「解決志向の質問」で子どもが伸びる

私の母は、他のお母さんたちとちょっと違うなって思うことがよくありました」……。そう話すAさんは、昨年大学を卒業して、第一志望の会社に入社したばかりの新人です。Aさんは、あらゆる点で、新人離れしています。どんな時も、ほがらかで、意欲的です。コミュニケーション力が高く、周囲を動機付けます。会社のことを広い視野で考え、提案もどんどんしていきます。上司、先輩からの信頼も厚く、誰ももう新人とは思っていないほどの存在感です。
時々、一緒に仕事をする機会があるのですが、いつも、彼女の仕事ぶりや人柄には、大いに感心させられます。先日、そんなAさんのお母さんの話を聴かせてもらい、とても感動しましたので、この場でも、ご紹介したくなりました。

■建設的でない質問

「母は、きつく叱りもしなければ、大げさにほめもしないって感じの人で、いつも、淡々と質問してくるんです。たとえば、宿題のプリントを学校に忘れて帰ってきたとしても、『どうしてちゃんと持って帰らなかったの?』とは言わないんです。『そう。じゃ、どうする?』って聞いてくるんです。『学校に取りに行きたいんだけど……』って言うと、『うん、それで?』って。『もう遅いから、一緒に行って』って言うと、初めて、『わかった。じゃ、行こう』って、助けてくれるんです。おかげで、自分で考えて、自分で交渉してなんとかするっていう力は鍛えられました」 と、Aさんは話してくれました。

このような場面で、「今、それを質問しても何の解決にもつながらないですよね」というしょうもない質問をしてしまうことがよくあります。たとえば、
「どうして確認しなかったの?」
「なぜ、こんなことになったの?」
「前もそんなことなかった?」
「どうして、あなたはいつもそうなの?」
「何回言ったらわかるの?」
「どうして、いつも困らせるの?」
などの質問です。

ところが、Aさんのお母さんのコミュニケーションには、このような「建設的でない質問」が何ひとつありません。

■解決志向の質問

Aさんのお話は続きます。
「私が、『もう学校に行きたくない!』って泣いて帰ってきた時も、母は顔色ひとつ変えずに、『そう、何があったの?』って聞くんですよ。友達とケンカした話をしたら、『で、どうなればいいの?』とか『そうしたいのなら、あなたにできることは何?』って聞いてくるんですよ。まるで、石川先生がおっしゃっているコーチングですよね」

はい! 私もそう思います。そう! Aさんのお母さんの質問は、すべて解決志向の質問なんだ!と気付きました。解決志向の質問とは、「問題」ではなくて、「解決」に焦点を当てた質問のことです。解決に向かって、現状を確認し、解決につながる行動について、建設的に質問します。なるほど、このような対話を繰り返してもらえたら、Aさんのような逸材が育つんだ!と、深く納得したしだいです。

解決志向で考える習慣が身に付いている人は不毛に悩みません。変えられない過去を悔やんだり、起きてもいない未来を心配したり、他人や環境のせいにしたり、できない理由を探したりしません。子どものころから、解決志向でいられたら、自分のやる気も自分で引き出せるようになっていくでしょう。

●どうすればできるのかな?
●何があれば、うまくいきそう?
●どう伝えたら、わかってもらえるかな?
●今、自分にできることは何?
●他に方法があるとしたら何だろう?
●今、ここで使えるものは何だろう?
●一つだけやるとしたら何?
●次はどうすればうまくいくと思う?
●この体験を次にどう生かす?

(著者:石川尚子)

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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