子どもの言葉を頭に”変換器”をもちながら受け止めてあげて

「子どもが目の前で笑ったり、泣いたりする奇跡をどうか当たり前だと思わないで」。その感動的な講演を聞きたいと、全国からの申し込みが殺到する助産師内田美智子さん。今回は思春期の子どもとのコミュニケーションの難しさをどうとらえていくとよいのか、伺いました。※2015年11月現在(取材・文/長谷川美子)

中学生の「うるせえ、ばばあ」は、3歳児の「ママ大好き」と同じ

思春期の子どもをもつ保護者の方への講演会で、よく聞く悩みは何ですか?

 「この前までかわいかったのに急に笑わなくなったんです」「急にしゃべらなくなりました」「うちの子、宇宙人になったみたい」。こう言って、中学生の子どもをもつお母さんたちがよく相談に来ますよ。

思春期の子どもは、たしかに親としゃべらなくなりがちです。それはもう思春期の反抗期で、成長過程で必ず通る道。むしろ親とべたべたするほうがおかしいのです。だからたとえ中学生の子どもから「授業参観来るな」とか「1メートル以内に近づくな」とか言われても、正常な成長過程だからよかったと思っていいんですよ。

それに親に向かってときどき暴言を吐くのも、暴言を吐いても許してもらえる、と安心しているからこそです。友達にそんなこと言ったら友達がいなくなるとわかっているけど、お母さんなら「あっち行け、くそばばあ」と言っても、あっちに行かないことがわかっている。だから安心して言っているんです。 

と、頭でわかっていても面と向かって暴言を吐かれると、やっぱりケンカになってしまいそうですが…。

私もうちの子どもが思春期のときはいろいろありましたよ。言葉を飲み込んだこともありますし、ひっぱたいたこともあります。(せっかく産んだのに)(おむつかえてやったのに)と思って腹が立ちました(笑)。

でも今、そういうお母さんたちには、「頭か心に変換器をもつといいのよ」といつも話しています。3歳児が「ママ大好き、こっち向いて」と言うのと、中学生の「うるせえ、くそばばあ」と言っているのは同じ意味。だから、(今「ママ大好き」って言われてる~)と、変換して聞けばいいんです。だって本当にそうだから。そして「いくらでも言ってもいいわよ。『うるせえ、くそばばあ』って言われても、ママには『ママ大好き』って言っていた3歳のあなたにしか見えないから。どうぞ」と言えば、子どもは言わなくなります。子どもだって、「暖簾に腕押し」なら、つまらないんです。

ちょっと問題な行動をするときはどう考えたらいいですか?

 中学生は「ママ大好き、こっち向いて」と言わないかわりに、ママに心配してもらえることをちょこちょこします。そして何にも気にしてもらえないと、寂しい。注意してもらって「うるせえ」って言ってみたいし、「授業参観来るな」って言ってみたいんです。

でもそんなサインも受け止めてもらえずほったらかされると、今度はお母さんが学校に呼び出されるようなことをわざわざしでかします。荒れている子は、しかられて構ってほしいんだなと思いますよ。

学校の先生にしかられるようなことをわざわざする子も、みんなそう。「ミニスカートにするな」って言われてもするのは、先生にそう言われたいから。それが現実だと思います。

 

親は子どもに遠慮してはいけない。そのかわり、親のやるべきこともしなくてはいけない

しゃべってくれない子どもに、保護者はどうコミュニケーションしていくのが、いいのでしょうか? 

