「どうせ無理」という言葉をなくそう!その1「夢って何?」編

従業員20人ほどの北海道の小さな町工場で、ロケットや人工衛星の開発に成功。また、TED出演動画の再生回数は、130万回超えの爆発的人気。「どうせ無理」という言葉を社会からなくし、夢を追い続ける大切さを伝えている植松努さんに、子どもの夢と可能性を伸ばす秘訣を取材しました。今回はその第1回目です。
※2015年8月現在(取材・文/長谷川美子)

夢って、今の成績で可能な範囲から選ばないといけないもの?

「どうせ無理」という言葉を世の中からなくしたい、と植松さんが思ったのは、中学時代の進路指導がきっかけだったそうですね。

ぼくは子どもの頃から飛行機やロケットが大好きで、独学で飛行機やロケットのことを大学レベルの内容まで夢中で勉強してきました。だから中学の進路相談で先生から「お前は将来どうするんだ?」と聞かれたとき、はりきって「飛行機、ロケットの仕事がしたいです」と答えました。ところが先生は、「飛行機やロケットの仕事をするためには東大に入らなければ無理だ」「このあたりで東大を出た人はいないから、ここに生まれた段階で無理だ」と決めつけました。そして「お前の頭では○○高校しか行けないだろう」と言ったのです。

たしかにぼくは学校の成績が悪かったけれど、好きなことの勉強をしていれば、将来きっとそれができると信じていました。でもその好きなことを勉強したせいで学校の勉強ができないし、進学校にも行けない。将来東大に行けなければ、もう好きな仕事ができないなんて……。とても衝撃を受けました。落ち込んで真っ暗な気持ちになりました。

 でもよく考えてみたら、その先生は、飛行機やロケットのことも知らないし、その仕事をやったことのない人です。やったこともない人が憶測で「どうせ無理だ」と言って、夢を諦めさせるのはおかしいと思いました。伝記で読んだライト兄弟は東大を出ていません。それに東大生が使っている教科書は、書店や図書館にふつうにありましたから。

結局ぼくは、東大に行かなくても、地元の工業大学を卒業後、名古屋で5年半、飛行機やロケットの仕事をしました。その後、地元で家業の手伝いからスタートして自分で会社を起こし、また飛行機やロケットの仕事にたどり着きました。今はあのときの先生の言っていたことは間違いだったとはっきりわかります。

今できる範囲から夢を選べ、おまえの成績から夢を選べ、と言われたら、子どもたちはいやになります。これから努力してももう無理なんだと自信を失くしてしまいます。逆に成績のすごくよい子は、やりたいことじゃなくても医大を受験させられたりすることもあるでしょう。

だから今の中高生は「夢はまだありません」「夢はこれから探します」「夢は大学に行ってから見つけます」と言うしかなくなっているのかもしれません。 

植松電機のみなさんと打ち上げに成功したロケット

将来の夢と仕事を、最初から一緒に考えると夢がわからなくなってしまう!?

植松さんは子どもの可能性を潰さないために、将来の夢と職業を、まずは分けて考えてみようと提案していますが、それはどういうことですか? 

 将来の夢=「ひとつの職業」と思ってしまうと、先ほど話したように、現在の成績だけで夢を選ばなくてはならなくなり、「どうせ無理……」と諦める子どもが増えてしまいます。だから、夢と仕事は分けて考えたらいいと思うんです。

うちの会社に見学にきたある高校生は、「イエス・ノーで答える進路発見チャートで『あなたは放射線療法士がいいです』」と出たのでそれをめざします」、と言っていました。これには本人がそれになりたい理由が一切ありません。単に職業名や資格名などを与えられたのでめざしているだけです。

学校とか親は子どもが何か資格を取ってくれると安心しますけど、現実の世の中は、せっかく取った資格を使えてない人もいます。そこにはなぜその資格を取りたいのか? なぜその職業を選んだのか? という本人の心からの夢、「好き」の気持ちがないからです。

だからもし子どもが「美容師さんになりたい」とか保護者に職業名を言ってきたら、「なぜ?」と聞くといいんです。すると答えに詰まる子も多いと思います。

でも例えば「美容院に行った後、少しきれいになって自信が湧いてくるから」などと子どもが答えたとします。すると「じゃあ、『人に自信を湧かせること』があなたの本当にやりたいことなのかもね」などと、保護者が本人のやりたい夢に気づかせてあげることができるでしょう。「やりたいこと=夢」です。その夢をかなえる道なら、美容師になるだけでなく、他にも道があります。「美容師になりたい」が夢だと、道は1本しかありませんが、「人に自信を湧かせること」が夢なら、道は無数に見えてきます。子どもの言った職業が「医者」だとしても「弁護士」だとしても、「芸術家」だとしても、なぜなりたいのか? そこを考えることで「本当にやりたいこと=夢」、が見つかる。その仕組みは同じです。

もしお子さまが将来のことで壁にぶつかって相談してきたら、「あなたの成績じゃ、ちょっと難しいかもね……」などと言う必要は全くありません。「じゃあ、それを実現するにはどうすればいいか考えようよ」とか「だったらこうしたら?」と別の道や方法を提案してあげるべきではないでしょうか。 

また、今の子どもたちは、親がいやな顔をしないような夢しか言わないそうです。進路を聞かれたら、とりあえず親の知っている職業名や学校名を口だけで適当に言っておこうとする子もいるそうです。もし親の知らない職業や学校名を言えば、たいへんなことになるとわかっているからでしょう。でもそれは子どもの将来を、親が知らず知らずに半強制してしまっていることになります。そうならないためには、日頃から将来の夢や進路について、子どもからどんなことを聞いても動じないこと。これが大事だと思います。 

夢はひとつじゃなくていい、仕事もひとつじゃなくていい、中途半端でも、やらないよりずっとすばらしい!

