「どうせ無理」という言葉をなくそう!その2「可能性を広げる出会いのサポート」編

宇宙開発やTED×Sapporo講演で話題の植松努さん。「どうせ無理」という言葉を社会からなくし、「思うは招く」という言葉で夢をもつことの大切さを伝える植松さんに、子どもの夢と可能性を伸ばすヒケツを取材しました。今回はその2回目です。
※2015年8月現在(取材・文/長谷川美子)

「もし今の自分がちょっといやだなあと思うところがあって、変わりたいなあと思っているのであれば、人と出会えばいいんです。そして本を読めばいいんです。人と出会ったり本を読んだりしたら、昨日の自分と必ず違うからです。新しい知識が入った分、人生は変わるんです。」
植松努『NASAより宇宙に近い町工場 僕らのロケットが飛んだ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン/2009年)より引用

好きなことに関する情報は、あふれんばかりに与えるべし!

中学生のお子さんの夢や可能性を広げるために、保護者にできる応援は何だと思いますか?

子どもの好きなことに対しては、学校の成績に関係ないことでも、あふれんばかりに情報をあげることが大事だと思います。子どもが恐竜好きなら、ありとあらゆる恐竜の本を、電車が好きなら電車の、お菓子づくりが好きならお菓子づくりの知識と経験が広がるような情報を、たっぷりと与えてあげたらいいと思います。

今の子どもたちは、幼稚園ぐらいの頃に恐竜や駅名をたくさん言えたら、「すごいね」とほめられるのに、中学生だと「そんなの覚えて、何になるの?」「そんなことより勉強したら」と言われてしまいがちですよね。そのせいで学校のテストに出ないことを覚えたら損だとまで思うようになり、「好き」や「憧れ」を奪われているのではないでしょうか。

でも学校のテストに出なくたって、その子の好きなことに関する情報をあふれんばかりに与えてあげたらどうなるでしょうか? 憧れや好きなことへの力はすごいんです。それに関する知識なら、中学生でも、大学生や大人顔負けのレベルのことをどんどん吸収してしまうでしょう。それが将来、立派な職業や学問につながるかもしれないのです。

けれど今は、学校の成績に関係のないことを好きになるチャンスがほとんど与えられていません。まずは学校の勉強を頑張って、大学に合格してから好きなことをやりなさいと言われてしまいます。

でも多感な子ども時代に、自分の好きなことを我慢して、ひたすら順位や成績のために勉強を頑張った子どもは、大学の進路を考える時点で、すでに自分のやりたいことがわからなくなっているでしょう。そうして憧れや好きな気持ちと関係なく選んだ大学の研究や職業に、どうやって意欲を燃やせばいいのでしょうか?

ところで中学生になったら好きなことや将来のことについて、本人任せにする、というのはまだ早いですか?

 もし子どもが自分の好きなことや、将来の職業のことで真剣に悩んで相談しているのに、「もう中学生なんだからあなたの好きにしていいよ」と全て突き放してしまうと、子どもはとってもつらいはずです。ネットで調べられる情報は多くても、ほとんどの子どもは学校という社会の一部のことしかリアルには知らないのです。保護者が、子どもの好きなこと、興味分野に関係する情報をあふれんばかりに与えてあげることはとても大事です。情報といっても、そんなにいつもピンポイントに役立つ必要はありません。保護者自身のちょっとした人生経験でもいいんです。「母さんがあんたの年の頃、何になろうって考えていたかな~。何も考えていなかったかもしれない。それより好きな子がいて、告白しようかしまいか考えていたのよね……」とか、そういう話だけでも、その子にとっては十分に経験の情報が増えていくものなのです。なのに「あなたの好きにすればいい」だけだと、子どもの情報は全く増えませんよね。

人生はフライングしたほうがいい!?

