まっていくのではないかと思います。折々に、ご家庭で、そんな時間を持たれてみてはいかがでしょうか。

(筆者:石川尚子)

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

子育て・教育Q&A