恥ずかしがらずに、もっと親子でお金の話をしてみませんか?
恥ずかしがらずに、もっと親子でお金の話をしてみませんか?
近年、日本でも子どものうちからお金の教育をさせたいと考える保護者の方が、少しずつ増えてきています。では中高生のうちに知っておいたら、その後の人生が豊かになるようなお金の知識とは、どんなことでしょう? 「お金の教養」を身につけるための、日本で唯一の独立系金融スクールで執行役員を務め、また海外の富裕層向けプライベートバンクでのサービス経験も豊富な、渋谷豊さんにインタビューしました。 ※2016年12月現在(取材・文/長谷川美子)
英語やITのように、マネー教育が必須科目になる時代が来る!
近年、子どものマネー教育が話題に上ることが増えていますが、実際、中高生のうちになんらかのお金の教育は必要だと思いますか?
私は41歳になりましたが、私が九州で生まれ育った小さい頃は、「英語は使う人しか必要ないよ」「PCは理系の人しか使わないよ」と言われていました。でも今どき、英語をやらなくていいとか、PCを使う必要がないとか言われて育つ子どもは、だれもいないと思います。
さて、実は日本の教育は、約20年遅れてアメリカの後追いをしてきているという定説があります。そして今、聞くところによるとアメリカの高校では、ずいぶん前からお金に関する教育が年間15時間ぐらいあるそうです。そして幼稚園から大学生まで、お金に関する授業が、その発達段階に応じた内容で当たり前のように行われております。ですから、ますます欧米化が進んできている日本においても、近い将来必ず、金融教育が当たり前になる時代がやってくるでしょう。
日本はなぜお金に関する教育が、行われてこなかったのでしょうか。
日本は、会社に入社しそのまま同じ会社で社会人生活を終える人がとても多い国です。そして会社には初任給のモデルケースがあり、また、会社の四季報を読めば、平均賃金もわかります。給料も等級制ですし、先輩が退職したときに退職金いくらでしたかと聞けば、自分の退職金の予想までついてしまいます。つまり会社員でいる限り、お金に関してとくに勉強しなくても、生涯もらえるお金はだいたい予測できますし、自分で勉強しなくちゃ、という発想自体が起きにくい環境にあるのです。それよりその会社の中でどう認められるか、どう生き残るかという発想のほうがずっと重要になっている特殊な社会だと思います。
だけれどもそういうサラリーマンが、いざ途中で会社を辞めて自分の夢を追いかけたいと思ったとき、「あれ? お金って必要だな」と初めて気づきます。自分で会社をつくるのに資本金がいるとか、PCを自分で買うとこんなに高いのかとか…。そのとき初めて、お金の勉強の必要性を身をもって感じるのです。でもそう気づいたときにも、日本ではお金について学べる場の提供も少ないのが現状です。そういう意味で、お金の教育に関して日本は、とても遅れている国だと言えます。
でも最近はさすがに状況が変わりつつあります。日本では、企業に入って65歳まで守られている、という終身雇用の前提が崩れてしまいました。また、ロボットが人間の職を奪ったり、クラウドサービスが管理職の仕事を奪ったり、といった現状もすぐそこまで近づいています。そこでサラリーマンの間でも、「このままお金のことを会社任せにしていては大変なことになる」と気づき、自分で何かを学び始める人たちが、ようやく増えてきています。
このような環境になると当然、今の中学生が将来の仕事や就職先を選ぶ際にも、「大企業の○○に入っておけば安泰」というアドバイスは、もはや正しいとは言えないような気がします。というよりも間違ったアドバイスかもしれません。そのかわりに、どんな業界やどの企業にいても、自分で高い付加価値を生んで、お金を稼げるようにしておくように、とアドバイスすることが正しいのではないかと思います。こういう時代を生きるお子さんにとって、お金を理解することはまさに必修科目。現代社会を強く生きる力を得ることになると私は思います。
日本のおこづかい制度は、海外では珍しい制度だった!
お金に関する知識というと広いですが、中学生や高校生のうちに知っておきたいのは、どんなことでしょうか?