子どもが何かやりたいと言いだしたとき、フライングしたほうが早く進めると、著書の中で書いておられますね。詳しく教えてください。

 人生はフライングしたほうが先に進めます。誰かに教わるのを待ったり、その専門の学校に入学する日を待ったりする必要はないんです。まず本を読んだり、それをする人と仲良くなったりすれば、自分で勉強できます。もしパティシエになりたかったら、今から自分で本を見てどんどんお菓子をつくったり、お菓子屋さんと仲良くなったりすればいいんです。将来美容師さんになりたかったら、今から美容院で働いている人と仲良くなればいいのです。いろんなことを勉強できるはずですから。そして保護者は、そんなお子さんのチャレンジをどうか邪魔せず、好きにさせてあげてほしいと思います。今から好きなことを自分で勉強し始めた人は、将来それを学校や職場で教えてもらうときには、すでにすごいことになっているでしょう。

夢をかなえるには、実際にそれに携わっている人に出会えるようなサポートも必要ですか?

 確かに夢は、すでにそれに携わっている人と仲良くなると、かないやすいです。例えば音楽が好きな子どもに、音楽家に会いに行くチャンスを与えるのはいいですね。コンサートの後、保護者が何かのつてをたどって、楽屋まで会いに行くとかね。人脈はそのためにあります。あるいは最前列で拍手していたら、もしかしたら目が合って何か話ができるかもしれません。会うならできれば一流の人と会うほうが励みや刺激になりますよね。

ぼくも偶然一流の人に会って、励まされた経験があります。ある日、小学生だったぼくと母とで札幌に買い物に行き、鳥の図鑑を買ってもらいました。それをおそば屋さんで読んでいたら、そこを通ったおじいちゃんが、「きみはそんな本を読むのか!!」と言って、とても驚きました。じつはそのおじいちゃんは、その本の作者で、博士だったのです。そして「これは小学生の読む本じゃない。この子はすごい」とぼくたちに言ってくれたのです。当時、今でいう「多動性」タイプだったぼくは、学校では特殊学校に入れなさいとまで言われていました。だから博士にそう言われたとき、母は少し安心したようです。ぼく自身もこの経験はいい励みになりました。

人との出会いと同じぐらい、本やアニメ、マンガとの出会いも、植松さん自身、大切に思っておられますか?

 ぼく自身、本や、アニメ、マンガなどから、子ども時代も今も、いろんな知識や憧れをもらい、励まされてきました。それらとの出会いも、お子さんの可能性を広げてくれると思います。マンガやアニメはつくりものだからくだらない、と言う大人もいますけれど、とんでもないです。日本はロボットの開発で、世界でも一流のレベルです。人助けをするロボットも生まれています。なぜ日本で優秀なロボットが発達したかというと、子ども時代に『鉄腕アトム』に憧れた人たちが今、頑張ってロボットをつくっているからなんです。

大事なのは、憧れです。憧れは、未来を呼び寄せるパワーだとぼくは思っています。そのためにもなるべく情報価値のある本やマンガ、アニメなどに触れるほうがいいとは思います。

とくに、実在の偉人のノンフィクションや伝記は、中学生におすすめです。かたっぱしから読んでほしいです。伝記に出てくる人は「どうせ無理」と言われても、決して諦めなかった人ばかりです。つらいときの乗り越え方が書いてあります。伝記は「だったらこうしたら?」というエピソードのオンパレードなんです。どんな壁にぶつかっても、一度は折れたように見えても、あるとき全然違う道からうまくいく方法が出てきたりします。そして伝記の最もすごいところは、亡くなった人とも、なかなか会えない人とも仲良くなれたり、助けてもらえたりすることです。そのことを子どもたちには体験してほしいです。もし、文章の伝記がいやだったら、マンガの伝記でもいいです。重要なのは文字を読むことではなくて、情報を得ること。情報を得られるなら、手段としてアニメもマンガもドラマも一緒です。

