幼児期のうそ、どれは許して、どれは叱るべき?【前編】
子どもが望ましくないうそをついたときは、その場でしっかりと言い聞かせる必要があります。しかし、ただ「うそはダメ」と禁止するだけでは、子どもはどうして本当のことを言うべきなのかという本質は理解できません。子どもがうそをついたときは、どう対応するのがベターなのでしょうか。法政大学文学部心理学科の渡辺弥生教授が解説します。
うそをつけるのは、賢くなったことの証
子どもは4歳くらいになると、いけないことだとわかりつつ、うそをつくようになります。マイナスイメージが強いうそですが、そのこと自体は成長の現れのひとつに他なりません。
うそを言うためには、まず相手が何を考えているかを想像できなくてはなりません。さらに自分がうそを言うことで相手の考えがどう変化するかを見通す力が必要です。「ママは怒った顔をしているな。ここで本当のことを言ったら叱られるだろう。こう言えば、きっと怒りがおさまるはずだ」などと必死に考えを巡らせているのです。しかし、まだまだ未熟ですから、ただ怒られたくないために反射的に否定してしまうことも多いのですが…。
そのように頭を働かせられるのは、裏を返すと、相手の気持ちを想像して思いやりのある言葉をかけたり、行動をとったりすることにもつながります。お母さんが疲れている姿を見て、「ママ、大丈夫?」「がんばってね」などと、いたわりの言葉をかけられるようになるのも、相手の考えや気持ちを想像するようになるからです。とはいっても、幼児期のうそや思いやりはまだまだ自分本意で、「ほめられたい」といった思いから生じやすく、相手の気持ちを正しく想像するところまではいきません。それでも、いろいろな思いや考えを巡らせて、相手のことを考えられるようになったという成長の証ですので、「わが子も賢くなったな」と誇らしく思ってください。
うそにはいろいろな種類がある。それぞれ対応を変えよう
とはいえ、社会のルールとして、望ましくないうそは言わないように教えていく必要があります。それでは、子どもがうそをついたとき、保護者としてどう対応するのがベターでしょうか。まずひと口にうそといっても、いろいろな性質のものがあることを意識してください。それぞれ適切な対応は異なります。
【ケース1】
食べてはいけないと言われていたチョコレートを食べ、口にべったりとチョコレートをつけながら「食べていないよ」と言い張る。これは叱られないために、言い換えると自分の利益のために相手を欺こうとするうそです。基本的には禁止する必要があります。
【ケース2】
保護者が見ていないところで弟がいたずらをした。「誰がやったの!」と問い詰める保護者に対し、弟をかばおうとして「自分がやった」とうそをつく。これは思いやりの気持ちによるうそであり、英語では“white lie(罪のないうそ)”と呼ばれます。心理学の実験では、こうした行動は3歳ごろから見られることがわかっています。うそではありますが、望ましい行動ですから叱るべきではありません。
【ケース3】
遊んでいるとき、右手にドングリを握っているのに、「こっちの手に入っているよ」と左手を差し出す。これは遊びとしてのうそです。相手をだますことで遊びをおもしろくするという目的ですから叱るべきではないでしょう。
うそを禁止するだけではなく、なぜダメかという理由を説明する
一般にうそというと、【ケース1】を思い浮かべることが多いでしょう。自分の利益のために相手を欺くようなうそは望ましくありませんから、その場で言い聞かせる必要があります。ただし、この場合はうそを叱るよりも前に、幼児は誘惑に弱いことを理解してあげるべきでしょう。大好きなチョコレートを前にして食べちゃいけないという状況は少々酷です。「うそはダメ!」「謝りなさい!」と、クドクドと叱るより前に、こうした状況をつくってしまった保護者自身が反省する必要があります。そしてこの場面では、うそを叱るより、「なぜ食べてはいけないか」を理解させることが本質と心得てください。
例えば、「チョコレートを食べていない」とうそをついた子どもに対し、「お口にベッタリとチョコレートがついているよ。本当のことを言おうね。お母さんはね、寝る前にチョコレートを食べると虫歯になるから食べちゃダメと言ったんだよ」と何を伝えたかったかをまず話します。そのうえで、「本当のことを言わないと、本当のことを言ったときにもうそをついたと思ってしまうよ」などと、子どもが理解できるようにわかりやすく伝えましょう。「うそはダメ」だけで終わってしまうと、なぜうそをついてはいけないのか、また、なぜチョコレートを食べてはいけないのかがよくわかりません。悪くすると、次はもっとバレないように行動しようという気持ちになる可能性もあります。
後編では、引き続き、うそをついたときの対応について解説します。