これまでの日本におけるお金の教育というと、おそらく「貯金しなさい」「無駄づかいしてはダメ」と言われるだけで、ためたお金をどのように管理するのか、どうやって有効にお金を使えばよいのか、お金そのものの価値はなんなのかなど、何も教えられていないことがほとんどのように思います。
だからと言って中学生のうちは、経済や為替などの専門的な知識は、まだ必要ないでしょう。まずはお金に関する、偏りのない、全般的な見方ができたら十分だと私は思います。
例えば一般的に信じられている、「たくさんお金を稼いだらたくさんお金がたまる」とか「お金がすべてを変えてくれる」という発想は、お金に対するほんの一面的なとらえ方にすぎません。本当は、「お金はたくさん稼いでも、使い方を知らないとどんどん出ていってしまう」ことや、「突然お金をたくさんもらうと金銭感覚が狂い、人生まで狂うことがある」という危険な側面があることも、中学生のうちに知っておくことが大事だと思うのです。
もし私が、中学生や高校生向けにお金の教育の授業をするとしたら、「お金」というひとくくりの教科にはしたくないですね。理科という教科も、「物理」「化学」「生物」などと分けていくと理解がしやすいように、お金の勉強も、「お金の考え方(物事の本質をつかむ思考をもつ)」「ためる(収入・支出の管理を習慣化する)」「使う(投資・消費・浪費を見分ける)」「稼ぐ(スキルアップを収入につなげる)」「増やす(お金に働いてもらう仕組みをつくる)」「維持管理する(つくり上げた資産を保ち続ける)」「社会に還元する(お金や経験を社会に還元する)」というふうに分けて、体系立てて教えられたらわかりやすいと思います。なぜなら「ためる」と「使う」は全く別のスキルなのです。それぐらい別々に分けて学ぶべきことがあります。分けることで、大切な知識がもっと正しく世の中に広がるだろうなと思います。
保護者の中には、「おこづかいを一体いくらあげたらいいか」に関心をもっている方が多いようです。おこづかいを、効果的なマネー教育の機会にすることはできますか?
日本のおこづかいの習慣は、欧米にはない習慣のようです。とくにアメリカの家庭では、日本のように月に500円とか決まった額のおこづかいをあげる習慣はなく、交渉制です。
交渉制というのは、例えば子どもは何か買いたいとき、「この○○を買うからいくらください」と、一回一回親に交渉してOKをもらわないといけません。親にOKをもらえないときはお金をもらえませんから、子どもは「これを買うとどんないいことがあるのか」を考えて一生懸命説明します。これは、社会人が会社で上司に企画の予算を申請するときと全く同じやり方です。
つまりアメリカの子どもたちは、幼い頃から意味のないものを買わない習慣ができていることになります。日本と海外と、どっちのおこづかいのあげ方がいいかとは一概に言えません。双方の活用の仕方によって違う効果がありますのではないかと思います。
日本のおこづかい制の場合は、今月の500円を来月に繰り越して使うとか、全額使ってより高い効果を上げるとか、使い方に自主性や工夫が生まれる可能性はあります。でも使い方に親が介入できないので、お金の正しい使い方を学べず、我流で進んでいくリスクもあります。
一方アメリカのような交渉制であれば、「ここに使ってないノートがまだあるでしょ」とか、お金を無駄遣いさせない使い方を、親が子どもと話し合うチャンスがあります。一方で自由裁量がないとも言えます。
交渉制にするか、日本のおこづかい制にするか、子どもと話し合って決めることは、家庭でのお金の使い方の教育の取り組みとしておもしろいかもしれません。
ところで、私は以前、海外の富裕層を対象としたプライベートバンクという資産運用の仕事を担当していました。そのとき、富裕層とふつうの家庭では、お子さんのお金に対する経験が異なり、結果として強みが違うことを知りました。一般の家庭では、「お金をためなさい。いざというときに備えておきなさい」と言われて育ちます。だから決められたお金をためる方法に長けています。
一方、富裕層の子どもは、「お金の使い方を覚えなさい」と言われ育ちます。そして小さな頃から、お金を「何か価値のあるもののために使う」、という訓練をされていたのです。それは500円といったおこづかいの枠を超えて、1万円でも、もしそれが有益な使い方であれば、親に申請して使わせてもらえる経験をしているのです。
例えば、「小学校4年生になったのでお友達と離れ島でキャンプをやりたい。それは、高学年になれば受験勉強で友達と思いきり遊ぶ機会がなくなるので、今のうちにぜひ参加して思い出をつくりたいから。だから参加費として1万円ほしい」などと自分で、お金の有意義な使い方を考えて親にお願いします。そして親に有効な使い方だと認められれば、たとえおこづかいを超えた額でも、それを使う経験を積んでいました。それはさながら、ビジネスマンが、当初の予算枠を超えているけれど、会社にとって有益な事業計画を経営者に提案して、みごと予算を勝ち取るプロセスのようだと、私は感じました。
この例ほど高額でないとしても、子どもの頃から、お金をためるだけでなく、本当に自分にとって「有益なお金の使い方」を考えて、説得する訓練をさせる、というのも、将来役立つ経験となるのではないでしょうか。
保護者が経済に関心をもつと、子どものお金のセンスも磨かれやすい
リスクを嫌い、確実な「預貯金」しか、お金に関する経験のない保護者も多いと思います。親は手始めにどんなことをしたら、子どものお金の教育によい影響があると思いますか?