 子どもはしゃべらなくても、一方通行だろうが、耳は聞こえていることがわかっているので、伝えたいことは伝えるといいと思います。本当に聞きたくないと思ったら、子どもは自分の部屋に行っちゃうと思いますけど。

腫れ物に触るように遠慮したり、わかったふりをしてしまうのはよくありません。だってそれは子どもに嫌われたくない、という気持ちのせいですよね。でも命がけで産んだ子ですから、命がけで育てる気で遠慮しないほうがいいと思います。子どもの機嫌とっちゃだめです。親として伝えたいことは伝える必要があります。

 だけど、親のほうも、親としてしないといけないことをしてないと、伝わらないです。親が自分のしなきゃいけないことをしないで、子どもにだけさせたいことを言っても、言うことを聞きません。

「忙しい」「明日も忙しい」「ごはんつくれないから弁当買ってきて食べて」「忙しいんだからしょうがないでしょ」と自分はやるべきことをできない理由で塗り固めて、子どもにだけ「ちゃんと勉強しているの?」「だれと付き合っているの?」と言っても、それはもう、「ふざけんな」と子どもに言われるだけです。子どもに言わないといけないことを伝えるべきですが、自分がしないといけないことは、しないといけません。

反抗期の子にも、親として言いたいことを遠慮してはダメ、ということですが、例えば「あの子と付き合ってはダメ」と一方的に言うと、親子の仲が悪くなるというか…、そういうこともありますよね。

 大事なのは、親と子は別の人間で、価値観が違うということを理解することです。親の価値基準を押し付けるのはいけません。「あの子と付き合ってはダメ」という基準は親の基準です。親から見たらよさがわからなくても、子どもから見たら大切な友達のこともあります。だから親の意見を言う前にまず、(なぜ、うちの子はその子が大事なのか?)を知ろうとする努力が必要だと思います。

例えば、「1回遊びに連れてきて、ごはんごちそうするから」などと言ってみるのもいいと思います。そしたら、(一見悪そうだけど、ちゃんと靴をそろえてあがっているじゃないの)、(挨拶もしているじゃないの)、とか、いいところに気づけるかもしれません。逆に、靴もそろえないし、親に挨拶もしないような子だったら、子どもに「ママが言ったとおり、挨拶もしないでしょ? どう思う?」と問いかけるといいと思います。それでももしかしたら、その子には他にいい面があるかもしれないし、子どもを助けてくれているのかもしれません。まずは子どもの気持ちをわかろうとすること、そのために子どもと話してみないと、わからないと思います。 

子どもに腹が立ってしょうがないとき、子どもが目の前で息をしていることの奇跡をちょっと思い出してください

子どもが大事な存在だとわかっているのに、顔を見るといつも怒ってしまう、という場合は、どうすればいいでしょう。

 思春期になると、そういうことはありますね。子どもに何かあったりすると別ですけれど…。私がお母さんたち向けにしている講演では、スライドショーで、お産のときのお母さんたちの感想やエピソードを見せます。死産をしたお母さんの話もします。

そうすると講演のあと、「何で昨日あんなにしかっちゃったんでしょうかね」と、お母さんたち一人ひとりが、自分の出産の頃のことを思い出すんです。

でもまあ、そのときは思い出すけれど、家に帰って子どもが宿題もしないでいると、また、キーッてなりますよね。なかなか「今日もよく息しているね~」とは思えませんし、0点取っているのに、「あなたがいてくれるだけでママはいいよ~」なんて思えないものです。

ただ、助産師として日々生死に直面している立場から伝えたいのは、自分の子どもが目の前で今、息をしていることは全然当たり前のことではない、ということです。本当にもう、これまでたくさんの奇跡が積み重なってのことなんです。

お母さんたちには、子どもが大きくなっても、「あなたがいてくれるだけで幸せ」、と思ったあの最初の気持ちを、ときどき思い出してもらえたらと思います。

プロフィール


内田美智子先生

1957年大分県竹田市生まれ。国立小倉病院附属看護助産学校助産師科卒。1988年より内田産婦人科医院に勤務。思春期保健相談士として思春期の子どもたちの悩みなどを聞く。九州思春期研究会事務局長、福岡県家庭教育アドバイザー。「生」「性」「いのち」「食」をテーマに講演活動を年に100回以上行っている。著書に『お母さんは命がけであなたを産みました』(青春出版社)、『ここ——食卓から始まる生教育』(内田美智子 佐藤剛史共著/西日本新聞社)他多数。

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