植松さんのおっしゃる、夢や仕事はひとつじゃなくていい、中途半端でもいい、という意味を詳しく教えてください。

 「夢」は大好きなこと、やってみたいことです。「仕事」は人の役に立つことです。二つは違います。でも「やりたいことを夢中で追いかけていたら、いつのまにか仕事になった」というふうに二つが一緒になったら幸せですね。

ぼくがそのことに気づいたのは、仕事で一緒になったアメリカ人に自己紹介したときです。ぼくが「本が好きです」と言ったら、みんなわくわくした目でぼくを見て、「どんな本を書いているの?」と聞きました。当時のぼくは本を書いていないかったから困ってしまいました。すると「お金で買えることはサービスをしてもらっているだけのお客さんだよ、自分でやってみることが本当の趣味だよ」「本が好きなら本を書いてみなよ。そしたらそれが仕事になるかもしれない」と、そのアメリカ人に言われました。

考えてみたら、アメリカの人口は日本のたったの2.5倍。それなのに野球の球団の数は270ほど。バスケやフットボールのチーム数も、日本に比べて凄まじく多く、アメリカ人の趣味をとことんやる人口の圧倒的な多さに驚きます。そしてそのスポーツ好きな人の中から、新しい道具やマシーンが次々生まれて、それがビジネスにつながっています。マウンテンバイクも、スノーボードも、たった一人の手づくりの趣味が広まって、オリンピック種目になったのです。

こうして、アメリカ人の「お金を払ってやる夢は単なる消費。自分でやればビジネスにつながる」というすてきな発想に、はっとさせられたぼくですが、考えてみたら自分も飛行機やロケット以外にもたくさんの夢を仕事に変えていました。

ぼくは小さい頃から恐竜が好きだったのですが、恐竜の骨格の構造は、パワーショベルを軽量化するとき役に立ちました。またマンガも大好きでした。Gペンや丸ペンを使ってマンガを描いていた経験が、自社製品の説明書を作るとき役立ちました。日本の工業製品の説明書はたいてい文字ばかりですが、ぼくは絵をたくさん入れたいと思い、自分で描いてコストを下げられたんです。それだけではありません。小学生の頃潜水艦が好きだったのですが、海の環境をよくするための潜水艇をつくれないかという依頼がきて、今度その夢がかないそうです。また子どものころ禁止されていた反動で、大人になってからプラモデルに夢中になり、プラモデル教室を開くことになりました。そしてついに北海道大学の工学部で、プラモデルやペーパークラフトを使って授業をするようにもなってしまいました。

「大好きなこと、やりたいこと=夢」をたくさん追い求めていると、それがいずれ仕事につながってくるのです。だから夢はひとつじゃなくていいんです。ひとつの能力だけで食べていくのは大変かもしれません。だったらたくさんやればいいんです。それがある日絡み合って、いつか食べていけるようになるかもしれません。

それに、ひとつの仕事を頑張ること=「一生懸命」ということだ、と思い込んで、人生で一度にひとつの仕事しかやらないようにすると、もしそれができなくなったとき、心が折れてしまいます。だから夢はいっぱいあったほうがいいし、仕事もいくつやってもいいとぼくは思うんです。

植松さん自作のペーパークラフトの一部

一度にやりたいことをたくさんやると、中途半端だと言われてしまいそうですが、そうではないんですね。

 中途半端はすばらしいのです。ぼくは散々「飽きっぽい」と言われてきました。「二兎を追う者は一兎をも得ず」とアドバイスしてくれる人もいました。でも途中で趣味をやめても、一度に好きなことをいろいろやっても、その経験は無駄にはなりません。先ほど言ったように、趣味で夢中だった経験や人脈が、将来やりたい仕事につながることがたくさんあります。

中途半端は、何もしないよりずっといいんです。本当はやってみたいけど、「やったことがないからできない」と諦めたり、何もしないでやらない理由ばかり言ったり、やっている人を批判したりするよりずっといいんです。

だから「飽きっぽいのはダメなこと」だと子どもを責めることはありません、せっかくちょっとでもやってみた子どもの自信を砕く必要はありません。ゼロより、ちょっとでもやったらすばらしい、とぼくはほめてあげたいです。

世界に3か所しかない植松電機の「無重力実験塔」

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植松努さんのお話、いかがでしたか? 次回はこの話の続きで、子どもの可能性を広げる出会いのサポート編をお届けします。

プロフィール


(株)植松電機 専務取締役 植松努さん

1966年北海道芦別生まれ。 子どもの頃から紙飛行機が好きで宇宙に憧れ、独学で飛行機やロケットを学び始める。北見工業大学で流体力学を専攻し、名古屋で航空機設計を手がける会社に入社。1994年に父が経営する(株)植松電機へ入社。1999年よりリサイクルに使う分別用マグネットを開発し全国シェア1位に。2004年、北海道大学大学院の永田晴紀教授とともにロケット開発もスタート。2006年、株式会社カムイスペースワークスを設立し、ロケットや人工衛星の研究開発で実績を重ねる。全国各地での講演やモデルロケット教室を通じて、人の可能性を奪う言葉である「どうせ無理」をなくし、夢を諦めないことの大切さを伝えている。2010年4月より北海道の赤平市にて「住宅に関わるコスト1/10、食に関わるコストを1/2、教育に関わるコスト0」の実験を行う「ARCプロジェクト」を開始。著書に『NASAより宇宙に近い町工場』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。

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