まずは親が預金の一部を株式に変えて、お金に働いてもらう仕組みづくりを実践したらいい、とか、そういう答えを期待されたかもしれませんが、私はそうは思いません。それ以前に、日本ではお金についてオープンに話し合う文化が定着していません。お金のことを、まずは親子で恥ずかしがらずに関心をもち、話せる雰囲気が必要だと思います。
そのためには、親自身が率先して、日本の経済ルールやお金のルールを知ってほしいと思っています。そういう経済のルールを知らずに、子どもにただ「お金をためなさい」「節約しなさい」と言っているのは、まるで親がサッカーのルールを知らずに、ドリブルしなさいと言っているようなもの。子どもにとっては、目的のない練習をさせられるのと同じです。
あらためて、今なぜ貯金をする必要があるのか、親自身も自分で理解することが、その第一歩ではないでしょうか。例えば、今は日本の人口が減っています。平均賃金も2000年以降いまだ下落傾向です。円安でインフレが起こるかもしれません。インフレのとき、お金の価値は減っていきます。では貯金という手段だけで果たしていいのか悪いのか? ……そういった経済の基本ルールを親が理解したうえで、あえて子どもに貯金の習慣をすすめることは、何も知らずに貯金を薦めるのとは意味が大きく違ってきます。「まずは貯金の習慣をつけなさい。どうしてかというと……」とその理由まで教えられることで、その知識は子どもに本当に役立つと思います。
ところで「経済のルール」というのは、日本は資本主義経済に属していますから、究極的には「需要と供給」の仕組みを深く知ることが必要です。お金をしっかり稼ごうと思ったら、人でもモノでもニーズの多いところに供給していく、これがポイントとなります。つまり、世の中が必要としているものを先読みすることが大事です。
そういう視点から、将来豊かになれる仕事を子どもと一緒に考える機会があるならば、今人気の職業が10年後はもう存在しないかも(10年後はニーズがないかも)しれないねと、現実的なことを話す必要もあるかもしれません。それを聞いて子どもはがっかりするかもしれませんが、「じゃあこれからの時代、どんな仕事やサービスが、世の中から必要とされていくだろう?」と親子で予測し合ってみれば、今は世の中にない新しい仕事やすばらしいサービスを思いつくかもしれません。そういった対話の中で、お子さんの時代を読むセンスやお金を「稼ぐ」という意識も磨かれ、お子さんの将来への視野や可能性も広がるのではないでしょうか。もちろん、「もうからなくても、絶対それになりたい!」という場合はその気持ちを尊重するのもいいと思いますよ。
また例えば、お子さんの好きな外国産のお菓子やチーズが値上がりしたとき、なぜ値上がりしたのかお子さんと話題にしてみるのも、円安や為替の影響を身近に考える、国際経済に触れるよいきっかけになります。
こんなふうに親が経済の知識をもち、日頃からお子さんとの話題にすることで、お子さんは自然に経済に関心をもち、お金に関する知性を高めていけると思いますよ。
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渋谷さんのお話、いかがでしたか? 今はお子さんでも読めるような、わかりやすい経済の入門書やお金の本が世の中にいろいろ出ています。今回は渋谷さんに、お子さまと保護者の方が一緒に読んで話すのに最適な、お金に関する入門書を紹介していただきました。
親子で読んで、お金について話し合う入門書として、渋谷さんのオススメの本↓
「『世界標準』のお金の教養講座」泉正人著(株式会社KADOKAWA)
ファイナンシャルアカデミー代表の泉正人さんが高校生向けに実際に行った授業をベースにした書籍。夢を実現するのを応援してくれる仲間やお金を得らえる「信用」のしくみや、賢い消費者になり、将来のビジネスにもつながる「価値を見極める力」、世の中のお金の流れを俯瞰できる「両面思考」。これらの3つを、世界で使える一生もののお金のスキルとして、イラスト付きでわかりやすく解説。
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