一緒に助け合ってすごいことができるのは、お互い欠けたところがあるから

夢をかなえるには、仲間と出会うことも大事だと植松さんは考えておられますね。

 ぼくがロケットの開発をできるようになったのは、北海道大学大学院の永田晴紀教授に出会えたからでした。当時のぼくはお金をかけずにものをつくることができるけれど、爆発する可能性のあるロケットエンジンは危ないからつくってはいけない、と諦めていました。一方永田教授は、爆発しない安全なロケットの設計ができましたが、つくるお金がないので諦めていました。ぼくらはお互いのないところを助け合うことでロケット開発ができたのです。こうした永田教授との出会いから、ぼくは、人は欠けているところがあるからこそ助け合える、というすごいことがわかりました。

ロケット開発を始めるまでのぼくは、一人で何でもやれるようになろうと努力していました。そういう努力をすればするほど、どんどん人を頼れなくなって孤独になっていったように思います。けれど、いざロケットをつくろうとしたら一人ではとてもできません。自分一人ではできないことをいろんな人にお願いするようになったんです。そこから今までになかった人間関係が生まれました。それを面倒くさいと思うこともありました。でもロケットを打ち上げるという責任の向こう側に、本当の仲間ができたんです。

だから子どもには、「人で何もかもできるように頑張りなさい」と励ますより、「大好きなことを大事にして、できないことはできる人に頼めばいいよ」、と教えることの方が大事だとぼくは思います。自分のやったことのないことを経験している人、自分の知らないことを知っている人がいれば、一緒に力を合わせてすごいことができます。そして大好きなことがあると、仲間はつくりやすいものです。一緒に責任をもって好きなことをなし遂げた先に、本当の仲間ができることを、子どもたちに教えてあげたいですね。そして本当の仲間は、それぞれみんな「違う」からこそ素敵なんだということも。

 今は、科学の進歩のおかげで、保護者世代の学生時代より、はるかにやりたいことが実現しやすくなっています。俳優になりたかったら、自分で映画をつくれる時代になりました。脚本が書ける友達、撮影が好きな友達、編集が好きな友達、メイクが好きな友達がいれば、自分たちで映画をつくってYouTubeで世界中に公開できる時代です。絵本をつくってみたいと思ったら、自分で電子出版できる時代です。もしデザインが得意な友達がいたら、もっといい絵本ができるでしょう。だからもしお子さんが「女優になりたい!」と言ったら、「そんなの無理」とは決して言わずに、「それいいわね~。仲間を探してやってみたら?」と言って、ぜひ可能性を広げてあげてください。

植松さん自作のペーパークラフト

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 植松努さんのお話、いかがでしたか? 本やマンガ、一流の人、違う知識や経験をもつ仲間…。お子さんの可能性を広げるための出会いの話がいろいろ出てきました。次回はこの話の続きで、「これからの時代に活躍できる人に子どもを育てるには?」という、ちょっとドキリとするお話です。

プロフィール

(株)植松電機 専務取締役 植松努さん

(株)植松電機 専務取締役 植松努さん

1966年北海道芦別生まれ。 子どもの頃から紙飛行機が好きで宇宙に憧れ、独学で飛行機やロケットを学び始める。北見工業大学で流体力学を専攻し、名古屋で航空機設計を手がける会社に入社。1994年に父が経営する(株)植松電機へ入社。1999年よりリサイクルに使う分別用マグネットを開発し全国シェア1位に。2004年、北海道大学大学院の永田晴紀教授とともにロケット開発もスタート。2006年、株式会社カムイスペースワークスを設立し、ロケットや人工衛星の研究開発で実績を重ねる。全国各地での講演やモデルロケット教室を通じて、人の可能性を奪う言葉である「どうせ無理」をなくし、夢を諦めないことの大切さを伝えている。2010年4月より北海道の赤平市にて「住宅に関わるコスト1/10、食に関わるコストを1/2、教育に関わるコスト0」の実験を行う「ARCプロジェクト」を開始。著書に『NASAより宇宙に近い町工場』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。

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